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ユリスの花嫁と魔騎士  作者: 椙下 裕
第三章 ユリスの花嫁
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「マクシスは膨大な魔力を持ち、それを見込まれて神聖魔導師として教会に仕えていました。ですが三年前、マクシスの魔力が暴走し街を一つ巻き込む大爆発を起こしました。その爆心地にいた弟は消失しました。……跡形もなく消し炭となったのです。

ですがあいつが魔力を暴走させるなんてヘマを起こすとは考えられませんでした。有り得ない。私には魔力がありませんので魔術については何もしりません。ですがマクシスという奴なら嫌と言う程知っています。あいつが街を吹っ飛ばすような真似をするはずがないのです」

 

 拳を握りしめて胸の内を話すザイさんを皆黙って聞いていた。

 ザイさんがこんな長文を喋ってるの初めて聞いたわぁ。とか思ってるのは多分私だけだと思うけど。

 

「王子も同じようにお考えだったようで、私達は爆発について調べ上げました。すると魔力の暴走では片付けられないような、幾つもの不審な点が浮き上がってきました。……爆発は幾人もの魔術師によって禁呪を解放した副産物だったのです」

「ほぅ」


 禁呪という単語に全員が反応した。ディーノやソレスタさんは眉間に皺を寄せ、王様はザイさんの言葉を見極めるように目を細めた。


「つまり、マクシスとやらはそれに巻き込まれたもしくは、その禁呪を行った魔術師の一人というわけか」

「……大量の犠牲者を出した責任を押し付けられた事から考えて、術式を邪魔しようとして逆にしてやられたのでしょうか」


 冷静に分析するフランツさんだけど、心中はいくばかりか。禁呪を行ったのはまたしても同じ教会関係者の可能性が高い。

 ディーノの時といい、聖職者なんて名ばかりで裏で悪い事しまくってるじゃないの。

 

「いえ……その禁呪とは、人と神聖獣を融合させ神格化させる聖魔法。マクシスは多分……」

「馬鹿なっ! 幾ら教会が腐っているとはいえそんな、おいフランツお前が一番に否定せずにどうする!」


 声を荒げたのは意外にも王様だった。王妃とラヴィ様が驚いて目を見開いている。

 フランツさんは目を瞑って深々と溜め息を吐いた。

 

「畏れ多くも神を己らの手で作り上げる。聖職者に有るまじき神を愚弄する行為……。私とて否定出来るものならばそうしたいですが」

「じゃあ」

「ここ数年、一部の枢機卿等が不穏な動きをしているのは掴んでいます。まさか、ここまでの愚行に及んでいるとは思いもよりませんでしたけれど」


 額に片手を当てて沈痛な面持ちをしている。神を崇めつつ、己の思うままに動く神を作り上げようだなんて、何を考えているんだろう。


「なるほどね……。信じがたい話だけれど、確かにそれだと辻褄が合うわ。人の力で異世界から人を連れてくる事は出来ない。マクシスっていう子はもう、人間じゃなかったのね。神獣の力をもってすれば確かに可能かもしれない」

「となると、神を作り上げるのに教会は成功したという事か」

「さて、それはどうかしら? 力を得たとして、今その子が一体どんな在り様なのかは……残念だけどあまり期待出来ないわね。だって曲がりなりにも神なのでしょう? 何をしたいのかは知らないけど、わざわざ外界から無知な女の子連れてくるなんて回りくどい事しなきゃならないなんて変でしょう」


 禁呪が成功してマクシスが神様になったのなら、教会はどうしてその事実を隠しているんだろう。何らかの形で世間にその存在を知らしめなければ、わざわざ街一つを犠牲にしてまで禁呪を犯した意味がない。

 神殿の奥深くにひた隠しにしておいたって、神の力を存分に発揮できないだろうし。

 

 そして、彼等は神様に何をさせようとしているんだろう。興津さんを連れてきたのはマクシスの意志なのか、教会の指示なのか。

 まだまだ分らない事はたくさんある。

 

「……興津さんはマクシスをペテン師だって言ってたよね? あの人はマクシスと直接会って話をした事があるんじゃないかな」


 神様にあった事あるのか? と私が聞いた時の興津さんの答えは、あなたはあった事がないの? だった。

 あの時の彼女は心底不思議そうだった。興津さんはマクシスと接触して、彼に直接連れて来られたんじゃないだろうか。

 なら、マクシスが今どういった状態にあるのか、興津さんは知っているって事になる。

 

