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一章-6

ツンデレ難しいんですよねー…

「僕も戻らないと」

 リューイもリリアと同じ方へと歩く。

 そこで異変に気付く。

 先に転移門に向かったはずのリリアがなぜか門の前で突っ立っているのだ。

 転移門に扉はなく、開くのを待つということはない。なのに立ち止まっているのだ。

 リューイはリリアの元に駆け、事情を問う。

「どうしたの? リリア」

 リューイがリリアを見れば、ポケットに手を入れたりして何かを探しているようだった。

「……ない」

「何が?」

「……端末」



 端末がなければ転移門に入っても玄関までたどり着くことは不可能。つまり、このままだと校内には戻れない。

 端末を持たずに転移門に入ると迷宮入りすると言われ、恐れ多くて誰も試すものなどいない。それも噂でしかないわけだが。

「飛ばされたときに落としてしまったのかも……」

 リリアの言うとおり、その可能性は十分にある。誰かが拾ってわざわざここに来るとも考えにくい。

「どうするの?」

 さすがにリリア一人をこの場に残して、リューイだけが中に入るというのも気が引ける話である。

「そうね……入れないことはないわ。でも……」

「入れるなら今すぐ実行しよう」

「ば、バカじゃないの!? なんで私が初対面のアンタなんかと!」

 リューイがそう提案しただけなのに、リリアはなぜが顔を真っ赤にして焦り始めた。

「早くしないと遅刻しちゃうよ」

「で、でも……」

 リリアはさっきからモジモジしており、なかなかその〝入る方法〟を説明しようとしない。何をそんなにためらうんだろう?、とリューイは思う。



「じゃあ、僕もう行くよ?」

「ちょっ、待ちなさいよ!」

 冗談で言っただけだったが、リリアは本気で止めに掛かった。

「わ、わかったわ。実行すればいいんでしょ? 実行すれば!」

 なぜか少し怒り気味なことに、リューイは苦笑する。きっと情緒豊かな性格なのだろうと、予想する。

「じゃ、じゃあ……私と手を繋ぎなさい」

「…………や、やだなー。こんなときに冗談はいくらなんでも――」

「冗談じゃない! これしか方法がないのよ!」

 リリアは顔を真っ赤にし、くりくりした瞳に雫を溜めている。どうやら本当のことらしい……が、泣かれてはリューイの中に罪悪感が生まれてしまう。

 それに、まだ登校してくる生徒は他にいるのだ。

 この状況を見られてしまえば、〝闇天使ダークエンジェル〟は、〝罪無き女を泣かせる残虐な種族〟というレッテルを貼られてしまうかもしれない。



 それにしても、端末が無くとも入れる方法がなぜ手を繋ぐことなのか。

 この方法を実行するにはどちらかが端末を持っている必要がある。その状態で互いの体の一部を触れさせることで、2人の体が1つの体と認識され、中に入れる仕組みになっている。

 これは緊急事態のために、こういう仕様になっているようだ。そのことをリューイは知らないわけだが。



「わかったから泣かないでよ。ほら、手」

 リューイは焦りの色を浮かべ、すぐさま手を差し出す。それなのに、端末を無くした彼女はなかなかその手を握らないでいる。

「そんな簡単に手を……バカじゃないの……」

 リリアはうつむきながらそうぼやく。周りを気にするリューイにその言葉は届くことはなかった。

 彼女は自分の人差し指と、差し出された手の人差し指を絡める。先ほどの威勢が嘘のように、気持ちも体も縮こまっていた。

「よし、じゃあ行こっか」

 それを特に気にした様子もなく、リューイは彼女を引くようにして、転移門の中に歩みを進める。



 ーーシュイン

 聞きなれた小さなノイズが耳に流れ、やがて先ほどと同じ光景――生徒の大半はすでに教室移動しているが――が目の前に広がる。

「おー、ホントだ! すごいね。こんな方法があったなんて」

 よほど感心したらしく、まるで子供のようにはしゃぐ。いつの間にか絡めた指も離れていた。

 しかし、リリアはというとそうはいかなかった。うつむき、両手にこぶしを作り、肩をワナワナと震わせている。

 そんな彼の後ろで起きている出来事など気付くはずもない。

「ば……」

「ん? どうしたの?」

「バカあああああぁぁぁぁあああああ!!!!」

 リューイは思わず、ひぃ、と間抜けな声を漏らし、後ずさる。

 リリアは顔を真っ赤にし、目に雫を溜めていた。明らかに怒っているようだ。

 初めて手を触れた異性が初見の〝闇天使〟。そのことを全く気にしていないリューイに怒っていることは彼にはわかるまい。



「おうおう、どうした親友。痴話喧嘩か?」

 遠くから騒ぎを聞きつけた亮介がのんきにやってきた。

 そんな彼に、即座にリューイは助けを求める。

「そんなわけないよっ! 亮介なら彼女の怒りを沈められるよね!? 女の子が大好きなんだし!」

「今の言葉は聞き捨てならんぞ……。あながち間違ってはいないがな」

 そこは否定するとこなのだが、素直に受け止めるところは彼らしい。

 亮介はリューイの前に出て、30センチも背の低いリリアを見下ろす。

「レディーの探し物はこちらですか?」

 亮介はそう言うと、上品に右手をリリアの前に差し出した。その上には彼女の物であろう端末が置かれていた。

 それを見た瞬間、パッと顔を輝かせたが、それもまた仏頂面に戻る。

 なぜなら、わざわざリューイと手を繋がなくとも、彼に端末を取りに行かせばこんな思いはしなかったのだから。だが、今更そんな後悔をしていても仕方がない。

 リリアは亮介の手から端末を奪い取ると、フンッ、と鼻を鳴らしながら踵を返す。もちろんリューイを睨むことを忘れない。

 そのあとそそくさとカプセルに向かっていく。だが先ほど防犯セキュリティが作動した壊れたカプセルではなく、一つ左隣のカプセルを使用する。

 そして指紋認証を済ませたあと、

「大学部2年エータ組教室前。転移!」

 と、よく通る声で転移場所を指定する。

 エータ組といえば、シータ組に所属するリューイの隣の教室である。

 リリアは機械音声と共に、光の粒となって散布していった。

 それを、彼らはボーっと見つめるしかなかった。

嵐のように現れて嵐のように去るとはまさしくこのこと(*0ω0从*)

ここまで拝読していただきありがとうございます

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