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ユリスの花嫁と魔騎士  作者: 椙下 裕
第三章 ユリスの花嫁
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 朝起きて寝室を出て、ギョッとした。

 慌ててもう一度ドアを閉めて寝室に引きこもろうとしたんだけど、ルイーノが超笑顔で足を隙間に入れて阻止してきた。

 何この素早さ、侍女の動きじゃない。

 

「ハル様なに逃げようとしてるんですかぁ」

「いや、だって。なんか人いっぱいいるんだもん!」


 知ってる人もいた気がするけど、知らない人のがダントツ多かった!

 なんかワラワラと人がいた!

 

 もう一度そろーりとドアを開いて確認すると、やっぱりいた。見間違いじゃなかった。

 ソファには王妃様とラヴィ様、その後ろに数名のルイーノと同じ給仕服を着た女性が控えていた。

 

 どういったご用で、と聞きたいような聞きたくないような。

 

「そりゃいますよ。今からお披露目のお時間なんですからぁ」


 ふふふーと気の抜けるような笑みを浮かべつつ、目が笑ってませんねルイーノさん。


「おはようございます、お姉様」

「おはようございます……ラヴィ様、王妃様。いつもいつも朝早くにおいでくださって」

「ふふ、おはようございます、ユリスの花嫁様」


 ああ、今日も朝からこの母子は輝いてるわぁ。とっても自由で活き活きとしていらっしゃるわぁ。

 来る時には事前に一報をと遠回しに言っても聞いてくれやしない。


「さぁさ皆さぁん、獲物はこちらですよー」

「獲物だと。私の事かい!?」


 ルイーノが私の腕をガシッと掴んだ。え、ちょ、痛い。二の腕にルイーノの細い指が食い込んでとても痛い。血が、血が止まるってばよ。

 

 そして彼女の声かけに反応を示したのは、ラヴィ様達の後ろに控えていた侍女の方々だった。 ぎら、と目を光らせながらにじり寄ってくる皆さんがとても恐ろしい生き物に見えて仕方ないんだけど。

 

 え、え、なに? 私一体なにされるの?

 

「いやぁ! 私の貞操の危機が……助けてディもが」

「言わせませんよぉー、あの人ほんとにすっ飛んで来ちゃいますからねぇ」


 口を手で塞がれた。

 ディーノを呼ぶ事すら許されない。まさに八方ふさがりな私。ていうかディーノに頼らなきゃ未だに何も出来ないって、本当に私自身は無力だな。

 

 朝からどんよりした気分になりがら、引き摺られるようにしてさっき出てきたばかりの寝室に逆戻り。

 

「さぁさ、じゃあまず着替えからですよ」

「え、じゃあつい今しがたパジャマから着替えた意味は……」


 正確には夜着っていうんだろうけど、私はパジャマって言ってる。

 それから普通の服に着替えて部屋に出て行ったらまた着替えろって酷くないですかね。二度手間じゃないですか。

 

 私とルイーノに続いて入ってきた人達のうち一人が、にこやかに着替えを広げて見せてくれた。

 

「あ、完成したんですね」


 それは今度の祭りで着る用の衣装だった。

 スケッチというのか、完成予想図のような絵は見せられた事はあったけど、現物を見るのは初めてだ。

 

「本番にはこれに様々な装飾品を付けていただきます。其方は今最終調整の段階ですので、完成までもう暫しお待ちくださいませ」

「はぁ。まぁ無理しない程度でお願いします」


 王様の無茶振りのせいで、相当作り手さん達は苦労させられているだろうから。

 制作期間があまりに短い為に、話を持ちかけられた時には悲鳴を上げたり眩暈を起こしたりする人が居たらしい。

 本当に申し訳なくって……


 いいよ、何なら制服で踊るよ! って言いたいくらいだ。

 珍しい衣装って点なら、女子高生ルックでも引けは取らないはず。

 

