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ユリスの花嫁と魔騎士  作者: 椙下 裕
第二章 恵みの大祭
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 長い長い一日だった。そして色々あり過ぎて頭パンクしそうな十日間だった。

 あれから鏡を無事破壊して町に戻った。みんな事情は侯爵さんやミラちゃん達から聞いていたようだけど、神器が失われた事実についての判断は渋いものだった。

 でも侯爵さんがきちんと説得して(言いくるめて)くれたからなんとか納得はしてくれたのだけれど。

 

 そして、舞台衣装を見事台無しにした私とミラちゃんはこっぴどく叱られた。しかも二人共体中に傷だらけだったものだから、女性陣が悲鳴を上げつつ治療やら説教やらで大わらわ。

 

 なんとか落ち着きを取り戻した頃、私はまた豪奢な衣装に身を包んでいた。

 私が祭りで行う儀式は鎮魂のものだから、魔物を大量に札処分したのと鏡を破壊した今こそ必要だ、という事らしい。

 というか、最初から私は事後要員として連れて来られたのだそうだ。

 

 ディーノとソレスタさんに鏡を処理させ、その後私が儀式を行って一帯を清めて一件落着というわけ。

 知らされた時、王様のあくどい笑顔がまざまざと脳裏に浮かんだよね。

 ほんと、ちゃんと説明してから寄越せってのよ! 詐欺だと訴えてやる。

 

 演舞の方は滞りなく終了いたしました。やったよ私。やればできたよ私!

 その後すぐ緊張が解けたのか気を失うように寝ちゃったんだけどね。

 目を覚ましたら侯爵さんの屋敷の部屋だった。着替えも済まされてたし、窓の外は真っ暗だったからこりゃもう一眠りするかな、と呑気な事を思ってごろりと寝返りを打った時。

 部屋の隅に丸くなってる人影が見えて心臓が跳ねた。

 

 気持ち的には身体が宙に浮いたくらいに驚いた。

 暗闇の中で目だけがギラリと光る人影に、恐怖のあまり心臓を口から吐き出しそうになりながらよくよく見ると、闇に慣れた目が移し出したのはホズミだった。


「ホズミ!?」

 ぎゃーす! なんであの子部屋の隅っこであんな座敷童みたいにじっとしてるの!?

 私の声に反応してホズミがもそりと動いて立ち上がり、びょーんとその場から跳躍した。

 正に飛び跳ねた。蛙みたいだった。

 そしてそのままベッドの上、というか私の上にダイブ。ぐえっと潰れた蛙みたいな声を出したのは私。

 

「ハルのバカ! バカバカミミズ!」

「ちょっと待てミミズは聞き捨てならない! どういう事、ホズミの中で私のヒエラルキーはミミズと同位置なの!?」

 ミミズって言われたら私、某ファーストフード店のハンバーグのミンチに使われてたとかいう都市伝説を思い出すのだけれど。

 そんな話を友達に聞きながらもしゃもしゃ食べてたんだけれど。


「なんでいっつもボク置いてっちゃうの! 一緒に居たいってずっと言ってる! 離れるのヤダァー……」

 怒りながら泣きだしたホズミ。毛を逆撫でる勢いで息巻いてるのに金の目からぽろぽろ涙が零れている。

「ハルが居なくなっちゃったらどうすればいいの……」

「私がいなくてもディーノやルイーノ達がいるでしょ? 私が元の世界に帰った後はディーノの所に行くって最初に約束したよね」

「ボクいらない……? 一緒に居ちゃダメなの?」

 はい!? この子は何を言っているんだろう。驚きすぎて反応出来ないでいる私が、図星を指されて固まったのと勘違いしたらしいホズミは傷ついた表情をした。

 そんなホズミを見て私も大層傷ついた。あんなに愛情表現をしつこいくらいしてたのに、何にも伝わっていなかったのかと。

 

