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ユリスの花嫁と魔騎士  作者: 椙下 裕
第二章 恵みの大祭
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 毎日のように往復してるような気がする。ブラッドに強制連行されたのは森でした。予想してた事だけど。

 もうこの足場の悪いけもの道にも慣れたよ。

 

 ブラッドに私にディーノ、ホズミにミケくんにミラちゃん。ぞろぞろぞろぞろと、遠足ですかという感じだ。

 この間も魔物さん達がちょっかい出して来てるんだけど、ディーノが片っ端から薙ぎ倒してくれています。

 聖騎士ままさまです。

 それにしてもです。それにしても何しに連行されたんだろう。

 ブラッドが自分の行動の説明をしないのは今更だけど、この緊迫した状況でこれはないだろう。

「ブラッド! こっち来てどうすんの! みんな困惑してんじゃん」

「連れてきたのはお前だけだ。後のは知らん」

 ええー!! いやあの状況じゃ普通みんなついてくるでしょ。そりゃそうでしょ。

 あんなとこで取り残されたくないだろうし。

「じゃあ、私になにさせようっての」

「分かってんだろ」

 分りませんよ! いやユリスの力目的だってのは分かってるけど、何の為に森に来たのかはやっぱり謎だ。

 

「別に何処だっていいが、町から離れて広いところに行く」

 ああ、はい。じゃああのお花畑に行くのね? 大魔法とか使うんじゃないでしょうね、魔物を一か所に集めといてどかーんと一発ぶちかます気がじゃないでしょうね。

 私巻き込まれ事故で死んじゃわない!? 大丈夫!? ブラッドならやりかねない。私の身の安全とか全く保障してくれなさそう。

 うむ、みんなが来てくれて良かった。みんな一緒なら怖くない、多分。

 

 

 花畑に着いた。ここで何するつもりなのか。ブラッド以外の全員が何処か不安そうな表情を浮かべている。

 魔物の咆哮が聞こえて、ホズミが花畑を囲むように半透明なバリアを張った。これで暫くあいつ等は入って来れないらしい。

 

「おい、鏡を出せ」

 前置きもなくいきなりブラッドがミラちゃんに向かって手を差し出した。

 急に話し掛けられてきょとんとしていたミラちゃんだったけど、言われた内容を頭の中で反芻して理解したのか慌てて手に持っていた鏡を両手で抱きしめてブラッドを睨んだ。

「何のつもりか知らんが早くしろ、今更それをお前が持っていたってどうしようもないだろうが。事は既に起ってるんだ」

「ミラ」

 彼女を諌めるようにミケくんが声を掛けると、不安そうにブラッドと顔を見比べた。

 

「ねぇあの鏡って」

「ええ。恐らく本物でしょうね」

 傍にいたディーノにこそっと耳打ちすると、彼も頷いた。

 ミラちゃんが大事そうに抱えているその鏡は、本物の神器らしかった。

 鏡はミケくんとブラッドが隠し持っていたはずなのに、どうしてミラちゃんが持っているのか。

 しかも話を聞いていると、ミケくん達が知らないうちに奪ったようだ。

 

「あんた達、これで何するつもりなのよ、渡したら悪い事に使うんじゃないの!?」

 じりじりと後退するミラちゃんに、ブラッドは目を細めてふぅとため息をついた。

「悪事を起こしたのはお前だろう。こうならないようにとコイツが隠したってのに」

「何、それ……どういう」

「この鏡が何をするものかは知ってるな。術を用いた者の願望をそのまま現実にする……だが余程の術者じゃなければそんな大それたものは発動しない。それこそそいつの力でも使わん限りな」

 クイと顎で示されて私は何となく姿勢を正す。みんなの視線が一気に集中して照れる。

「発動しないとはいえ、毎年祭りに使用されているんだ。どんどんと術者の願いと魔力はこの中に蓄積されていく」

 この場合術者というのは舞台で女神役をする子の事だろう。

 こっちの世界の人は必ず魔力というものを持って生まれてくるらしい。使えるかどうかは別として。

 舞台に立ってこの鏡を持って祝詞を唱える。自覚はなくともそれは術を発動させるための儀式で、人間誰しも何かしらの願いっていうのは持っているのだから、実現こそされなかったが、鏡には何かしらの作用をもたらしていた。

 

 儀式を行った者の中には魔力が大きい人もいただろう。それが徐々に蓄積され、もう鏡の許容量を超えようとしていた。

 しかも今年は人間よりも魔力のある猫族の血を引くミラちゃんが抜擢された。

 

「術は発動するが、様々な願いと魔力でぐちゃぐちゃになったその神器は最早ただの魔具だ。ねじまがった人間の願望や欲望で染まったものを使えば、どんな暴走を起こすか分らん」

 だから隠した。

 方法はともかくとして、聞いてるとなんだかブラッドが良い人みたいな気がしてくる。

 そうボソッとディーノに呟いたら、ブラッドにも聞こえたらしく小石を投げてきた。

 おい! 当たったらどうすんの! 血みどろになったらどうしてくれんのよ!

 

 ディーノが剣で弾き飛ばしてくれたから良かったものの、あの人的確なコントロールで私の眉間を狙ってきやがった、許さん。

 この地獄耳め!

