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ユリスの花嫁と魔騎士  作者: 椙下 裕
第三章 ユリスの花嫁
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「お疲れ様でしたー」


 ルイーノが温かい紅茶を出してくれた。

 濃い濃い会合を終えて帰ってきた私は、くたくたになって自室のソファに倒れ込んだ。

 

 色々と話があちこち飛んで、纏めるの大変だったけど、セツカさんのおかげで興津さんとは争うことなく済んだ。

 やはり友人って存在は大きかった。


「ハル様ぁー」

「なに?」

「ホズミが臨戦態勢ですよぉー」

「え? わ、わー!! だめだめホズミ!」


 慌てて駆け寄り、ホズミの傍で果敢にも応戦しようとしていた兎を抱き上げた。

 その瞬間、ホズミが衝撃が走ったように身体をブルブルっと震わせる。

 ううむ、前途多難かも。


 暴れる兎をソファの上に降ろす。

 この子は興津さんと一緒にいた青年兎です。いや兎青年です。

 ウサ耳の綺麗なお兄さんとか、ニヤニヤしちゃうね!

 

「ホズミ、おいで」


 私もソファに座ってポンポンと膝を叩く。すると大急ぎでホズミがやって来て前足と頭をちょこんと太腿に乗せた。

 もう随分とおっきくなったホズミは、前と違って全身で乗る事は出来なくなってしまった。もう顔と前足だけで精いっぱいだ。

 

 犬っころみたいだのに、今じゃ立派な狼さんだよね。

 撫でてあげると尻尾を振ってくれる。ああもう、この素直に感情を表現してくれるのが何とも言えず可愛らしい。

 

 あ、違う違う。兎のお兄さんね。忘れてた。

 彼は取り敢えずこちらで預かる事になりました。

 

 それにしても一体どこでどうやって興津さんとこの兎さんは知り合ったんだろうね。

 私と一緒で、興津さんも獣族の言語は理解出来るみたい。

 

 かなり兎さんが興津さんに懐いているようだけど(一方的に)。どうやって手懐けたのか教えてもらいたいわぁ。

 この人私には全然心開いてくれないんだもの。

 目の前にふさふさがいるのに、ハグできないなんて辛すぎるわ。

 

 うん、また脱線したね。いかんね、ふさふさの事となると我を忘れてしまう傾向があるな私。

 

 興津さんやセツカさん達との話し合いは結構長く続いた。

 

 ユリスの花嫁である私と、こっちの世界に転生してきたセツカ・ロッカ――小谷 雪香――、そして人為的に神にされた少年に連れて来られた興津さん。

 

 この三人が同時期に集まった。しかもセツカさんと興津さんは日本での友人。こんな偶然はきっとない。作為的に集められたとしか考えられない。

 

 誰に? そう考えて思いつくのは一つだけ。神様に、だ。多分、ユリスだろう。

 

 マクシスの仕業かとも考えたが、それだと時間軸がおかしいのだ。

 マクシスは現時点で十六歳、セツカさんよりも年下だ。自分が生まれるより先に時間をさかのぼってセツカさんを転生させるなんて芸当は、さすがに出来ないのだそう。憶測だけど。

 

 因みにセツカさんは現在二十歳。

 セツカさんは日本で二十歳の時に事故で亡くなったのだとか。という事は四十年という時間を生きている計算になる。

 

 だけど日本で同級生だった興津さんは二十六歳。

 あれ? と思うけど、おかしくはないらしい。

 

 別に地球とこの世界が並行して時間を進めているわけではないからだ。


 話を聞いただけの私からすると、六年間で二十年分生きたという感覚なんだけど……

 

「はぁ!? 二十歳!? なにそれズルいじゃない、私も二十歳になりたいわよ!!」


 テーブルを力いっぱい叩く興津さん。

 彼女の感覚だと六歳も若返ったという事らしい。


「私も二十歳に戻って、あんたが急にいなくなったあの時からやり直したい……」


 拳を握りしめて、悔しそうにつぶやいた。

 二十歳という若さで突然の事故死。二人の様子からかなり仲が良かったようだし、友人が急にいなくなるなんて、セツカさんだけじゃなく興津さんにとってもつらかったに違いない。

 

 友達の事を思い出す。いつも馬鹿みたいな話ばかりしてて、ずっと笑ってるような友達。

 知り合ったのは高校に入ってからだったから、そんなに長い付き合いじゃない。

 だけど他の誰よりも近い距離で接してきた。

 