「ホズミ」

 小さな体をぎゅっと包んだ。ぷるぷると小刻みに震えているのが切ない。

「出来るなら私だってホズミとずっと一緒に居たい。連れて帰りたい。ホズミ抱きしめてないと熟睡できないんだよ。これもう依存だよ依存。ホズミ大好き」

「ほんと?」

 まだ涙で潤んでるままの瞳で真っ直ぐに見つめてくる。

「ほんとだよ」

「ディーノより?」

「うん? うんホズミが好き」

「ルイーノより?」

「す、好きだよ」

 なんか話が変な方向に進んでる気がするのだけど。ホズミがちょっと愛情の重たい恋人みたいな感じに思えるのだけど。

 いや、私誰かと付き合ったこととかないから想像しかできないけど、こういうちょいちょい聞いて相手の愛を確認したがる女の人は恋人に鬱陶しがられるって、聞いた事あるようなないような。

 

「ハルが一番好き。だから、いっぱいいっぱい考える」

「何を?」

「離れなくていい方法。無かったらその時は……がまん、するから。だからがまん出来るように、こっちではずっと一緒がいい」

 力いっぱいしがみ付いてくるホズミを私もギューッと抱きしめた。

「もう置いてかないで。一人で行っちゃわないで」

 どうやらホズミの中でトラウマになってしまったようだ。

 その後何度も約束させられた。私のトラウマになりそうなほど、しつこく。

 とりあえずホズミと仲直りできました。

 

 

 ぐっすり眠ってしまったホズミからそっと離れた。

 ……お腹空いたし喉乾いた。あんな一日中動き回ったのに殆ど何も食べてなかったって気づいてしまったらもう居ても経ってもいられなくて。

 良い感じにお腹ぺたんこだけど、食べない無理なダイエットは身体壊すしね! リバウンド怖いしね!

 かと言ってこんな夜中に飲食するのもかなりヤバいってのは分かってるけど、そこは気づかないフリをするのです。

 

 部屋をこっそり抜けて一階へ降りた。えーと厨房はどこですか?

 夜中に冷蔵庫漁るとかちょっと女子としてどうかと思うけど、まあ緊急事態だよしとしよう。

 何があるかなぁ。ハム食べたいな。ハムの気分だな。

 

 この世界の冷蔵庫ってのは電気ではなく魔力で冷気を出しているという、異世界ならではの構造をしている。

 一度電気について聞いてみた事があるんだけど、逆にエレキテルとは何ぞやと聞き返されて答えられなくて泣きたくなった。

 電気はスイッチ押したら勝手につくもんだとしか認識してなかった平凡な女子高生が、仕組みなんか知るかい!

 

 水をグビグビ飲みながら冷蔵庫を開ける。……ハムない。

 仕方ない。パンを食べよう。冷蔵庫の中に目ぼしいものが無かったのでテーブルの上に置かれてあったパンを一つ拝借する事にした。

 あ、くるみ入ってる美味しいなぁ。

「何をやってるんですか?」

「きゃあっ!! ごめんなさい勝手につまみ食いしてごめんなさい! て、あれディーノか」

 齧ったパンを手に持った状態じゃぁ言い逃れ出来ない。先手で謝るが勝ちだと思ってたら後ろに立っていたのはディーノだった。

 ちっ、謝り損か。

 

「俺も一個貰っていいですか」

「どうぞ」

 おいでませ共犯の世界へ! こうしてつまみ食い同盟をディーノと(一方的に)結んだ私は残りのパンも心置きなく頬張った。

 ぱくぱくと気持ちよくパンを口に入れていくディーノをぼんやりと眺める。美形は何してても美形だなぁ。

 ハムスターみたいに頬パンパンにさせててもきっとイケメンなんだろうなぁ。ちょっとやって欲しい。

 

「それにしてもディーノ、身体の調子はどう? 痒いとかないの?」

「痒い? は、ないですね。やっぱり違和感は強いですが」

「もしかしてそのせいで寝つけなかったとか」

「いえ、ソレスタ様と侯爵様が祝い酒だとか意味の分からない宴会を始めて煩かっただけです」

 酒に溺れた駄目人間どもが! 侯爵に至ってはただの飲んだくれじゃないか。

 あの人がちゃんと仕事してるとこ見た事ないんだけど。

「……オッサン共は置いといて、違和感って大丈夫?」

「時間が経てば馴染むらしいですし」

 人一人の生まれた時から二十年以上もの記憶と思考が増えた事に慣れるまでどれだけの時間が必要なんだろう。

 