 

「でもミラちゃんはどうやって鏡を取り返したの?」

「……この鏡で弟が何かしようとしてるんだと思ったから邪魔してやろうと……。お姉さんに適当に弟が悪巧み考えてるから捕まえてってお願いして、その間に森に来て盗った」

「ええええっ!?」

 わ、私ってば思い切り良い様に使い捨てられてんじゃん! どういう事!?

 異世界トリップなんて物語の主人公みたいな偉業を成し遂げといて、年下の女の子に踊らされちゃったよ!?

 てか嘘だったんだ! ミケくんが祭りを妨害しようとしてるとか言ってたのあれ嘘だったの!?

 酷い、猫不信に陥りそうだ……。


「……で、鏡の暴走のせいで魔物がうじゃうじゃ出てきたって事?」

「ああ。正確には人の欲と膨大な魔力に惹かれて魔物が集まってんだ。しかもハルがいるせいで事態が悪化した」

「ええええっ!? ま、、また私のせい!?」

 強制的に連れて来られて、私がいるせいで魔物が寄ってくるだとか酷くない!?

 私が悪いんじゃないよね、王様のせいだよね!? 踏んだり蹴ったりじゃないの泣いてもいいかな……。

 がくりと崩れ落ちた私の隣で、ミラちゃんが絞り出すように言った。

「鏡をあんたに渡したら、どうにかなんの?」

「だから言ってるんだろうが」

 恐ろしく上からで横柄な態度でのたまったブラッドに、今までずっと大人しくしていたミケくんが耐えきれなくなったのか、シャーッと威嚇して飛びかかった。

 あっさりと前足掴まれて阻止されちゃったけど、グッジョブだよミケくん。

 

「ディー! もうダメ!」

 ずっと魔物を押しとどめてくれていたホズミが叫ぶ。

 花畑を囲むように魔物の群れがうようよと蠢いている。

「早くしろ!」

 切羽詰まったホズミと、追い打ちをかける様に迫るブラッドに押されてミラちゃんが鏡を彼に渡した。

「たく、手間取らせやがって」

「完全に悪役の台詞だからそれ……」

 ちっと舌打ちしながら鏡を受け取るブラッドは、どこからどう見ても悪役だ。

 

 パリンッ!!

 

 ガラスが割れるような音がして、ホズミが張っていた半透明のバリアが砕け、そのすぐ傍にいたホズミが雪崩込んできた魔物の群れに飲み込まれた。

「ホズミーーッ!!」

 咄嗟に地面を蹴って駆け寄ろうとした私の腕をブラッドが難なく掴む。

「ホズミは俺が助けます」

 ディーノが私の肩に手を置いて、ホズミが消えた方へと走って行った。

 振った聖剣が赤い光を放っている。

「魔物はあいつにやらせる。おい、猫の首輪を外せ!」

 これはミラちゃんに向かって。

 珍しくブラッドが焦った口調になっている。慌ててミラちゃんが首輪を外すとミケくんにかかっていた呪が解けて人型に変化した。

「自分の身は自分で守れ、そっちまで手が回らん」

 突き放すように吐き捨てると、ブラッドは私の手を引いてまた歩き出す。

 

「ちょっと! ブラッド!?」

「煩い黙れ」

「黙ってられるか! どこ行く気!?」

「どこにも行かん」

 ブラッドはぴたりと止まった。ミラちゃん達から少し離れた位置だ。

 彼が手を前へ翳すと、地面に青い円陣が浮かび上がる。

 もうこの世界に来てからお馴染みになりつつある魔方陣だ。

 そしてその青白い光の中にブラッドは無造作に鏡を放り込んだ。

 

「ど、どうすんの?」

「壊すに決まってる」

「こ、壊っ!? 出来るの!? 神器なんでしょ」

「だから、お前の力がいる。神の力を相殺するには神の力が必要だ」

 ブラッドが私の方を振り返った。

「ある程度の事は許すんだったな?」

「はへ?」

 何を言っているの? ときょとん顔を返したのにブラッドはニヤリと笑っただけでそれ以上説明はしてくれなかった。

 掴んでいた私の手を自分の口に持っていくと、ガブッと力任せに噛んだ。

「――ッ!?」

 驚きと激痛に声も出ない。反射的に手を引こうとしたけど強い力で握られていてピクリともしない。

 脈打つのに合わせてジンジンと訴えてくる痛みに涙が零れそうになった。

 尚も歯を立てるブラッドはドSって言うかもう鬼畜だ。ド鬼畜だ。

 そして、ついに零れてきた血を彼はあろうことか舌で舐めった。


「ぎゃああっ! 何してんの!?」

「お前の魔力は血から接種すんのが一番手っ取り早い」

 ひいい! だからって本人の了承もなく吸血行為っておまっ!

 うぎゃぁ、血って実はそんな綺麗なものじゃないんだよね確か。他人のを安易に口にしちゃいけないってなんか保健体育の時間に習ったような……。

 ブラッドが病気になったらどうしよう! え、私の血って病気含んでんの!? それかなりショックなんですけどー!!

 

 パニックで頭グルグルしてる間にブラッドは私の手から口を離していた。私の血で赤く染まった唇を乱暴に手の甲で拭う。

 そんな仕草に色気を感じてしまった私は一発鈍器で殴られた方がいいかもしれない。

 

 

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