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ユリスの花嫁と魔騎士  作者: 椙下 裕
第三章 ユリスの花嫁
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お久しぶりです…


 王様が閃いちゃったせいで催される事になった降神祭。その準備の為に王宮も城下もなんだか騒々しい。

 予算組みをする宰相さんや警備の人員配置を任されているディーノ達騎士団の面々も頭を抱えていた。

 

「お前! そこ右に曲がってんだろうが、やり直せっ!!」


 罵声が響き渡っているのは、祭りのメインステージとなる舞台設置場所。

 今、特設会場となる部隊を大工さん達が作ってくれている最中だ。


 物々しいセットが組まれているのを見るのは圧巻だけど、私がこのステージに上がらなきゃいけないんだと思うと胃が痛い。

 キリングヴェイとは比べ物にならない大きさだ。

 

 あれはいかにも田舎の自治会のお祭りって感じだったもの。

 

 アイドルでも役者でもない私がまさかこんな大舞台に上がる日が来ようとは。

 私がぼんやりと作業風景を眺めていると、周囲の人達からジロジロと奇異な目で見られているのに気付いた。

 

 けれど特に珍しい事でもないのでスルー。そんなにこの髪が珍しいものですかねぇ。

 私からすりゃ、ピンクや水色の方がよっぽど目を引くと思うけど。

 

「ハル」


 呼ばれて振り返ると、セツカさんが手を挙げた。

 待ち人が来ました。今日はセツカさんとデートなのです。ついでにヒューさんもね。

 実は興津さんと思しき人の情報が手に入ったので、街へ確かめに行くのです。

 

 興津さんは一貫して黒の衣装にヴェールで顔を隠していたので、素顔を知っている人というのがいなかった。

 大抵の人はあの人のプロポーションにばかり目がいってばかりいたようだし。かく言う私もだけど。

 

 しかしそんな中でも「ちょっと変わった美人を最近よく見かける」という話を、王族お抱えの諜報部員さんが掴んできたのだ。

 たったそれだけなんだけど、時期的にも怪しいって事で私たちの出番。

 

 なんてったってセツカさんは興津さんの顔を知っているのだから。

 セツカさんの前世の高校の友人が興津さんっていう。

 何よその偶然、再会するにしたって異世界て! とツッコミを入れたくなる状況だ。

 

「なんだかんだ言って、セツカさんとヒューさんって仲良いんですか?」

「はぁ!? 何で!!」


 あ、いや……だって今日も連れだって来るし、ここのところ一緒にいるところを何度か見かけたから……、としどろもどろに説明する。

 怖かった。セツカさんの顔が般若みたいになった。

 

「ただの仕事だ」


 無表情に短くヒューさんが言った。これ以上ツッコんでくるなと含まれたような気がした。

 気になるけれど、確かにこれ以上深追いするのはよくないな。

 セツカさんのこの不機嫌具合から言っても。

 まったく、この二人は一体何があってここまで拗れてしまったんだろうねぇ。

 

「それで、上総はどこに現れるって?」

「本当に興津さんかどうかは分らないんですが、よく立入禁止になってるはずの場所に、ちょくちょく現れる女性がいるらしいんです」

「怪し過ぎるでしょそれ」


 そうですね。しかも現れる場所っていうのがまた意味深な場所なのだ。

 私がこの世界に落ちて来た、あのディーノが儀式を行っていた場所。

 

 大人二人の空気がギスギスしているせいで、居心地悪い思いをしながら現場までやって来た。

 ああ、ものの数十分だったんだけど、何時間も経ったような気分です。

 

 いつみても立派な建物。一度私が完膚なきまでにぶっ壊したステンドグラスも、ソレスタさんのおかげで今はもう元通り綺麗な姿に戻っているし。

 

 観音開きの扉を開けようと手を伸ばす。

 あれ? 扉に変な文字の羅列が刻印されている。前までこんなの無かったのになぁ。

 なんだろう、と思いながらノブを回した。

 

「あっ! いけない、離れて!!」

「え?」


 私がノブに手に触れた瞬間、バチっと電気が走ったような反発があって青白い光を帯びた。

 後ろにいたセツカさんが焦ったように警告を放つ。けれど、それは遅すぎた。

 

 目が眩むくらいの強い光に顔を手で覆った。

 

「……なに、今の……」


 視界がぼやける。目を細めながらセツカさんとヒューさんがいるであろう方を見た。

 

 そして絶句。

 

 セツカさんを抱きすくめるようにヒューさんが彼女を庇っていたのだ。

 おおお! と賞賛したい気持ちが半分、やるせない気持ちが半分。

 

 いや、あの。私。バチッてしたの私。扉開けようとして恐らく一番危険だっただろう人物は私だから。

 結局目くらまし程度で、後は静電気走ったなってくらいの衝撃しかなかったから良かったんだけどさぁ。

 これ本当に爆発とかしてたらヒューさんちょっと恨むよ。

 

「何よあれ。見せつけたいの? リア充爆発しろ」


 全くその通りですね。

 …………え?