 それにしてもです、この衣装っていうのが少し和装に近い気がするんだけど。多分気のせいではないんだろうね。

 過去に送られてきたという歴代のユリスの花嫁やら花婿が着ていたものを参考にしたって言ってたから。

 

 何でも、当時彼女らが着ていた服がまだこの王宮のどこかに残っているらしい。

 厳重に宝物庫に保管されているのだとか。

 まさか、私の制服も同じ末路を辿るのではないかとちょっとヒヤヒヤしている。

 

 いえね、もう卒業したしいらないっちゃいらないんだけどさ、三年間着続けて、スカートとかテカりが出て来てるし、裾のところも擦れてるしさ……宝物にされたりなんかしたら居た堪れない。

 

 ちょっと待って! 私の部屋のタンスの中にある一番上等なの持って来るから! どうせならそれを保管してて! って叫びたくなるわ。

 

 というわけで袴のような作りをした衣装を着つけられていく。

 此方の世界のクトウという国の民族衣装にもよく似ているのだとかで、そのクトウ国出身の侍女さんが慣れた手つきで着せてくれた。

 

 その人は、他の人達よりも容姿もどこか日本人である私に近いものを感じた。


「クトウは極東にある島国で、あまり大陸とは国交も少なく、彼女のように海を渡ってくる人はとても珍しいのですよ」


 しげしげと彼女を見つめていると、侍女頭である年配の女性が教えてくれた。

 ほほう、なるほどなるほど。鎖国してた時代の日本みたいな感じかな。

 ぱちりと彼女と目が合うと、控えめな笑顔を見せてくれた。

 

「そういえばホズミは?」

「お散歩ですよぉ」


 着付け終わった私の髪を梳きながら、ルイーノが答える。

 この頃、ホズミはお散歩がお気に入りだ。

 

 此処へ来た初めの頃は、この部屋から勝手に出る事が出来なかったホズミだけど、ユリスの力によって実年齢の大きさになった辺りからは、よく出掛けるようになった。

 

 獣族は恐れや侮蔑の対象となる。

 だから最初の内はホズミが危険な目に遭わないようにと自由に出歩く事をディーノが禁止していた。

 だけどホズミはもう十歳で、これまで一人で生きてきた実績もある。だから自己判断に任せていいだろうという結論に至ったわけだ。

 

 ホズミがこの部屋から外へ出て、一体どこでどう時間を潰しているのか私も知らない。

 私にベッタリだったホズミだけど、ここの所はそうでもない。彼の世界が開けてきた証拠だろう。

 

 正直言っていいかな。めちゃくちゃ寂しい!!

 うん、でもプライベートも必要だよね。過保護過ぎてもホズミをダメにしちゃうからね。と自分を必死で言い聞かせてる今日この頃。

 

 ディーノに愚痴ったらすっごい白けた目を向けられた。最近聖騎士さんの態度が冷たいです、まる

 

「興津さんとヨエルさんは?」

「さぁ? 敵情視察でもしてんじゃ無いっすかねぇ」

「自由だなぁ」


 そしてルイーノも適当だなぁ。一応興津さんは私付きの侍女設定のはずなんだけどなぁ。

 勝手気ままに出歩き過ぎだろう。いいんだけどさ。

 

 ヨエルさんは何時まで経っても私に心開いてくれないし。

 興津さん曰く「あんたの狼への愛情過多っぷりを見て慄いてんじゃないの」という事らしい。

 

 失礼な! 確かにもさもさ可愛いし大好きだけど、さすがにヨエルさんみたいな大人の男性にハァハァ……あ、してたわ。大分してた。そういやその度ドン引きしてた。ウサギの姿でも引かれてるって分かるくらい。

 

 うぅむ、動物と見ると見境なしに擦り寄りたくなる癖、どうにかしないとなぁ。でもホズミと出会ってから歯止めが効かなくなっちゃって。だってホズミ私が何しても嫌がらないでいてくれるんだもん。

 

