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ユリスの花嫁と魔騎士  作者: 椙下 裕
第三章 ユリスの花嫁
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「慣れた慣れたとは思ってたけど、ほんっとディーノと居ると目立つわぁ」

「そうですか?」


 そうですよ。人に見られる事が当たり前過ぎて感覚が麻痺しているのかな。

 というか、人からどう思われるかとか、どう見られているのかとか、他人からの評価に無頓着なんだよね。いや、無関心の方かな……。

 とにかくディーノは気にしなさすぎる。


 なんの手違いでか異世界トリップしてしまっただけの、ただの女子高生にはアイドル並みの注目度は心臓に悪いです。

 

 しかも今は髪の色も黒じゃないし、侍女の姿をしているせいでいつも以上に周囲の目が突き刺さるようで痛い。

 

 何だよあの見た事ねぇ侍女。馴れ馴れしく聖騎士様の隣を堂々と陣取ってんじゃねぇよっていう女性の方々の殺意の籠った視線がすごいんだから。

 

 普段、ルイーノとかラヴィ様の様子を見ていたら、ディーノがモテるイケメンキャラだっていう事を忘れてしまうんだけど、こっちが当然の反応なんだよね。

 

 むしろルイーノ達がどうしてあんなにディーノに手厳しいのかって方が疑問だ。

 一度ソレスタさんに訊いてみたところ、同族嫌悪というものらしい。

 

 同族? なのかなぁ。

 

「着きました」

「え、ここ?」


 ディーノに連れて来られたのは、なんてことはない小さな部屋だった。

 日本の私の自室に比べたらそれはもう、ご立派な広さだけれど。


 でもこの城の中だと倉庫のようなものだと思う。雑然と物が置かれていて、誰かの部屋でもなければ、お客様を通すような感じもしない。

 

 部屋の中に入って色々と見回してみると、何気なく置かれているものに引っ掛かりを感じた。


 なんだろう。前にも何かを見て、こんな風になったのを覚えている。だけど、それも一体何時、どこでだったのか思い出せない。

 雑然と色々な装飾品が置かれているのを覗き込んでみる。

 

「これ……」


 そうだ。ここに置いてあるもの全部、街にある聖騎士がユリスの花嫁を召喚する儀式が行われる、あの建物の中にあったものばかりだ。


「あそこに置いておくのは危険だという意見が出て、暫くはここに保管する事になったんです」


 なんで? と聞くのはやめておいた。きっと興津さんが原因だろうから。

 あの建物は実はソレスタさんの術が施されていて、簡単に人が出入り出来ないようになっているらしい。

 

 だというのに、あのお騒がせ魔女様はあっさりと術を解除して我が物顔で住みついちゃったわけです。

 神の使いを召喚する神聖な場所だっつーのに。さすが無宗教国日本で暮らしていた人。

 

 もう一度ソレスタさんが術をかけても良かったんだけど、そもそもあの建物を王城内に移築した方がいいのではという話も出ていたとかで、施術を一旦保留してこちらに批難させた、と。

 

 で、なんでディーノは私にわざわざ見せようと思ったんだろう。


 壁際に無造作に置かれている背の高い置物の前に立つ。

 それは白い布を被せられていて一見して何なのか分らない。

 

 ゆっくりと布を引っ張ると、中から現れたのは大きな姿鏡だった。

 

 ちゃんと見た事は無かったけど、直感で分かった。

 そうだ、私はいつもあの場所に行くとこの鏡が気になって仕方が無かったんだ。


「やっぱりそれに惹かれるんですね」

「……やっぱりって?」

「その鏡は、この世界と異世界を繋ぐ媒介に使われるものです」


 枠取りは金で、見事な装飾や彫刻が巡らせてある豪華な鏡だけど、間抜け面の私を映し出しているだけで、特に変わった所は無さそうに見える。

 

 けれど。そっと鏡面に触れた瞬間


 私とディーノを映していたはずの鏡面が波打つように揺れて真っ暗になり、まるでテレビのチャンネルを変えるように急に全くこの部屋とは違う風景を映し出した。


 晴れている、けれどこの世界とは違ってどこか霞んだ空。

 次いで現れたのは背の高いコンクリートで出来たマンション。二階建てのハイツや民家。コンビニエンスストア。


 アスファルトで整備された道路を行き交う自転車や自動車。

 通行人はこの国の人みたいに掘りの深い顔ではなく、私と同じ……

 

