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図書館にて

 王宮のすぐ手前にある、外壁が蔓に覆われた、煉瓦造りの古めかしくも由緒ある事を窺わせる建物。

 そこは王立図書館。


 世界的に見ても古い歴史を持つこの図書館は国内外の重要な蔵書が保管されているだけでなく、子供向けの絵本や大衆向けの娯楽本まで各種取り揃えていて、城内にあるにもかかわらず図書館は一般公開されており連日多くの市民が利用している。

 

 休館日の今日、利用者のいない館内はガランとしていた。

 しかしここで働く司書達は出勤してきている。

 在庫の管理、蔵書の整理、新しく入ってきた本の展示、その他諸々と片付けなければならない仕事は山積みだ。

 

 みんな黙々と己に課せられた作業をこなしている。

 数日前に田舎の図書館からこの王立図書館へと移動になった、セツカ・ロッカも例外ではない。

 

 ミルクティー色の長い髪を邪魔にならないように一つにまとめ、司書の制服である白に藍色のラインの入ったローブは腕まくりと、気合の入った完全作業モードの姿。

 彼女はタワーのように積み上がった本を持って図書館内を右へ左へと奔走していた。

 

 と、そこへ司書全員が既に出勤してきている今、外側から開くはずの無かった中央の扉が音もなく開いたのに気付いた。

 ちょうど扉の前を横切ろうとしていたセツカは足を止めて、堂々と入ってきた客を見る。

 

 セツカの着ているものと似ているが、ラインは金で、物も段違いに良さそうなローブを纏った派手な顔立ちの男。


 日差しが反射して眩しいくらいの金髪に、それに負けないくらい煌めく美貌のその男は、この大陸で知らないものは居ないとさえ言われる生ける伝説、大賢者ソレスタだった。

 

「こんにちはセツカ、今日もまた一段と重労働に精が出るわね」


 女っぽい喋り方をする男だが、類稀な美貌のせいか存在感の濃さのせいなのか、あまり違和感を感じさせない。


「今日は休館日なんですから、そんな堂々と入って来ないで下さい……。ただでさえソレスタ様は目立つんですから」

「御挨拶ねぇ!」


 そう言いながらもころころと喉を鳴らすように笑うソレスタにセツカも顔を綻ばせる。


「今日はアナタに紹介したい子がいて連れてきたのよ」

「はぁ、え、あたしに? だれですか? というかどこに」

「ここよ、ここ」


 ソレスタが一歩横にずれると、今まで彼がいた場所の真後ろに少女が立っていた。

 無駄なくらい高身長なソレスタに完全に隠れてしまっていて全く気付かなかったのだ。

 

 真っ黒で艶やかな髪が印象的な小柄な少女だった。

 同じく黒の瞳を忙しなく左右におろおろと動かして、ようやくセツカの視線に合わせると慌てて頭を下げた。


「は、はじめ、まして」


 若干どもりながら挨拶した少女にセツカは呆然とする。

 この国の一般的な服とは違う不思議な衣装を身に纏った少女は、今を時めくと言っていいくらいの有名人。


「ユリスの花嫁様!?」

 

 セツカは叫んだ。だが叫んだのは彼女だけじゃない。ソレスタの声に何となく遠巻きに傍観していた他の司書達も全く同じタイミングで少女の素性を言い当てた。

 

 少女の名はハル・カツラギ。異世界より召喚された神の御使いだった。

 

「ユ、ユリスの花嫁様みたいなご多忙の方がどうしてまたこんな所へ」

「はぁいえ、恐ろしいくらいに暇人ですが」


 駆け寄ってきた司書の一人の問いかけに、ハルは気の抜けるような返事をした。


「本物? 本物!?」

「偽者がいたら見てみたいです」

「いせ、異世界から来た、来たってほん、ホントですか!?」

「落ち着いてください。ホントです」

「何か向こうにしか無いものって持ってません!? あ、異世界の歌とか歌って下さいよ!」

「うた!? ここで!? それハードル高過ぎッス、そんな羞恥プレイ私には無理ッス! つか何歌えばいいのよっ? 君が代?」

「ぶふっ!!」


 代わる代わるの司書の問いかけに、丁寧に返していくユリスの花嫁の返事がツボにはまり、一歩後ろに下がったところで傍観を決め込んでいたセツカが吹き出した。

 