「ねぇ、目、見せて」

 前髪をそっと掻き上げると、左右で色味の違う瞳がはっきりと見えた。薄暗い室内でもよく分かる。

「ブラッド……」

 真紅の左目がその名の通り血のように鮮やかだ。血が通っている。息づいている。

 彼が少し身じろいだ加減で揺れた髪も月明かりを反射してきらきらしている。

「ブラッド」

「……ここにいる」

 私の手を覆うように添えられた彼の手は温かかった。

 息づいている? いいや違う。彼の中にブラッドがいるわけじゃない、彼がブラッドだ。もちろんディーノでもある。

 

「なんで泣いてんだか」

 真っ赤な瞳を見詰めたまま涙を流す私を持て余すような、ちょっと困ったような、そんな声音だった。

 彼は何も失ってない。二つに別れていたものが一つに合わさっただけ。

 悲しむ必要なんてないんだって、そう頭では分かっていても、変化を思うと泣けてくるのは彼に対して失礼なのだろうか。

 その涙が悲しみからくるものなのかはっきりしない。

「喜んでるのは俺だけ?」

 さっきよりも少し柔らかい声で良いながら涙を拭ってくれた。

「これでやっと俺はハルの聖騎士だと胸を張って言える」

 これでもかというくらい清々しく言ってくれるので私はバカみたいに見返すしか出来なかった。

 添えていただけだった手を握り込まれて彼の口元へと運ばれる。


「呼びかけに応えてくれて、俺の所に来てくれてありがとう」

 私は何もしていないのだけれど。日々何も出来ない時分に打ちひしがれるくらいだけれど。

 何でも出来てしまうディーノにそう言って貰えて救われた。

「私の方こそ。……これからもよろしくね」

 

 この直後、屋敷の見回りをしていたら偶然……とか怪しげな言い訳をしつつ乱入してきた執事さんが、こういうのはもっとテラスとか雰囲気のいい場所でやった方が盛り上がりますよって、むしろ雰囲気ぶち壊してくれて。

 勿論テラスに移動する事なくそれぞれ部屋に戻って寝た。

 

 

 翌日、なんやかんやで晴れやかな気分でキリングヴェイから城へと帰る事になった。

 僭越ながらオチというか、この地での纏めをさせてもらうと。

 まず侯爵ね。この人にディーノとブラッドがソレスタさんの禁呪によってあるべき姿に戻った事を伝えたのだ。

 するとどうでも良さそうな顔をして

「別れたり合体したりと、聞きしに勝る化け物ぶりだな。まぁこんな化け物の息子など知った事ではないが、こいつを聖騎士に持ってユリスの花嫁殿には同情しますよ。貴女くらいしか規格外な奴の手綱引いたりできないでしょうし、ぜいぜいこき使って下さい」

 と語った。

 なんだ、この人ただのツンデレか。なんとなくそんな気はしてたけど、やっぱりか。

 ディーノの事息子だって認めてんじゃん。私とソレスタさんが生温かい目で見つめてたらすっごい不機嫌になっちゃったけど。

 

 

 あと忘れちゃならないのはミケくんとミラちゃん。

 色々とややこしい事態を招いてくれたお騒がせ猫ちゃんズだけど。

 そもそも事の発端から話をすると、ミケくんが鏡を盗んだのはブラッドから鏡を祭具としてしようする危険性を聞いて、ミラちゃんを助けるためだった。

 儀式が中止になればミラちゃんが一年間も神殿で過ごさなきゃいけないっていうのもなくなる。

 ミケくんはミラちゃんに、この自分達が生まれた町で平和に生きてほしかった。見た目が人間と変わらない彼女は受け入れられているから。

 そうじゃない彼は、祭りを台無しにして町を守った後は、一人でどこか別の地へ姿を消そうと思っていたらしい。

 でも素直に言えないから、大嫌いだ発言になっちゃったらしいのだけど。その辺の誤解は本人達通しできちんと話し合ってわだかまりはなくなっております。

 

 ミラちゃん一人でも幸せになって欲しかったミケくんと、二人で一緒に仲良く生きていきたいミラちゃん。

 軍配が上がったのはミラちゃんだった。

 結局は二人してこの町を出る事になった。行先はロウランという、獣族への偏見があまりない国だ。

 ソレスタさんの古い知人がいるから口利きしてくれるという。

 

 だいたいそんな感じ。

 

 

 祭りが終わり、長閑な町に日常が取り戻されたのを見届けて私達はお城へと帰った。

 



キリングヴェイ編終了

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