「魔女に詳しく話を聞く必要があるな」

「あらぁ、でも魔女様、あれからどこいっちゃったんでしょうね?」


 頬に手を当てて王妃様がうーんと考えている。

 そうなのだ。城内でドタバタ劇を繰り広げてから彼女はお尋ね者になり、すっかりと身を隠してしまったのだ。


 そんな遠くに入っていないだろうとは思うんだけど。城下町とかに普通に居そうな気もするんだよね。

 でも一言で城下町って言ってもその広さたるや。恐ろしく人員を割かないと捜索しきれない。

 

「マクシスに連れて来られたけど、今は彼が何処にいるか分らないから探しているのよね」

「そう言えばマクシスとの約束を果たさなければ帰れないと仰っていましたわ」

「……どうして興津さんはお城にわざわざやって来たのかな。ユリスの花嫁は自分だとか言ってたけど、ユリスはマクシスと関係ないよね」


 神様繋がりと言えばそうだけど。私がこちらに連れて来られた理由と、興津さんが来たのと何か関係があるんだろうか?

 

「結局彼女に直接訊ねるしかないわけだな。ふむ、仕方ない。じゃあここは一つ魔女を釣ってみるか」


 釣り? 王様の提案に約半数は意味が分らず首を捻り、あとの半数は頬を引き攣らせた。

 

「餌はユリスの花嫁殿だ。でっかい釣竿で引き上げてやろうじゃないか!」


 うっわー、なに言ってやがんだこのオッサン。なに? 何よ私が餌って!

 彼女が探してるのはマクシスでしょうが!

 嫌な予感しかしないので、ブンブンと頭を振って協力を拒否してみたけど、聞いちゃいない。

 王様はニヤニヤと悪い笑みを浮かべながら「どうしてやろうかなー」と計画を練っている。

 

 やめれー!!

 

 私の脳裏にキリングヴェイの惨劇が過ぎる。あの時はよくもよくも!

 結果的には避けては通れない必要事項だったのだろうとは理解しているけど、それにしたって酷い目遭わされたのだ。

 

「よし決めた! 教会全面協力の元、ユリスの花嫁に神降ろしの儀式をしてもらう!」

「……はぁ!? え、かみおろしって何!?」


 大根おろし的なものですか!? 何をゴリゴリ擦ったらいいんですか! 紙? 紙であってくれ!

 

「神を地上に降臨させるに決まってんだろうが」

「出来るかー!!」

「つべこべ言わずやれ。神聖魔術師がやったんだ、ここに賢者と聖騎士が居て出来ないわけがないだろう!」

「いや、ていうかそれやったら街吹っ飛ぶんじゃないの!?」


 聖獣と私を融合させるとか、そういう話ではないのだろうけれど。でも神様降臨とか超絶大技が成功しちゃったら街といわず国ごとドカンといっちゃったりしないのか。

 

「魔女だけじゃなく枢機卿もあぶり出そうって魂胆なわけね。まったく、やる事為す事派手なのよあんた」


 ソレスタさんが髪を弄りながらぼやく。でもどこか楽しそうに笑っている。

 

「教会からも力のある魔術師を何人か出してもらうからな、フランツ」


 フランツさんが黙って頭を下げた。彼のせいではないのに、マクシスの事件を負い目に感じているのだろうか。それとも自分が所属している組織の暗い闇が明るみになってショックなんだろうか。

 さっきからフランツさんの表情が冴えない。

 

「我々にも協力させて下さい!」


 フェイランくんが力強く言った。

 

「もちろんだ。馬車馬の如く扱き使うからそのつもりでな」

 

 ちょ、えぇ!? 賓客でしょ!? 他国の王子様だよ! ちゃんとそれなりな扱いしてあげてよ馬はないよ!

 ざわめく周囲をものともしないマナトリアの国王様は絶好調です。

 

「神降ろしの大業に、神モドキにこの世に連れて来られた魔女と、神モドキを作り出した教会暗部が黙っているはずがない。動きを見せた所を一気に叩く」

「叩くんじゃなく捕まえて下さい」


 おお! なんという冷静なツッコミ! しれっとディーノがサイラス王に反論した。

 言う時は言う人だねディーノ。


 ラヴィ様が不思議そうにディーノを見上げている。あらちょっとは見直したのかもしれないね。

 口答えをして見直すってちょっと意味分からない気もするけれど。

 

「さぁて、またハルちゃん忙しくなるわよー」


 それはもう楽しそうにソレスタさんが、極上の笑みを私に向けた。

 ああ、嫌だ……。私の平穏な日常っていつになったらやってくるんだろう。

 

 


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