「さぁさ、準備が整いましたよ! お披露目といたしましょー」

「おおおー!」


 鏡に映った自分の姿に、思わず拍手をしてしまった。

 白が基調なんだけど、うっすら藤色に染められ模様付けられている衣装。

 袴のようではあるのだけれど、神降ろしの舞とやらを披露しなきゃいけないから、動きやすいように工夫されている。

 

 そしておそらく、本番ではキリングヴェイの時と同じように、音の鳴る装飾が首や腕、足に付けられるんだろうね。髪にも。

 

 化粧もバッチリ施されてるし、馬子にもなんとやらだ。

 

「木偶にも」

「もうそれいいよ! 懐かしいネタ掘り起こさないで!」


 数か月前に私の心を抉ったネタを再活用しようとしたルイーノを阻止する。

 

 そうか。あれからもう数か月が経とうとしているのか。

 早いものだわ。

 そうそう確かあの後だったよね、ディーノと大げんかを繰り広げたのは。あれ以降、ディーノが頭を下げるようなけんかってそう言えばやってないな。

 

 大抵私が一方的に怒られ、ごめんなさいを彼に言うパターンばっかり。たまにホズミも一緒に怒られる。

 いつの間にディーノはオカン気質に成り果てたのだか。

 

「お待たせしました」


 再度リビングの方へと入る。

 そこにはいつもの如く優雅にティータイムをお楽しみ中のラヴィ様と王妃様。そして増えたのは王様とフランツさんだった。

 

「ほほぉーいっちょ前に綺麗に着飾ってんじゃないか」

「お久しぶりです、ユリスの花嫁様。とてもお綺麗で驚きました」

「フランツさん、お久しぶりです」

「おい何でフランツにだけ返事するんだ。俺は王様だぞ」

 

 いやだって、王様が意地悪そうにニヤニヤ笑いかけてくるんだもん。相手したくないなぁって思うじゃない。紳士万歳なフランツさんとお話ししようかなって思うのは当然じゃない。

 

 そして、私と同じように「そんなの当然じゃありませんか」と言わんばかりに、お澄まし顔で頷いたラヴィ様。

 娘の態度にショックを受けたサイラス王が、珍しく消沈した。何気に奥さんと娘大好きだよね、この人。

 

「で? 皆さんお揃いでどうしたんですか?」

「お前の晴れ姿がどんなものか見に来たんだろうが。本番で、どのくらい映えるのか確認しておきたかったからな。ハルのその黒の瞳と髪がよく際立つように出来ているかどうか。ま、上々ってところか」


 褒めるなら手放しで全力で褒めてくれないだろうか。

 なんとか合格点だな、くらいの感じで言われても嬉しくないよ。

 これでもかって着飾って、どやぁって顔で出て来たってのにさ。私とても恥ずかしいじゃない。

 

「ええ、想像以上にハル様の清楚な美しさがよく出ていると思います」


 フランツさぁぁぁぁん!!

 きらきらきらーっと私とラヴィ様から羨望の眼差しを受け、フランツさんは若干居心地悪そうに苦笑した。

 

「さてではユリスの花嫁よ、その恰好を是非教会の奴らに見せつけてやって来い!」

「えー嫌っす」

「おい!」


 だってぇ、あたくし何やら狙われてるらしいしぃ。


「降神祭の話を聞き付けて、各国から枢機卿達がここへと集まって来ております。多少の危険を伴う可能性もございますがいらしていただけますか? 勿論、聖騎士もご一緒に」

「分りました。フランツさんの頼みじゃ仕方ないです」

「おいハル、温厚な俺もそろそろ」

「ではディーノを呼んでいる間、衣装の最終調整を致しましょうか」


 ニコニコと笑顔で王妃様は王様の言葉をかき消した。そしてラヴィ様の後ろに控えていたマリコさんの方を向くと、マリコさんは頭を下げ部屋から出て行った。

 

 この国で一番逆らっちゃいけない人が誰だか分りました。

 


何か月ぶりか…遅くてすみません

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