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ユリスの花嫁と魔騎士  作者: 椙下 裕
第二章 恵みの大祭
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ちょっと短めです。すみません、プチスランプ気味で、全くこの先の展開が頭に浮かんで来ないまま恐る恐る書いてます…

キャラが誰も動いてくれない…



 猫って自分の許容量をオーバーした予想外の出来事が起こるとフリーズして動けなくなるよね。

 今まさに目の前にいるミケくんがその状況。

 沢山の子供達に囲まれ、目をまんまるに見開いたまま動けないでいる。

 

 泥だらけの全身を屋敷の侍女さん達に洗われ拭かれブラッシングされ、可愛がられながらもそれが行き過ぎてもみくちゃにされた時も同じ反応だった。

 くそう、本当なら私がやりたかったのに、有無も言わさず猫好きな侍女さん達にミケくんを奪われてしまったのだ。

 あの時の悔しさと言ったら……。

 

 憂さ晴らしにホズミの身体を隅々まで綺麗にしてあげました。

 

 そして現在、子供達に抱っこさせろだ撫でさせろだとせっつかれて、きょどっている。

 町の人の誰もこの猫が獣族のミケくんだと気付いていないようで、さっきから誰かしらが構い通しだ。

 そんな彼を放置して私は今舞台に上がる衣装の着付けをしていた。

 

 所謂公民館のような町の人の集会場で、おばちゃん達にややこしい伝統衣装を着せてもらっている。

 この後髪飾りを付けられ化粧までするらしい。すでに体力がガリガリ削られている。

 

 因みに昨晩の前夜祭には出ませんでした。

 いえ行く気満々だったんだけど、侯爵さんに止められた。

 

「貴女のように目立つ人が、目立つ供を連れて行けば町の人々全員が貴女方にばかり意識が行って、十分に祭りが楽しめないでしょうが」

 と、正論なんだかどうなんだか分らない理由で。

「別に、貴女が昼間に散々雨に打たれたせいで風邪を引くかもしれないなどと思って留めようとしているわけではありません」

 ツンデレか! 侯爵様はツンデレなのか! いい歳こいたおじさんがやっていいキャラ設定じゃねぇよ。残念な事に激しく萌えない。

 そういうのは美少女がやってなんぼでしょうが。

 公爵の意外な一面を見て思わず顎をしゃくってしまったわ。なんでしゃくれたのか自分でも不思議。

 

 確かにディーノもソレスタさんも無駄にキラキラして目立つし女の子に騒がれるだろうけど、今晩避けたって明日にしょっとだけ先延ばしされるだけだ。

 でもまぁ、雨で気温も下がってるから私は風邪引くかもしれないから行かなくて正解だったんだろうけど。

 楽しみにしてただけに残念だった。

 

「ほうら出来たよ、お嬢ちゃん」

 ばしんと背中を叩かれた。げふんごふん。咳き込む私にカラカラと彼女達は笑う。

 

 私の黒の髪には金の糸が幾筋も編み込まれ、それごと一纏めに結われている。

 更にサークレットについている装飾が動くたびに揺れてジャラジャラと鳴るのが、なんともゴージャスな感じがする。

 目の下を赤のラインで縁取りされ、顔全体は少し白めのファンデーションが塗られた。

 服は前文明時代のデザインというものらしく、この世界で今一般的に着られているドレスとは全く型が違っている。

 

 下は胸元と腰回りを隠すだけの無地な下着同然のもの、その上に前合せになっている上着を着せられた。前は膝丈で後ろは踝あたりまで隠れている。

 腰帯はコルセットのようにぎゅうぎゅうと締め付けがきつい。

 上着の合わせ自体も組み紐でしまっていて、動いても肌蹴たりしないように固定されているので一応安心。

 淵を髪に差し込んでいるのと同じ金糸でざっくりと刺繍されていてるし、袖の部分は振袖のように長く垂れていて、そこにも大きな模様の刺繍が施されていた。

 舞台に立っても遠くまで映えるように、という事なんだろう。

 

 もう準備万端な私。まだ祭りが始まる前なのに。

 ミラちゃんの奉納が済んでから一斉に出店がスタートするのだ。

 つまり私はこの格好で出歩くかここで出番が来るまで大人しくしていないといけないというわけ。

 ちょっと!? なんか話が違いません!?

