13やっぱりただの小学生じゃありません
いつも強気な彼らしくない態度は
多分四堂君自身、あまり触れられたくない
話題だったのだと気が付くのが遅くて
自分の軽率さにしまったと内心舌打ちをした。
だけど、彼は自分から言い出した事だからと
暫くの間を置いて、また話し始めてくれた。
「俺さ、他人に比べて早い時期に
話せたらしくって面白がった親が色々俺に
教えてくれたんだ。
そのうち周りが騒ぎだして
本格的にやるには、閉鎖的な
この国じゃダメだからって祖父の
勧めもあって渡米した」
「そうだったんだ」
「両親は流石に反対したみたいだけど
もう時すでに遅しで、俺も当時は
状況がよく分からなかったから
与えられるままに物を覚えるのが
楽しくて夢中になっていたら、
いつのまにか日本には
そう簡単に戻れなくなってた」
ただ淡々と彼は話を続ける。
「向こうに行っても
飛び級につぐ飛び級で当然、周りは
いつも自分より随分年上の人ばかり。
皆、親切にしてくれたけど
何処に行っても違和感を
感じ無い時はなかったかな」
「一度で良いから、普通の学校で
同じ年の子達と机を並べられたら
……そしたら、どんなに楽しいだろうって
無理言って向こうに休学届けを
出して短期間だけという条件付きで
日本の学校に通うことになった。
経緯が経緯なだけに両親は
俺に負い目を感じていてさ、
凄く気を使ってるのが分かるんだよ。
それが又、余計に心苦しいというか……」
四堂君は軽い溜息を漏らした。
「俺も親とはいっても殆ど一緒に
過ごしたことがないから、どう接して良いのか
正直分からない……変だろ?
理論とか数式とかは解けても、
自分の親のと向き合うことが
難しいとかホント笑えないよな」
「四堂君」
苦笑いをした彼が今までで一番遠く、
それでいて一番身近くにも感じた。
初めて四堂君とまともに話した気がする。
今まで俺は彼の上っ面だけを見ていた。
心の内を見せてくれた彼が本来の
姿なんだって気が付いた。
――いい子だ、凄く。
これまで変な先入観を持って
接していたのが申し訳なく感じるくらい、
彼は人として俺より遥かにしっかりしてる。
頭脳明晰で冷静かつ、素直で繊細。
大人びて見えるけど未だ子供で
まだまだ甘えたい年頃なんだ。
(可愛いな、四堂君)
「辛かったろ?
今まで一人でよく頑張ってこれたね。
これからはもっと甘えなきゃ。
俺も頼ってよ、友達になろう」
「…………?」
頭に手を置いてクシャと撫でると
四堂君は顔を上げて不思議そうな
表情を見せた。
「……初めてそんな事言われた」
「え?そうなの?」
あれ、なんか楽天的過ぎだった??
「ごめ、気負わずにいた方が
良いんじゃないないかなって
意味で言ったんだけど……。
他人事みたいに聞こえたよね?」
焦って言い訳する俺。
「アンタ、やっぱり変わってる」
そして、俺の指を握り返して
初めて俺に笑ってくれたのが
酷く印象深かった。
良かった。多分伝わってる。
そう思うと嬉しくて
俺もつられて笑い返した。
きっと弟ってこんな感じだ。
――その時そう思った。
少なくとも俺は……。