 全員の視線がセツカに集中して、笑いを収めなければと思えば思う程止められない。

 ひとしきり肩を震わせて大笑いした後、ふうと目元に溜まった涙を指で拭く。

 黒い瞳の少女はきょとりとセツカを見ていた。


「笑ってごめんなさい、ユリスの花嫁様」

「え、私が笑われたんですか!?」


 どうしてこの人爆笑してるんだろう、としか思ってなかったらしいハルは、ガーンと効果音がつきそうなくらいショックを受けていた。


「いえだって、本当に普通の女子高生って感じの受け答えだったから。でも君が代って……」


 確かに日本を代表する国歌ではあるけれど。

 また笑いが込み上げてくる。


「えと、君が代……知って?」


 ハルは呆然とした様子でセツカに問うた。

 ニッコリと微笑むセツカのその表情が答えだったが、敢えてソレスタが口を挟んだ。


「彼女、セツカ・ロッカは世にも稀な、異世界で生きた前世の記憶持ちなのよ」

「は、きおく、持ち……? ぜ、前世とか、とまたそんなあの子が泣いて喜びそうな設定……!」

「設定って!」

「いやだって、そんなのマンガの中だけだと思ってたから……」


 神の御使いだとか大それた肩書きを持った女の子に言われたくはない。

 珍獣でも見るかのように全身くまなく見つめてくる少女にまた笑いが込み上げてきた。

 不躾な視線なのに、不快でないのはどうしてだろう。

 

「確かに、あたしだってあっちに居た頃に同じこと言われたら、絶対その人の事痛い人だと思いましたよ。いやぁでも、女子高生がユリスの花嫁様(笑)」

「うっわー馬鹿にされたー! すっげぇ冷ややかな目で見られたー!」


 セツカもまた少女をじっくりと観察した。

 こっちの世界に似せつつも、どこか日本で生きていた頃を思い出させるような服。

 現世ではめっきり見なくなった、以前は当たり前だった黒髪。

 普通の女の子だけれど、やはりここでは浮いてしまう身に纏った雰囲気。

 

 自分にもこんな時期があったのかと思うと感慨深いものがあった。

 

「若いっていいなぁ」

「え、お姉さんどうしたの!? 明らかに私とそんな歳変わらないよね!?」

「うーん、セツカちゃんって変に前世の記憶なんかがあるせいで達観しちゃってるのよねぇ。物事を斜めに見るというか。穿った考え方をするというか」


 放っておいてくれ、とソレスタを睨んだ。

 だが事実そうだったりする。前世で生きた歳月も加算すればもうとっくに三十路を過ぎたどころかアラフォー世代なのだから。

 

「それでね、向こうの世界の事を知ってるセツカちゃんとなら色々と話が合うんじゃないかと思って」

「といっても、あたしとじゃ年代が違うんじゃないでしょうか」

「セツカさんって、ジャニーズのどのグループが流行ってた世代ですか?」


 久しぶりに、実に二十年ぶりくらいに聞いた単語にセツカの目がカッと見開かれた。

 かと思うとぶるぶると震えだす。この子はなんて子だろうかと。

 

「女性に対し直接年齢を聞くのではなく、その時のヒット曲から世代を割り出し尚且つさりげく無難で盛り上がりやすい話題も手に入れる……やるわね!」


 ぐっと親指を立てられてハルは頬を引き攣らせた。別にそこまで深く考えて言ったわけではない。

 国民的アイドルなら分りやすいだろうとは思ったくらいで。

 

「まあ正直前世の事なんか記憶から消し去りたいと思ってたんだけど、いいわ、あたしと色々お話しましょう、よろしくねハルちゃん」


 記憶から消したいなどと、あまりいい過去ではなかったのだろうか。

 ハルは差し出された手を戸惑いの表情を浮かべながら見つめた。

 

「あれよ、あれ。黒歴史ってやつ? 人にはやっぱ封印したい過去の一つや二つあるもんじゃない?」


 にこりと笑ってやると、安心したのか表情を緩めてハルはセツカの手を握った。

 

「宜しくお願いしますセツカさん!」


 ある日突然訳の分らない世界に落とされた女子高生。彼女は屈託のない笑顔をしていた。

 簡単に屈折してしまった自分とは性根が違うのかもしれない。その違いに嫉んだり嫌悪はない。

 むしろ前世でも現世でも一人っ子のセツカだが、妹が出来た気分で少し嬉しかった。

 



うーん、セツカさんは大人しくてちょっと冷めた人にする予定だったんですが…君が代で爆笑した時点でそのキャラ設定諦めました。(初っ端からじゃねぇか)

彼女が本領発揮するのがガっちゃんと一緒に居る時だったりします。

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