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ユリスの花嫁と魔騎士  作者: 椙下 裕
第一章 異世界へようこそ
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「ハル様準備よろしいですぅ?」

 ひょこりとドアの向こうから顔を出したルイーノに大きく頷いた。

 

 ユリスの花嫁やら何やらの説明を受けてから一日経ちました。昨日は色々な事情が重なり私の脳みそがパンク寸前でぐるぐる状態だったので、早めに休ませてもらう事になった。

 こういう時は寝てしまうに限るとベッドに潜り込み、部屋の豪華さなど目に留める暇もなく就寝。

 そして朝ルイーノに叩き起こされるまで熟睡していました。私は枕が変わっても眠れる子。

 

 初めはルイーノさんって呼んでたんだけど「さん」はいらないというので呼び捨てに変更。私も様いらないんだけどなぁ。

 それで、私用の服をまだ誂えてないとかで今日も制服のままで過ごす事になった。そもそも制服は毎日着るものだから全然問題ない。あ、下着は替えました勿論。

 向こうの世界はあの日ひどく寒かったので黒タイツを穿いてたんだけど、そんな厚手のものはないと言われ、別にハイソックスで構わんよと返せばソックスとは何ぞやと問い返され。

 黒のストッキングを穿かせていただく事になりました。素足でなければなんだっていいんだよ、なんだって!

 

 寝室から出ると続き部屋には美味しそうな朝食がずらり。そして何故か王妃様とお姫様もずらり。なーぜー?

「えええ! まさか来られてると思ってなくて……待たせてすみません!」

 慌ててテーブルに駆け寄った。

「いいえお姉様が謝る必要はないの。わたくし達は勝手にお邪魔して、先に朝食を済ませましたもの」

 あら本当だ! 料理のお皿はずらっと並んでるけど結構中身は減っている!

 部屋の主を待つという概念はこの国の王族にはないらしい。

 文句ありまして? とかラヴィお姫様なら言っちゃいそうだな。おおお、許せる、この子になら言われても全然腹立たないむしろちょっと言われたい。いかん、変な趣味に目覚めそうだ。

 では私も遠慮なく、とイスに座って手を合わせる。

「いただきまーす」

 手近にあるパンを取ってもふもふ口に入れる。うん美味い。ちょっと硬いけどフランスパンみたいに噛み千切れないほどじゃない。ほんのりした甘みが後からやってきて、素朴だけど飽きが来ない味だ。

 何故私は脳内食レポをしているんだろう。

 次何食べようかなぁとちょっと顔上げたら、向かいに座っていたお二方がポカンと口を開けて私を見ていた。

 あ、りゃ? どうした、私なんかマズった? もしかしてとってもお行儀悪い? え、パンって手で食べちゃ駄目なのかな、ナイフとフォーク必要? テーブルマナーのテの字も知らないから普段通りに食べちゃったけど……。

 

 反応に困ってルイーノに無言で助けを求めると「気にせずお食べ下さい」と帰ってきたので、その通りにした。

 まずは食す! 良く考えたら昨日の朝から丸一日何も食べてなかったんだよね。やっぱり環境の変化で緊張してたのかお腹は空かなかったんだけど、いざ目の前に料理出されたら途端に食欲が湧いてくるんだから不思議。

「昨日はあの人がさっさとお話を進めてしまって挨拶もさせてもらえなかったんだもの、腹が立ったのであれから文句を言って、今日一日はハル様を貸していただきましたの」

 しとやかに王妃様が仰られた。おっと私ってば貸出可能だったのですね!? まるで図書館の蔵書のようだわと思いながら二個目のパンを咀嚼する。

 あの人って王様の事だよね。成程、王様が頭が上がらないのは娘だけじゃなく奥さんもなのか。意外に尻に敷かれてたりしてね。ぷぷぷ。

「では改めましてユリスの花嫁様、私はサイラスの妻エルネスティーヌと申します」

「わたくしは娘のラヴィニアです。宜しくお願いしますわお姉様」

 ま、眩しい! まるで朝陽を間近で見ているようだ。この二人の煌めきが目に突き刺さる。しぱしぱする目を何度も瞬きする事で元に戻す。

「葛城悠です」

 知ってるわ! って感じだろうけど、やっぱ名乗られたからには名乗り返さないといけない気がしたので。

 サラリーマンが名刺交換するみたいな。

「ああそうだ忘れていたわ。今日はお昼頃までディーノが町の方へ視察で戻らないそうですので、それまでは女同士でゆっくりと過ごしましょう。ね?」

 オッケーです。問題ないです王妃様。私に用事なんてありませんし当然予定なんかもないから、むしろ相手してくれるなら有難い。

 それにディーノさんと顔合わせるのがまだ先らしいと知ってかなりホッとした。まさかあの人に天然タラシ属性があったとは思わなかった。ああいうのは対応に困るから本当にやめてほしい。


