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ユリスの花嫁と魔騎士  作者: 椙下 裕
第三章 ユリスの花嫁
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 急遽開催される事となりました、この円卓会議。実況はこの私、ユリスの花嫁こと葛城 悠がお届けします。

 ちょっとした思いつきから始まった食事会は、そんな畏まった雰囲気の中で催されております。

 

 天気がすこぶる良いからと、外でお食事パーチーを開く事と相成りました。

 一流の腕を持つ庭師の方々が丹精込めて整えた庭園でそこまで品数は多くないにしても、贅沢なラインナップの料理がテーブルに並べられております。料理名は私にはいまいち分りません!

 なんちゃらのソテー秋風にのせて~みたいな。


 食卓を囲っているのは私とホズミにラヴィ様そしてフェイランくん。

 マリコさんとディーノとザイさんは後ろで待機。

 いや見張られながら食べるのとても嫌ですって言ったんだけど聞き入れてもらえなかった。

 

 流石に一国の王女王子と同席は許されないらしい。なら私とホズミは何なんだっていう。あ、私はユリスの花嫁か。

 

「フェイランくんって食べ物好き嫌いないの?」

「はぁ!? あるわけないだろ! 馬鹿にしてるのか!」


 何故そんなケンカ腰。ちょっとした話題作りなだけなのに。あ、そうかラヴィちゃんが居るから緊張してるのか。


「ホズミはトマト苦手だよね」

「……ぶちゅってなる」


 初めて食べた時の触感を思い出したのか、苦々しい顔をしている。

 いやぁあの時のホズミのリアクションは最高だったよ。リンゴみたいなのを想像してたらしくって、思い切りかぶりついたら中からドロッとしたのが飛び出してくるし、独特の酸味があるしで暫く固まってから、ブルブル震えてた。

 

 吐き出していいのか飲み込まなきゃいけないのかみたいな葛藤をホズミがしている間、私は必死で笑いを堪えながら観察してたともよ。

 

「慣れないと食べにくいものね。でもトマトは頭良くなるから食べなきゃダメよ?」


 なんかラヴィ様が、お母さんが子供にどうにか食べさせようして言う、非科学的で根拠の無さそうな説を語っている。

 だから貴女はホズミのどういう立場の方なんですか。

 

「ラヴィちゃんは?」

「虫は食べません」

「大抵の人はそうじゃないかな!」


 たまにテレビでイナゴだとか芋虫みたいなのとか油で揚げちゃう料理紹介してたけどさ!

 ごく少数派だと思うよ虫食べる人。

 フェイランくんが口を手で押さえて視線を彷徨わせている。ちょっと想像しちゃったね君。

 

 因みにホズミは、食べないんだ? みたいな顔をしている。流石狼。

 そういや家の近所で飼われてた犬も、目の前をウロウロしてたカマキリをハムハムしてたなぁ。

 

 食材の話をしているのに、どうしてだか食事中にしちゃいけない話になってしまった。

 

「あらあら皆さんお揃いで」


 微妙な空気が流れだした時、ある意味ナイスタイミングで声を掛けられた。

 振り返ると、王妃様がお付の方が差す日傘の下に佇んでにっこりと微笑んでいらっしゃる。

 出た……トラブルメーカーならぬ第二のフラグメーカーが!

 

 王妃様は表立っては目立った動きはないんだけど、話を聞いてたら、おいちょっと待て! という事が多い。

 ラヴィ様に城下町で演劇があると教えたのも王妃様だし、キリングヴェイに行くソレスタさんにホズミを同行させるよう頼んだのも王妃様だったんだと後で聞かされて身震いしたよ。


 実は裏で糸引いているというか、いっちょ噛んでいるというか。

 ラヴィ様との血の繋がりを強く感じさせるエピソードだね。

 

「酷いわ、私も誘ってくれればいいのに」

「だってお母様は先客がいると聞いていたのだもの」


 誘うつもりではいたのかと、ラヴィ様以外全員の目が遠くなる。どんだけ緊張を強いるランチにするつもりだったの。

 

「そうだわ! 折角だし皆さんもご一緒しません? 私、今巷で話題の魔女様をお招きしましたの」


 手を胸の前で合わせて名案とばかりに王妃様がはしゃぐ。

 

「魔女、ですか?」

「ええそうよ。なんでも未来を予見出来るのだとか」


 ビンゴだ! 思わず立ち上がってしまった。王妃様が言っているのは黒衣の魔女に違いない。

 なんでも魔女さんの噂は宮中でも有名になってきているらしく、興味を持った王妃様が使者をやって呼んだのだとか。

 

 勿論身元の割れない、しがない一介の占い師なんて怪しいものだから、かなり厳重な警備を敷くらしいのだけれど、そこまでして会いたいかと私は言いたい。

 でもこれは飛んで火に入る夏の虫というやつじゃないの!

