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ユリスの花嫁と魔騎士  作者: 椙下 裕
第三章 ユリスの花嫁
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 ディーノが私の部屋にやって来たのは夜更けの事。

 王様やソレスタさん達に昼の出来事を報告した結果、明日の午前中に皆を集めてフェイランくん達から事情聴取するで参加して下さいという伝言だった。

 

 なんでわざわざそんなん言いに来たんだろう。別に明日の朝言ってくれるんで全然問題ないのに。

 分刻みのスケジュールで生活してるわけでなし。

 

 と思ったら、他に伝えておきたい事があったらしい。

 どう切り出そうか、とちょっぴりそわそわしてるディーノ。正直気持ち悪いよ。良い歳した男性がさぁ、可愛くないんだよ。

 そういうのはやっぱホズミがやったらいいと思う。あ、やべ、想像だけですっげぇ萌えるわ。

 

「あの、ハル……」

「はい」


 涎を拭きながら答える。一瞬ディーノがこいつ何やってんだみたいな顔したけどまぁいいか。

 

「昼間は申し訳ありませんでした」

「はい。え? はぁ、なにが? 何かあったっけ?」


 申し訳ありませんとか、そんな畏まらないといけないくらい失礼な事されたかな?

 記憶にございませんとしか言いようがないんだけど。あ、いやあった。ありましたね、思い出した。

 

「よくもディーノ! 黙っていて下さいとか酷い事言ってくれたわね!」

「いえそれについては謝りませんが」

「何でやっ!!」


 それじゃないんかいっ! 私が根に持ってる事なんてこれくらいなんですが!

 ていうか謝らないって即答しやがったよこの人、どういう神経してんのよ。いやこういう人だったわ、ブラッドは。

 

 グーに握りしめた拳を振り上げると、あっさりと一回りは大きなディーノの手に捕まれてしまった。

 

「魔女がユリスの花嫁じゃないかと不安にさせてしまった事です」


 あ、それか。はいはい、と二三度頷く。

 

「確かにちょっとびっくりしたけど、あれは仕方が無かったじゃない」


 みんなに手っ取り早く本当のユリスの花嫁は誰なのか、答えを出すにはあの方法が一番良かった。

 興津さんは自分が違うっていうのは百も承知で私達を騙そうとしてたんだから、先に聖剣の原理をバラしちゃうわけにもいかなかったし。

 私も知らなかったから相当ビビったけどね。

 

「びっくりした、という顔じゃなかったでしょう。ハルはあの女を信じた。あんな言葉を簡単に鵜呑みにして」


 でぃ、でぃーのさん……? あのすっごい眉間に皺よってんですけど。さっきまでホズミが悪戯を見咎められて「ごめんね、ごめんね」って謝ってくる時のような表情してたくせに、なんか険しい顔になってるんですけど。

 

「俺のユリスの花嫁はハルだと何度も言ったはずだ。なのに何で信じた、何で勝手に傷ついた」

「えと、ごめんなさい」


 反射的に謝ってしまったけど、どうして私が悪い事になってんの!?

 納得できない! これは言ってやらねばとディーノを睨みつけようとしたら、先手を取られました。すっごい睨まれてました。ぎゃー怖いよサーセン!!

 

「たった一人で何も知らないまま異世界に連れて来られて不安なのは分かる。何をしていいのか分らない焦りがあるのも理解している。でも、間違いなくハルがユリスの花嫁だ。俺が必要としているのはお前だけだ」


 す……すごい台詞を言われたような気がするのですが。告白されたような錯覚に陥りそうなんですが。

 ぐわ、クソ! ディーノの外見が無駄に男前なのが憎い。トキメキそうになるじゃないの。やめてよ、心臓どきどきする。

 なんの乙女ゲーよこれ。友人が見たら狂喜乱舞しそうだわ。

 

 握られたままの手を引こうとしたんだけど、逃がさないとばかりに更に強く掴まれた。

 ディーノの手がすごく熱く感じる。二次元みたいに非現実的なキャラのくせに、こんな生身のリアルな住人だと意識させないでほしい。

 

 ずっと分かってたつもりだけど。異世界トリップしたって、こっちにはこっちで生きている人がいて、その人達は別にバーチャルなわけじゃなくて、地球で生活してる人と何一つ変わらないんだって、分かってた。

 だけどやっぱり心のどこかでこの世界はゲームとか物語の中のような感覚があったのは否定できない。

 

 そうやって一線引いていないと、絶対いつか私はつらい選択を強いられることになる。そんな予感があったから。

 この数か月間ずっとそうやってやり過ごしてきたのに、今更やめてほしい。

 

「ディーノ、私は」

「ハル」


 私の言葉を遮ってディーノが呼ぶ。

 

「俺はこの先何があっても絶対にハルを守る。俺の人間には過ぎた力はその為にあると思ってる。だから、……必ず使命を果たしてハルを元の世界に戻すから。約束する」

「……うん、ありがと」

 

 ディーノには何でもお見通しなんだなぁ。私の葛藤とか迷いとか、全部手に取るように分かっちゃうのかもしれない。

 分かってくれて、ちゃんと言葉にしてくれる心遣いが嬉しい。

 

「ハルー、まだ寝ないの?」


 目を擦りながらフラフラと寝室からホズミが出てきた。

 はっと我に返ったように私とディーノは同時に手を離してホズミの方を向く。

 

「ああごめんね、起きちゃった? 私ももう寝るよ」

「俺も、そろそろ自室に戻ります」


 ディーノは騎士の寄宿舎の方に部屋があるらしい。

 城の外にも一応住まいはあるんだけど、殆ど帰って無いとか。仕事忙しいもんね。

 

「おやすみディーノ」

「おやすみなさい」


 ペコリと頭を下げて出ていくディーノを見送る。

 その背に向かってホズミが何かを呟いたんだけど私にはよく聞こえなかった。

 

 ディーノにはちゃんと届いたらしく、僅かに顔だけで振り向いて苦笑していた。

 一体何を言ったのかしら。

 


すみません、短くて

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