「日本だ」


 ほんの数か月前まで日常だった風景が、鏡の中側に広がっている。車が道を進んでいくくらいのスピードで映像が移動してゆく。

 

 余り見慣れない場所から、どんどんと進んで行って、気が付けば私が通っていた高校の近くに来ていた。

 

 私がこの世界へやって来た時に着ていた制服と同じものを身に付けた女の子達が映ると、ディーノが驚いたように息を詰まらせたのが気配で分かった。

 

 分かったんだけど、私に彼を振り返っている余裕はない。

 ぺたりと両手を鏡に付けて食い入るように見つめていた。

 

 この映像は私に呼応しているような気がする。私が見たいものを見せている、そんな気が。

 だから……きっとこの先に居るのは……

 

 暫くすると、一人の女子生徒の後姿を捉えた。

 肩につくくらいの髪がフワフワと風に靡いている。背の高い彼女すぐに見つけられた。

 

 いや、私があの子を見つけられないはずがない。見間違えたりもしない。

 だって唯一無二の親友だから。

 

「香苗!!」


 思わず呼んでいた。届くはずもないのに大声で。

 すると彼女は振り返って、それから不思議そうに目を丸くした。

 

「香苗……」


 また鏡面が揺蕩って、映像が途切れた。

 私が見たかったものが無事映し出されたからだろう。そこで終わってしまった。

 

 きっとあの映像は現実のあちら側ではない。私の頭の中の映像だったのだろうと思う。

 卒業式から何か月も経っているのに、あの子が学校で制服を着て歩いているわけがない。

 

 脳内の映像だろうが何だろうが、そんなものはどうでも良かった。香苗が見れたのだから。

 

「ハル」


 いつまでも鏡から離れようとしない私の手を取って、自分の方を無理やり向かせたディーノは、私の顔を見て困ったように表情を曇らせた。

 

 困らせたいわけではないけど、涙が止まらない。

 ディーノは私の涙を丁寧な手つきで拭った。そして言おうかどうか少し迷う素振りをし、その後すぐ真っ直ぐ私を見据えた。

 

「大丈夫、帰れます。必ずハルをあの世界へと帰します……だから、泣く必要なんてありません」


 そう言って慰めてくれるディーノの、左右で違う色味の瞳がどこか切なげに揺れているような気がした。

 それに驚いてパチパチと瞬きすると、あわせて涙がこぼれるけど、気にせずディーノの頬に手を持って行った。

 

 ぺたりと手の平を当てて首を僅かに捻った。私が何を思ったのか察したディーノが苦く笑う。

 

「俺は泣いてませんよ」


 うん、だよね。ディーノは泣いたりなんてしてないって、分かってはいるんだけど、どうしても確かめずにはいられなかった。

 

 だってディーノがすごく辛そうな顔をするから。泣いてるんじゃないかって錯覚してしまうくらい。

 どうして彼がそんな表情をするんだろう。

 

 向こうの世界の映像なんて見ちゃったせいで、うっかりホームシックになっちゃった私に同情してくれているのかな。

 

 思えばブラッドは、ホズミやミケくんみたいな、一人ぼっちな子を放っておけない性質を持っていたわね。


 彼からしたら私も同じような、行き場を失って途方に暮れる迷子に見えるのかもしれない。

 庇護されるべき、か弱い存在に。

 まぁ弱っちいって所は間違ってはいないね。


 そしてブラッドはホズミやミケくんの結果をご覧の通り、ちゃんと二人共に居場所を与えた。

 

「ディーノの言葉を疑ったりしてないよ」


 困ってる子を見たら放ってはおけない、なんて善人じゃないけど、一度してくれた約束を違えるような人じゃない。自分で思っているより薄情な人でもない。

 

「ディーノが私を帰してくれるって約束してくれるなら、帰れる。そう思ってるよ」


 精一杯笑う。

 突然、懐かしい風景だとか友達の姿を見て、動揺しちゃったせいでみっともなく取り乱したけど……

 ちゃんと帰れるって信じている。というか、ディーノが帰してくれるって約束してくれたから、帰れないって不安は最近はあまり感じていない。

 

「ええ、約束は守ります。ホズミに嘘吐き呼ばわりされたくないですしね」

「ホズミ……?」


 急に出てきた名前に首を捻った。

 だけどディーノは苦笑するだけで、それ以上は何も言ってくれなかった。

 

 

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