 私出店巡りだけが楽しみで遠路遥々と王都からキリングヴェイまで来たんですが。どういう事なの。誰か説明してちょうだい!

 

 私の焼トウモロコシとたこ焼きとカステーラ!

 射的に金魚すくいに型抜き!

 みんなみんなこの世界の祭りにはないだろうけど。

 だからこそどんなものか隅々まで見て回りたかったんだけどなぁ。

 ああ、因みに今ホズミとディーノとソレスタさんは仲良く男三人で回るらしいよ。

 

「アタシ達ったらまるで親子みたいね!」

 とかはしゃぐソレスタさんの尻をぶっ叩いたのは当然だろう。ディーノなんて剣抜いてたからね。その手の冗談大嫌いらしい。

 しかしあの似非オネエキャラめ、美味しいトコ取りなんて許さないんだから。

 ホズミを真ん中にして三人手を繋いで歩いたりさせない! 本来なら私の在るべき位置にソレスタさんが何の違和感もなく据え置かれたら泣いてやる。

 なけなしの女のプライドが許さない。

 

「おや、そろそろミラちゃんの奉納が始まるんじゃないかい?」

 どっこいしょっと、とおばちゃんが立ち上がる。

 みんなぞろぞろと部屋から出ていくのに私もついて行った。

 舞台とこの建物は繋がっているから、移動は楽ちんだ。


「ミケくんも行くよ」

 子供達にもみくちゃにされ、もうどうにでもしてくれ状態だったミケくんをひょいと抱き上げる。

 えー連れてっちゃ駄目ー、もっと遊びたいーと駄々を捏ねる子供達に「この子私のだもん!!」となんとも大人げない捨て台詞を吐いて部屋から出てきた。

 ぎゃはは! と彼等の笑い声を背に受けながら。なぜ爆笑されたし。幼児達の笑いのツボわからん。

 

 

 私が町人の方々に交じって観賞する事は出来ないので、舞台裏からこっそり覗き見る羽目になりました。

 何もやましい事などないはずなのに、どうしてコソコソしないといけないのか。

 答えは、衣装が派手で目立ち過ぎるから、ともすれば舞台上のミラちゃん並みに皆の意識をかっさらってしまいかねないのだ。

 目立つって悪目立ちの方ね。

 

 私の腕の中にいるミケくんは大人しく、舞台の上にいるミラちゃんを見つめている。

 瞬きも忘れたようにじっと。

 ミケくんは猫の姿で魔力も封じられているから何も仕掛けられない。

 どうやってかは分らないけど騒ぎを起こして祭りを止めさせようとしていたらしいミケくんを捕まえているのだから、何も起らないはず。

 

 使用している鏡もダミーだ。本物はブラッドが持っている。

 力を込めた所で変哲もない鏡では、どうにもならない。

 でもやっぱり妙な胸騒ぎがして私もミラちゃんの一挙一動を注意深く見守っていた。

 

 ミラちゃんが祝詞のりとだろうか、長文をすらすらとよどみなく唱え終ると、天高く鏡を持ち上げた。

 もうそろそろ終わりだ。

 この後魔法装置で舞台の周辺が緑に染まる、ように見える視覚の錯覚を起こさせるんだとか。

 本当に緑に染めちゃったら、また戻すのに大量の魔力が必要になるからだって。省エネだね。

 

 どんな風に映るのかドキドキしながら待っていた。

 が、一向にその装置が発動しない。

 裏方の人達が慌てて装置の方へと駆けていく。観客も察したのかざわつき始めてきた。

 

 何? ただの装置の故障?

 でも昨日もあんなに念入りに点検してたのに。

 そして、動揺が走る周囲に反して、一人ぽつりと舞台に立つミラちゃんは取り乱す事もなく平静に前を見据えていた。その落ち着きが、逆に私の不安を煽った。

 

「あ、ミケくん!」


 急に暴れ出したミケくんが、私の腕からするりと抜けて舞台に一直線に走り出した。

 

 

 

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