 何をするのかと思えば、どうやら私の服を作るにあたっての採寸やら好みやらの打ち合わせらしい。

 そしてひらひらレースをふんだんにあしらった豪華なドレスを色々と並べられ「どの型がお好みですか?」と問われて沈黙を守った私です。


 可愛らしいよ。素敵だとは思うけど、私に似合うかと言われたら完全否定。着せられてる感たっぷりになる事請け合い。王様なんかはドレス来た私を見たら声を上げて笑いそうだ。

「えっと、どちらかというとルイーノみたいなのがいいんですが」

 シンプルイズベスト。装飾は殆どなく裾の広がりもあまりないサラッと着れるのがいい。ついでに動きやすいと尚良し。あ、スカートは膝丈ぐらいがいいなぁ。

 希望を挙げる度にみんなが目を丸くする。この世界の一般的なファッションとはかけ離れているからだろう。

「ハル様の今の衣装も初めて見る型をしていますものね。ロウランやクトウともまた違っていて」

「そうだわ、ハル様ならクトウの衣装も似合うわね」

 クトウというのは、大陸の東の外れにある島国の名前らしい。この世界では黒髪にや黒い瞳というのはとても珍しくて、クトウの王族くらいしかいないとか。昨日フランツさんに教えてもらった。

 日本じゃありふれたこの色は、こっちでは相当目立つのだと。なんて嫌な事実なんだ。

 

 私の育ってきた文化の事情を踏まえつつ、しかしこの国でもそれほど浮かない程度の服を何着か作ってもらう事になった。今から仕上がりが楽しみだわ、と一段落した頃にはもう昼前になっていた。

 

 部屋の扉がノックされルイーノが開ける。

「失礼致します。遅れて申し訳ございません」

 はきはきとした口調で頭を下げた女性は、ディーノさんが着ていた騎士隊服の型違いを身に纏っていた。腰には細身の剣。女騎士さんのようだ。戦うレディ、カッコいい!

「ハル様、こちら昨日からディーノの代わりにわたくしの護衛に就いたマリコです」

「初めてお目にかかります。マリコと申します」

 足を揃え、びしっと敬礼するマリコさんに私も慌てて頭を下げた。眉の上で揃えられた前髪、真っ直ぐで長い後ろ髪は一つにまとめられている。きりりと少し吊り上った瞳にシャープな面立ち。出来る女です、と語っているかのよう。

「ふふぅ、マリコちゃんはあたしのお姉ちゃんなんですよぅ」

 ルイーノがマリコさんの隣に立つと彼女の腕に自分のものを絡めた。

「え、姉妹!?」

 マリコとルイーノが。マリコとルイーノ……マリ……、赤と緑の髭生やした某配管工を思い出した私は何も悪くない、はず。

 というか対照的な姉妹だな。

「この通りの妹ですがお願いします。もし手に余るようでしたら……私ではどうする事もできませんがいつでもご相談には乗りますので!」

「ちょ、ルイーノって問題児なの!?」

 マイペースだなとは思ってたけど! そういやフランツさん呼びつけたりしてたしあんまり人の下で働いてるっていう自覚はなさそうな。親身になってくれようとするマリコお姉さんだけど、妹をどうする事もできないんだ!?

 マリコさんはバリバリなキャリアウーマン風でいて実は可愛らしい人だった。

 そしてルイーノはのほほんとしてそうで最強系妹キャラだった。

「ルイーノの事で一つご忠告を。この子の前であまり血を見せませんよう」

「苦手なの? 倒れちゃうとか?」

「狂喜乱舞します」

「ルイーノーッ!?」

 はぁいなんて呑気に答えてんじゃないよ! 血を見て大はしゃぎするな!

 マリコさんは少々青褪めながら衝撃の事実を教えてくれた。

「子どもの頃から何かと手当をするのが好きで、自作の消毒液の効果を試したいからと、故意に怪我をさせられたものです」

「お姉さんに何やってんだぁーっ!!」

 子どもの作った恐ろしげな薬の実験台にすんな! お姉さんも優し過ぎるよ、それもう絶縁してもいいレベルだよ!

 ルイーノの前で絶対に怪我なんかしない。ここに誓います。く……キャラが濃いとは思ってたけどまさかここまでとは……。

「そのお陰でルイーノは今やとても優秀な救急士なのですよ」

「いやだぁ王妃様ったら照れてしまいますぅ」

 褒める相手を間違っています王妃様。マリコさんをもっと労ってあげて下さい。ルイーノは自重しろ!

 きゃーって赤らんだ頬を手で押さえながら体をくねらすルイーノは、それはもう可愛らしいけれども私はもう彼女には騙されないのだ。

 

 というような私達の賑やかな会話を傍観気味に見ていたラヴィ様は

「お城にいる者達の誰もが皆こんなだとは思わないであげて下さいませ」

 と、とても冷静で大人な言葉でこの混沌とした女子会を締めくくった。

 

 これが異世界での生活を余儀なくされた私の記念すべき第一日目でした。

 



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