 

 ディーノを振り返ると、若干眉間に皺を寄せてはいたけれど、頷いて許可をくれた。

 

「私も魔女さんに会ってみたいです!」

「まぁ! ユリスの花嫁と魔女の対決ね! 楽しみだわ」


 いえ別に闘ったりしません残念ながら。ただどんな人なのか直接見て確かめたいだけ。

 魔女というくらいなのだから、きっと彼女の能力の源は魔力だろう。だったらディーノにお任せ!

 騎士としてだけでなく、今やソレスタ様に負けずとも劣らない魔力のエキスパートだからね。彼に魔女さんの力が本物なのかどうか分析してもらえばいい。

 

「魔女様もね、神様の使いだと仰っているのだそうなのよ」

「は?」

「だから新旧対決ね」


 いえだから対決はしませんってば。ていうか私は旧か、旧なのか!

 

「お母様、魔女が神の使いだと信じているのですか?」

「さぁ。それは一度見てみないと分らないわ。だからね、直接会ってお話してみたいと思ったのよ」

 

 うふふ、と微笑む王妃様はやっぱり一国の母であるだけあって、只者じゃなかった。

 自らを神の使者と宣う者を見定めようとするなんて。

 

「もうそろそろ来るはずなのだけれど。楽しみになって来たわ」


 どうやらここで魔女さんを迎え撃つらしく、王妃様は当然のように空いていた席に腰かけた。

 

「フェイランくんはどうする?」


 途中から置いてけぼりを食らっていたフェイランくん。このまま居たら次何時解放されるか分かったものじゃない。興味がないなら今のうちに退散した方がいい。

 

 フェイランくんはチラリとザイさんに目配せしてから「御一緒させていただきます」と王妃様に頭を下げた。

 あれ訊いたの私なのに。まぁいいんだけどさ。一番偉いの王妃様だし。

 

「でも、魔女なんて明らかに怪しい人間を王宮のこんな奥まで連れてきちゃっていいんですか?」

「失礼致します、黒衣の魔女様をお連れ致しました」

 

 あ! 重要な部分を訊きそびれてしまった。

 侍女さんに連れられてやってきた黒尽くめの女性。

 

 頭はフードを被って更に目元まで黒レースのヴェールで隠されていて容姿は分らない。

 だけど鼻より下だけ見ても、美人さんである事は分かる。

 透き通るように白い肌と、桃色の口紅がひかれた唇がとても色っぽいのだ。

 

 一番色っぽいのは胸か足か……。魔女らしいローブを着てはいるんだけど、胸元はガバッと開いていて谷間がとてもセクスィー。

 ローブの腰より下は前が膝くらいの丈なのに対して後ろは踝くらいまであるデザイン。

 美脚が引き立っていますね。

 

 おお! と身を乗り出したのは私だけで男性陣は冷静に魔女を観察していた。

 あれれ? おかしくないですかね。大興奮した私が変みたいな空気になっちゃってますけど。

 

「初めまして王妃様皆々様、わたくしカズサ オキツと申します。占い師として身を窶している者でございます」


 優雅に腰を落として礼を取った魔女さん。

 全員が黙って見守っている中、私だけがまた反応した。

 

「かずさ おきつ……おきつ かずさ?」

「はい。興味のきょう、津波のつ、上下のうえ、総動員のそう。興津 上総。日本人です」


 にっこりと彼女の口角が三日月のフォームを描く。

 にほんじん……。どくりと心臓が大きく脈打った。

 

「ぜ、前世が日本人とか?」

「はぃ? 前世!? ぶはっ、あんた面白いこと言うわね漫画の読み過ぎだし! 中二病!?」


 ウケる! とお腹を抱えて爆笑する魔女さん、ねぇさっきまでの畏まった態度どこ行ったの。

 でも、漫画とか中二病とか言うって事は、少なくともこっちの人じゃなくて日本人なのは確かだ。

 魔女さんにセツカさん紹介したらどんなリアクション取るんだろう。どきどき、ちょっと楽しそう。

 

「失礼しました。同郷の方に会えた嬉しさでつい」


 嬉しいなんて感情は無かった絶対無かった!