 

「うわーっ!!」


 背後に人がいるの全然気づかなかったー!! 扉が開いていて、私のすぐ後ろで仁王立ちして腕組みする女性が居た。

 あ、あ、あ! もしかして、興津さん!?

 うん、さっきの物言いは間違いなく興津さんのはず!

 

 初めて見る興津さんの素顔は、やっぱり想像通り美人さんだった。

 

 染めた茶髪。日本人によくあるこげ茶の瞳。どちらかというとシャープな顔立ちだ。

 黒衣の魔女と言われてた時は露出過多だった衣装も、今は普通のこの世界で一般的に着られている、踝まで隠れるワンピースだ。

 

 確かに、これなら彼女が魔女だとは誰も気付かないだろう。

 

「ちょっとアンタ達、いつまでやってんのよ! マジ爆発させて欲しいの!?」


 痺れを切らせた興津さんが、ヒューさん達に野次を飛ばす。

 すっと長い杖を出してきた。やる気だ……! この人本気でるつもりだ!

 

 私と興津さんがガン見しているのに気付いたらしいセツカさんが、ヒューさんの鳩尾にナイス蹴りをかました。

 かわせるだろうに、素直に蹴られたヒューさん。

 

 ちょっと、ヒューさんが何をしたいのか私には解らなくなったよ。

 あなたはセツカさんの事好きなの? ただの腐れ縁なの? はっきりしなよいい加減。

 

 またラヴィ様とかに言って女子会開催した時に召集して説教でもしてもらった方がいいかもしれない。

 

「上総!」

「あん?」


 ヒューさんから離れたセツカさんが興津さんを見て目を見張った。

 そんなセツカさんに対して興津さんの態度の悪い事。腕組みしたまま、はぁ? と口をへの字に歪めている。

 

「誰よあんた」

「……雪香、小谷雪香こたにせつか

「せ、せつ子!?」

「セツカだっつってんでしょーが! あーもう、いつまでその名前で呼ぶ気よ!?」


 せつ子……。しかもイントネーションが関西なまりというか、あの涙なくして語れない有名な幼女のあの音なのよ。

 思い切り咽ちゃったわ。

 

「うわーせつ子だ、そのリアクションせつ子だわ! は? なにそれ、コスプレ? え、なにやってんのあんた? え、誰?」


 ものすごく興津さんが混乱している。

 せつ子だ! と断言した後で誰? って……。


「とにかく落ち着いて話がしたいので、中に入りませんか」


 目立つのです。ヒューさんもセツカさんも興津さんも! ついでに私の髪色も。

 ジロジロと人に見られながら話す内容でもないしね。


 いやでも、興津さんはお尋ね者だし、会った途端に戦闘になったらどうしようかと思ったんだけど、セツカさん達のお陰で回避出来た。

 リア充もたまには役に立つという事か。


 建物の中に入ると、兎族の青年もいた。こちらは警戒心むき出しに睨んできて、すぐに興津さんを庇うように前に出る。

 

 セツカさんの方もヒューさんがいつでも剣を抜ける体勢にいるし。

 ……おいちょっと待て、私は!? 私一人ボッチなんですが! ディーノー助けてー! なんだか寂しい。

 

「えーと、改めまして紹介を。こちらは王宮図書館員のセツカ ロッカさんです」

「ロッカ? なによ、どういう事?」


 訝しげに見てくる興津さんの、腕組みをしているその上にとてもボリュームのある胸が乗ってらっしゃるのに目が奪われる。

 D……いや、Eはあるな。じゃない、そんな事言ってる場合じゃない。

 

「説明するけど、笑わないでよね」

「いやもう、今の時点で笑いにしかならないでしょ。これ以上何言われても平気よ」

「……わたし、日本で死んで、この世界に転生したの」

「ぎゃははははっ!!」


 なんという、綺麗なテンプレ。

 セツカさんの「笑わないで」も前ふりだったのではと思わされるくらいだ。彼女にそんなつもりはなかったのだろうけど。

 

 指差して大爆笑する興津さんに、セツカさんは拳を握りしめてプルプルしている。

 

「転生? あ、前世がどうとか中二な事前言ってのってせつ子の事か!」

 

 覚えてたのか。私が思わず興津さんに言った事。

 友達が中二設定! とかドツボに入ってしまったのか、笑いの渦から抜け出せなくなっている。

 

「あーおかしい……。女子高生のユリスの花嫁に、ペテン師に連れて来られた私、それに生まれ変わってこの世界に来たせつ子。しかも私とせつ子は日本での友人。なにこれ、仕組まれたとしか思えないわね」


 漸く笑いを治めた興津さんが、私達を見比べながら考えるように呟いた。

 仕組まれた、という言葉が私の頭の中をぐるぐる回る。

 

 

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