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ユリスの花嫁と魔騎士  作者: 椙下 裕
第三章 ユリスの花嫁
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 黒衣の魔女が王都に現れたのはほんの最近の話らしい。

 ある日大衆食堂、というか場末の酒場にふらりと現れ、そこにいた男達に賭けをもちかけた。

 簡単なカードゲームで、勝ちに勝ちまくった魔女はそこいら中の男から金を巻き上げたのだそうだ。

 イカサマじゃないのかと詰め寄る輩に彼女は言った。

 

「私は未来が見えるのよ。だから負けないの」

 

 誰も信じなかったが、付け入る要素としては十分で、先が読めるのならばやはりそれはイカサマじゃないかと捲し立てた。

 だが魔女は一度手に入れた金は私のものだから返すわけにはいかないと突っぱね。

 

 その代わりに貴方の未来を見てあげようと提示した。勿論口から出まかせに違いないと取り合わなかったが、彼女が次に言った言葉に男は凍りついた。

 

「貴方の娘さん、明日の夜結婚したい相手がいるから会ってくれって言うわよ。覚悟しときなさいね。それと、娘さんが可愛くて手放したくないからって反対するのはお勧めしない。縁切って出ていっちゃうわ、貴方と奥さんの時みたいにね」


 にんまりと口角を上げて微笑む魔女は、怪しくも艶やかだった。

 何を馬鹿なと罵ろうとしたけれど、男に溺愛している娘がいるのも事実で、実は男がいるらしい雰囲気も何となくは察知していた。

 

 だがこんな話を誰にもした事がなかったし、娘の知り合いにいかにも怪しげな魔女がいるとも思えない。何より、自分と妻の結婚当時の事をどうして知っているのか。

 ゾクリと背が粟立つ。

 

「掛け金を返す返さないの話は、明日以降で良いかしら?」

 

 何でもないように言ってのけた魔女は、反論も許さず金を持って酒場から消えた。

 

 そしてその翌晩、魔女の言う通りになったのだった。

 その噂は酒場での男の知人を発信源として瞬く間に広がっていった。

 

 お金を積んで自分の未来を占ってくれというものが後を絶たなくなり、今では昼夜問わず大繁盛の占術屋だ。

 

「名は絶対に名乗らないのだそうです。それと、よく兎族の少年と共にいるところを目撃されているとか。そのくらいでしょうか……彼女自体の情報は殆どないに等しいですね」

「よくもまぁ得体の知れない人物の言を皆さん鵜呑みに出来るものだわ」


 報告書をざっと読みあげるマリコさんの話を聞いてラヴィ様が腕を組んだ。

 納得がいかないわ、と眉尻を上げている表情もなんて可愛らしい。

 

 あんまりにも怪し過ぎる黒衣の魔女について調べてもらった結果、とんでもなく何か事件を起こしそうなフラグを立てまくっている人だという事だけが分かった。

 

 それ昔っから漫画やアニメでよく見かけるパターン! ってくらいベタに怪しい人物だ。

 

 まぁでも、毎日あんなにも大勢の人を占ってもなお、未だあの人はインチキだというような声は上がっていないらしく、未来を見る能力というのはあながち嘘ではないのかもしれない。

 

 賢者ソレスタさんに言わせると「神様じゃないんだから、人間如きにそんな大それた力があってたまるか。あたしが欲しいわ!」との事だった。

 あんだけの力を持っていてまだない物ねだりをするのか、なんて強欲な。

 

「一体、何者なんでしょうねぇ」


 姿を見ていないから想像での人物像を頭の中に描く。峰不二子さんのような体つきに、フードつきの長いローブ(でもやたら露出が激しい)を着た美女。

 

 ああ、もう分り易! とても丁寧で分り易く悪者魔女さんだ!

 あからさま過ぎて逆に疑いたくなるよね。

 

 一度話をしてみたいとディーノに言った所、当然だけどいい顔されなかった。

 他の人達にも先走るな、今は様子をみろと散々言われたので大人しく城で待機しておりますが。

 何か動きがあればお爺ちゃんのところの優秀な必殺仕事人が情報提供してくれるらしいので、今はそれ待ち。

 

「ところでラヴィ様、その後フェイランくんとどうですか」

「どう、と仰られても」


 はぐらかしているというわけではなくて、本当に何もないから進捗を聞かれても困るといった風なラヴィ様。

 

「わたくしよりも、お姉様の方が仲が良さそうではないですか。よくここに入り浸っているという事ですし」


 うん、それは取りつく島のないラヴィ様と一緒に居るのは気詰まりだから、楽していられる私のところに逃げてきてるだけなんだけどね。

 日本の同年代の男の子と比べたら、フェイランくんは平均的な感じだと思うんだ。

 好奇心旺盛で感情が素直で……、王族が平均的だったらダメじゃん。

 

 いやでも、あれであの子も場は弁えてるというか、形式ばった喋り方も態度も取れるんだよ。私にはあんなだけど。

 

「ラヴィ様からしたら子供過ぎて話にならないかもしれないけどねぇ。逆に育てる楽しさってのもあるかもですよ?」

「育てる?」


 聞き返しながらラヴィ様は私の太腿に前足と頭を置いてウトウトしている狼姿のホズミを見る。

 完全にラヴィ様がホズミとフェイランくんを同レベルで見てるってのが分かっちゃったね今の。 ……あながち間違っちゃいないかもしれないけど。


 続きを、と目線で訴えてくるラヴィ様にちょっとは興味をそそられたのかなと気をよくする私。

 