 私達の会話の意味が分らずみんな反応し損ねていたのだけれど、魔女さん改め興津さんの『同郷』という単語に大きく目を見開いた。

 

「お姉様と同郷と仰いました? お姉様はユリスの花嫁なのよ分かってらして?」

「ええ。よぉく理解しておりますよ、王女様。この世界でたった一人、私と同じ異世界から連れて来られた日本人。彼女はまだ高校生かしら?」

「卒業式の日に連れて来られました!」

「マジで!? 日本人卒業しちゃったんだドンマイ!」


 このお姉さんさっきからすぐキャラ崩れちゃうんだもん、面白いわぁ。

 日本人だっていうのとこのキャラ立ちのせいで、既に私は親近感湧きまくりなんですが。

 ホズミとディーノが警戒を解いていない気配がするので、まぁ彼らに任せておけばいいか。

 

「俄かには信じられません。異世界の扉を通って来る為には神の力が必要なはず。私はハル以外呼んでおりません」

「そうねぇ、聖騎士の呼びかけがないと花嫁は来ないものねぇ」


 おっとりとした喋り方で王妃様がディーノに同調する。

 その通り。私だってディーノというかブラッドのせいで型破りな感じで異世界入りしちゃったけど、なんにせよ聖騎士が行う儀式で来た。

 

「神の花嫁とかその呼び名のセンスの無さはこの際置いておいて。私こそがそれだった、とは考えられませんか? その子はただ誤送されてきただけ」


 …………はい?

 なんかすごい事言われたような気がする。

 

「そ、その発想は無かった……」


 誤送。誤って送られる。つまり私はこの世界に来なくていい、来ちゃいけなかったのに何の因果かディーノのところに落ちてきちゃった。

 しかも興津さんがよく分からないけど、違う場所に転送されたか何かであの儀式の場に現れなかったせいで、人が入れ違っているのに気付かなかった?

 

 ユリスの花嫁であるかどうかの区別は、異世界人であるかどうか。

 じゃあ、私は一体今まで何のために――

 

「突然現れた女に言など信じられないのは百も承知で申し上げております。しかし、そこの少女。確かにその黒髪と雰囲気は日本人に違いないでしょうが、こちらに送られてきてから今までの間に一体何を成しましたか?」


 さっきまでのフランクな態度を一転した興津さんは無感情に問う。

 ヴェールで隠された目が鋭く私を見据えている気がして息が詰まった。

 返す言葉がない。私こそがずっとずっと引っかかっていた事なのだから。一体何を成す為に呼ばれたのか。

 

「私には確固たる神に与えられた力があります」

「それは、未来の予言の事を言っているのか」

「予言などと大それたものではありませんが、ほんの少し未来が見えるのは真実です。町の人々の下さった評価は王妃様のお耳にも届く程と自負しております。それに、それだけではないのですよ?」


 どこから出したのか、興津さんは背の丈ほどもある、綺麗な細工が施されている木の杖を手にしていた。

 

 地面につけると、しゃらんと装飾品が揺れて音が鳴る。

 すると途端に彼女の周りが紫色に光り出した。

 

「なっ!」


 それはソレスタさんが魔術を使う時と同じ光景だった。

 ただ魔法陣はなく、ただ無数の球体の光が興津さんを囲んだかと思うと一層眩く輝き、彼女の姿を消した。

 

「ちょっとした転移です」


 全員が固唾を飲んで彼女が消えた場所を見守っていると、全く真逆の方向から声がした。

 一斉にみんな振り向く。

 するとクスクスと笑う黒衣の魔女が私達の真後ろに立っていた。

 

「異世界人が魔術を使うのか……」


 一体誰が呟いたか分らない。私もそうだし、みんなも思った事だった。

 


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