一章-5
定番のラッキースケベさんの始まりです_(:3 」∠)_
――ズズズズー
やがて勢いがなくなり、芝の上に不時着する。
「いててててて……」
「いったーい!」
リューイと、彼の上に乗る女性は腰をさすりながら、痛そうに喘ぐ。
「ったく、なんで僕がこんな目に……」
「何よ、あのポンコツカプセル……」
2人はそうボヤきながら、目を開ける。そして互いの唇の距離、約5センチ。
彼女の甘い匂いがリューイの鼻腔をくすぐる。唇はとても艶やかで、どこか色っぽい雰囲気を出していた。
それを客観的に伺えば、リューイの上に女性が馬乗り状態。そしてキスする瞬間。その惨状に彼らはみるみるうちに顔色を変えていく。
そして、
「いいいいいいいやああああああああああああああ!!!!!!!」
女性はリューイの上から逃げるように降り、座ったままリューイの方へ右の手の平を突き出す。
ま、まさかとリューイが思った頃には、そのまさかのことが起きていた。
女性の手の平には黒い何かが渦巻きながら集結していき、やがてそれはテニスボール程の大きさになる。悪魔特有の黒い魔弾だ。
「え、ちょ、待って!」
「問答無用!」
リューイが必死に止めようと試みるが、女性は聞く耳持たず魔弾を発射した。
それはものすごい速さでリューイの腹部に直撃し、
「うわああああああああああああああああああああ!!!!!!!」
と、情けない声と共に1メートルほど後ろに吹き飛ぶ。小さな魔弾だったため、あまり吹き飛ばずに済んだらしい。
「いっったぁ……」
リューイは芝に着いた頭を起こし、打った頭を悶えながらさする。
テニスボール程の魔弾でも、相当な威力はある。それをまともに喰らったのだ。なのに特に目立った外傷はない。
それもそのはず、校内には保護魔法が掛かっているため、外部からのありとあらゆる攻撃を防ぐ。防ぐといっても、攻撃された側はノックバックで吹き飛んでしまい、その衝撃が大きければ気絶することもありえるわけだが。
ちなみにダメージは精神へと移行するようになっている。
その保護魔法のシステムだが、実は魔法ではなく機械のセキュリティだという考えや、この学園の校長が膨大な魔法を使っているなど、ありとあらゆる噂がある。
それらはただの噂にすぎず、本当のことなど誰にもわからないが。
「アンタ! 私に何するつもりだったのよ!?」
女性は芝の上に座りながら、女々しく自分の体を抱くように押さえる。
「僕は何もやってないよ! 君から一方的にぶつかってきたんじゃないか」
カプセルのセキュリティが発動し、それに飛ばされた女性にリューイが巻き込まれただけで、正真正銘リューイは何も悪くない。
「あれは仕方がなかったのよ! ポンコツカプセルめ……!」
あのカプセルの防犯セキリュティは、3回認証失敗すると作動するようになっている。
後にわかったことだが、やはりあのカプセルだけ壊れていたようだ。
「その……巻き込んで悪かったわね」
女性はそう言うと、よいしょと立ち上がり、スカートに着いたホコリを払う。
別にリューイは怒っていたわけでもないので、特に言葉を返すわけでもなくその場で立ち上がる。
「アンタ名前は?」
「え?」
女性の突然な問いに、リューイは疑問符を浮かべた。それを読み取ったのか、女性は続ける。
「もし怪我してたら悪いじゃない? だから互いの名前を知っておかないと」
「あ、そうだね」
保護魔法によって怪我をすることなどないのだが、絶対という保証はどこにも無い。
「あぁ、ごめん。私から名乗るべきね。」
女性は無意識なのか、右手で髪を耳に掛ける。今まで風でなびいていた髪でよく見えなかった顔が、今では露わになっていた。
目はクリクリとしていて、スラリと伸びる透きとおった鼻。そして細く綺麗に整った輪郭。
その幼い顔に似合ってか、一般女性の平均より少し小柄な体。凹凸の少ない胸。
一言で言えば美少女である。
「リリア・エリーダ。リリアでいいわ」
「わかったよ、リリア。えっと、僕はリューイ・ビクトリア・レイ。リューイでいいよ」
「リューイ……ビクトリア……レイ……」
リリアはリューイの名を確かめるようにゆっくりとつぶやく。そして、何か思い出した素振りを見せた。
「まさか……まさかとは思うけど、〝闇天使〟のリューイ・ビクトリア・レイ?」
「自分で言うのもなんだけど、どうやらそうみたい」
リューイはそう指摘され、照れくさそうに笑みを浮かべる。
〝闇天使〟はこの世に2人――つまり、リューイとエミリ――しか存在しないため、リボルガルド中で有名人なのである。有名人と言っても、テレビなどに出ることはないのだが。
「へー、人間と見た目が変わらないってホントのことだったのね。それはそれで期待はずれなんだけど」
「うっ……失礼なことしか聞こえてこないんだけど……」
初対面で失礼極まりないリリア。リューイ自身の中でそう認識させたのだった。
「希少種も見れたし、私は中に戻るとするわ」
「僕は天然記念物か何か?」
「実際そうじゃない。この世で〝闇天使〟がアンタと……妹もいるんだっけ? その2人しかいないわけだし」
「……」
その指摘はあながち間違っているわけでもないので、リューイは無言でいるしかなかった。
「じゃあ、機会があればまた」
リリアはそう言うと、先ほど飛ばされて出てきた転移門の方へと歩いて行った。
そう、リューイは天然記念物なのです!
や……天然ではないのかな?