「フェイランくんはこれから成長してくんですから今から幾らでも矯正できるでしょう、ラヴィ様が付きについて自分好みの、例えばフランツ様みたいに物腰の柔らかい紳士に育て上げるとか」


 そういや最近気付いたんだけど、ラヴィ様ってオジ専ってわけじゃなくて、大人な考え方を出来て理解力のある、つまり国の重圧を背負って立つラヴィ様と対等又は支えてくれるような包容力のある人がいいって事なんじゃないかなぁと。

 

 そんな人はそうそういないよね。今まででラヴィ様のおめがねに適ったのはフランツさんだけだった。

 条件厳しそうだもんね。一国の王女なんだから仕方ないけど。

 

 だからですよ。好みの男がいないのなら、作ればよろしいじゃない! 大作戦。

 力説する私を最初はぽかんと見ていたラヴィ様だったけれど、途中から目つきが変わってきて、今はとても真剣にテーブルを睨みながらブツブツ呟いている。

 

 おーい帰ってこーい。顔の前で手をひらひらすると我に返ったラヴィ様は、目の前を行き来する私の手をがっしと両手で握りしめた。

 

「さすがお姉様! 何者にも染まっていない無垢な状態から、わたくし色に染め上げるのね」

「う? うー、うん」


 あれ私そんな事が言いたかったんだったか? そんな紫の上計画みたいな内容を話したか?

 ただ、国主たるに足る資質をラヴィ様がスパルタで磨き上げればいいじゃない、というような……、これって近からずとも遠からずなのかな。

 いやでも紫の上計画はむしろ男の夢では……。

 よく分からん、まあラヴィちゃんがちょっとはエイシェンくんに興味持ってくれたならそれでいいわ。

 

 実はラヴィ様の結婚相手候補は何人もいるらしいんだけど、最有力なのはエイシェンくんだとか。一番の友好国の王子だしね。

 どうせ結婚するならより良い関係を築いた方がいいに決まってる。

 

「では早速彼を訪ねていってみる事にします。付き人の方も気になりますし」

「ザイさん?」

「あら、ザイという名なのね」


 おっとこれは余計な情報を与えてしまったかもしれない! ごめんねフェイランくん!

 しかし、フェイランくんとあんま接点持たないようにしてたはずなのに、ちゃんとザイさんの存在は認識してたとは、侮れないねラヴィ様。

 ザイさん初めて見た時から、ちょっとラヴィ様好きかもなぁとは思ってた。

 

「お腹空いたぁ……」


 ムクリと起き上がって人型を取ったホズミが緊張感のない半分寝ぼけた声で言う。

 最近この子食っちゃ寝食っちゃ寝してるけど、本当に大丈夫か。

 今はまだ羨まし過ぎるくらい贅肉の欠片も見えないけど、気が付いたら肥満児になってたりしないだろうか。

 

「もうすぐ昼ご飯だから、軽くしか食べちゃダメだよ」

「えー」


 不服そうなホズミの口に有無も言わさず柔らかいパンを放り込む。

 もぐもぐごくん。漫画ならそんな効果音が入りそうな感じで飲み込んだタイミングでレモン水をあげる。

 

 ふはー! と一息吐いたホズミをラヴィ様とマリコさんが微笑ましそうに見詰めている。

 

 ちょっと待って! マリコさんは分かるよ。でも同い年のはずのラヴィ様がどうしてそんな「うふふ、ほんと仕方のない子」みたいな角度からホズミ見てるの!?

 どこまでも大人びたお姫様だ。

 

「あぁそうだわ。折角だからお姉様達も一緒に行って、皆でお昼をいただきましょう」


 さも名案と言わんばかりに手を叩いて目を輝かせるラヴィ様。

 今、なんと?

 

「み、みんなって?」

「わたくしとロウランの王子と付き人、お姉様とホズミですわ」

「ですわ!?」


 いやツッコミ入れたのは語尾じゃなくて! 強制的に決定的に私とホズミをメンバーに入れちゃってる事だよ!

 

 そうだった。最近いろんな事があってたくさんの知り合いが出来て、それはもうキャラ強すぎる人達ばかりだったからすっかり忘れていたけど。

 ラヴィ様って一級フラグ建築士なんだった……。

 

 だってそうじゃん、この面子が揃って何も起こらないわけないじゃない。

 ラヴィ様が行くならマリコさんも行くし、多分私が行くならディーノも出動する。

 

 どんっだけ濃い空間にする気なのよラヴィ様っ!

 ちらっとルイーノを伺ってみると、「いってらっさーい」と無邪気に手を振られた。

 いいなぁその第三者的な傍観者の距離感。某優秀な家政婦よりもよっぽど遠いよ私とルイーノとのこの距離。

 

「ホズミ、どうする!?」

「お昼ご飯食べる」


 ぎゅるるると空腹を切実に訴えるホズミに断ると言う選択肢はないらしい。この子に人間同士の微妙な空気感を読むとか無理だった。

 

 お昼ご飯ならここでだって食べられるじゃない! とか大声で言いたいのをぐっとこらえた。

 ホズミを理由にして断ったら、最悪ホズミだけここに置いて私は出席という流れになりかねないと気付いたからだ。ガクリと肩を落とす。

 

 ごめんディーノ、仕事増やしちゃった……。

 

 

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