「まぁそんな事より。え、なんだっけ? 祭り?」

「上総、あんた何年経っても変わんないわねぇっ!!」


 勿論、いい意味で、ではなさそう。

 私と一緒でしんみりしかけていたセツカさんが、とても自由に話題転換させる興津さんに耐えきれずツッコミを入れる。

 

「もう街でも宣伝しまくってると思うけど、今度神降ろしの儀式と盛大な祭りあるのよ」

「ああ、街中大わらわね。降神祭なんて、取ってつけたようで怪しいとは思ってたけど、やっぱ瀬戸の花嫁が一枚噛んでたのね」

「ユリスです」


 この世界に瀬戸内地方はありません。あれ、そうだっけ? とすっとぼける興津さんに白けた視線を送る。

 やる気ないなぁ。一時は私を陥れようとする悪女キャラになりかけていたというのに。

 

 ディーノなんてあの一件で、興津さんの事相当毛嫌いしてるんだよ。

 今日だって私が興津さんに会いにいくの難色を示していたし。

 

 護衛であるディーノを何故置いてきたかと言うと、興津さん見た瞬間斬りかかりそうだし、絶対話がややこしくなるからと、セツカさんと相談した結果だ。

 

「で? 神様連れてきて、一体何をしようっての?」

「あんたの願いを叶えてあげるのよ」


 興津さんが目を見開いた。

 

「え、じゃあ宝くじの一等前後賞合わせて当ててくれるの!?」

「いいけど、それを叶える場合はこの世界で一生暮らせよ」

「意味ねぇっ!!」


 叶えてもらえる願いが一つだけという決まりはないんだけどね。

 ていうか、日本に帰りたいっていう事よりまずお金を要求してきたよ。すご過ぎる。

 

「上総は、王宮に乗り込んでお尋ね者になってまで、日本に帰りたいんでしょ!?」

「そりゃそうだけど、それはマクシスにやってもらうし」

「それが出来ないかもしれないのよ」

「はぁ?」


 怪訝な声を出した興津さんに、兎のお兄さんが長い耳をピクリと動かした。

 その耳をちょっと食ませて下さいと私は言いたい。

 

 そんな事を考えていたからか、セツカさんは私ではなくヒューさんと目配せした。

 今まで黙っていたヒューさんが頷いて口を開く。

 

「どんな理由で貴様がマクシスに召喚されたかは知らんが、奴は神などではない。禁忌を犯して出来上がった紛い物だ。見つけ次第拘束し、一生幽閉されるか秘密裏に処分されるかだ」

「あんな子供に、何言ってんのよアンタ」

「彼はロウランの国民だからね、ウチの国で勝手には殺せないけど、まぁあっちに引き渡しても結果はそう対して変わらないと思うわ。だから、上総を日本に帰すだとか、そんな余裕はないわ」


 うんうん、と頷く。

 説明お疲れ様です。私が下手に口出しするより大人達に安心して任せておいた方がいいと判断して、お口チャック中。

 

「その代わりに、この子に神降ろしをしてもらってユリスに上総を帰してもらえるように祈るの」

「それ、上手くいくの?」

「分らないわ。でも、本当にわたし達が神の意志で集められたのなら、神に帰してもらうのが筋ってもんでしょう」


 ついでに私も帰してもらえないかしら。

 私こそ、何の目的か分らないまま長々とこっちの世界に残らされてるけどさ。

 このマクシスの件が落ち着いたら、今度こそ帰してもらえるのかしら。

 

「……まぁいいわ。その儀式が失敗したら、今度こそ何をしてでもマクシス捕まえるまでよ。こっちで犯罪者になろうが日本に逃げたらこっちのもんでしょ」


 海外逃亡を図るのと同じような感じかしらね。

 ぼけっと話を聞いていると、興津さんが急にグリンと首を回してこちらを見た。

 美人さんに急に見つめられるとビックリする。

 

「あんた、ホントに神様呼ぶとか出来んの?」

「あーはぁ、まぁなんか、ふわっとした感じのノリで」

「絶対無理よこれ!! この子にそんな大役不可能よ!!」


 あははははー。

 その辺は本当に私にも分からないんだなぁ、これが。

 実質不可能だろうけど、ソレスタさんは正確な神降ろしの儀式の手順を踏んで、本気でユリスに出て来てもらう気構えで臨んでいる。

 

 奇跡が起これば、或いは。そんな感じ。



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