表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ユリスの花嫁と魔騎士  作者: 椙下 裕
第二章 恵みの大祭
45/82

page45

 

 ブラッドは一体どこに隠し持っていたのか小さいながらも鋭利なナイフを取り出してロープに押し当てた。

「え!? 待って切らないで、折る、首折れるから!」

 地面からどんだけ離れてると思ってんのよ。このまま落とされて叩き付けられたら即死すんじゃないの私。

 手を伸ばして着地したいのは山々だけど、多分それやったら手の骨もご臨終する。

 以前に手はスカートから放せない。

 足が痛いのもお構いなしに暴れて阻止しようとする私をあざ笑うかの如くこの男は一言

 

「知るか」


 と呟いてあっさりとロープを切断した。

「ぎゃああっ!」

 悲鳴に可愛げがない事に定評のある私です。ごめんなさい、女子力の低さがこんな所にも表れるのですね。

 結果を言いますと、無事でした。

 

 ほら小学生の時、反射神経を測るとかで、上から落とした定規をどれだけ早く掴めるかっていうのやらなかった?

 あの要領です。右手でロープを切ったブラッドは、ガッと私の腰を左手で抱え込んで地面に激突する寸前で止めてくれたのです。

 肝が冷えるから普通に助けろ!

 

「も、ブラッド!」

 この男、私を降ろすどころか、あろう事かひょいと脇に抱えやがりました。

 片手で。わお細身に見えて力持ち! なんて好意的になんてみてやらないんだからね!

「どうしてあんたはいっつもいっつもかかえるの!? 抱き上げるって選択肢はないのか!」

 お姫様抱っこしろなんて言いませんが! それはそれで居た堪れない。

 でも完全に荷物扱いされるとショックなんですが。

「抱いて欲しいのか?」

「ブラッドが言うと卑猥だ!」

 違うよ、男女のほにゃららなアッチの話じゃないよ! 私が言いたいのは抱っこ。

 百も承知で言ってんでしょうけどね、この人は。ああもうやだやだ、このセクハラ大王め。

「お前、狼を連れ戻しにきたんだろ」

「戻しにって……ホズミはブラッドのとこいたの?」

「拾った」

 何をやってんだ。あんたもホズミも。

 抱えられながらもバタバタもがいていた私は、ぐったりと身体から力を抜いた。

 

 拾ったって、森を歩いてるホズミを今の私と同じようにヒョイと抱え上げたんだろうか。

 そしてホズミは大人しくされるがままだったのか?

 だからあれほど変質者には気を付けろと言いつけていたのにあの子はっ。

 

 というかホズミといいミケくんといい、ブラッドってすぐに動物拾っちゃうんだね。

 なんだい、鬼畜なくせに動物好きなところを見せてちょっとポイント上げようとでもしているのかい。

 実は心優しい一面もあるんだってアピールか。

 誰に対してしてんの。この人いっつも一人じゃん。

 という事は見せかけだけじゃなくて、本心からホズミもミケくんも放っておけなかったとか?

 うわーっ、ないわ、それないわ。今更そんなキャラ設定だしてくんな、あんたはツンデレですか!

 

 私が大人しくなったのを、暴れるの諦めたからと思ったのかブラッドは私を脇に抱えたまま歩きだした。

 とても歩きにくいと思うから降ろして欲しい。

 

 暫く会話もなく移動を続けていると、見覚えのある場所に出た。

 可憐な花が咲き乱れる、遠くの山まで見渡せる平坦な広いこの場所は初めてミケくんに遭遇した場所だ。

 ここが目的地だったらしくやっとブラッドに降ろしてもらった私は平衡感覚がおかしくなっていたらしく、久しぶりの地面の感覚によろけた。

 ズキリと右足が痛む。

 

「あれ、あんた!」

 右足首を擦りながらふてぶてしい態度のブラッドを睨みつけていると、少し離れた所から声を掛けられた。

 多分私に言ったんだろう。

「ミケくん」

 身体を仰け反らせて典型的な驚き方をしている猫族の少年だった。

「きゃーミケくーん!!」

 猫耳しっぽ触らせてー! 両手を広げて抱き着かん勢いで駆け寄った。ていうか抱き着く気満々だった。

 だけどあっさりと横に避けられて、つんのめった。

「ひどいミケくん私の愛を受け取ってくれないの!?」

「いらん」

「貰ってよ安くしとくから! 何ならタダであげるからーっ!!」

「ハル、なにやってるの?」

「ぎゃっ」

 心臓がぎゅっとなった。息が止まる。

 ミケくんの後ろにいたらしいホズミに私は全く気付けていなかった。なんたる不覚!

 浮気していた事がバレてしまった!

「ち、違うのよホズミ、今のは何て言うか、魔が差したっていうかほんのちょっとした出来心で。私が本当に愛してるのはホズミだけだから!」

「典型的な駄目男の言い訳だな」

「いっぺん死んだ方がいいんじゃないか」

「私男じゃないし死なないもの!」

 いや私自身も自分の言い訳の下手さに内心度胆抜かれたわよ、ブラッドに駄目って言われるくらいの下手っぷりだったよ、それは自覚してる。

 でも以前に、旦那の浮気が妻にバレた時の修羅場の、どうして私が旦那サイドなのか。

「大丈夫、ボクはハルの事信じてる」

「ホズミ……っ!」

 ひしっと小さな体を掻き抱いた。

 自分よりだいぶ年下の子に縋りつくってどうなんだろう、まあいいかホズミ可愛いし男前だししっかりしてるし仕方ない。


「連れてくるんじゃなかったか……」

 三文芝居にやれやれと溜め息を吐いたブラッドの事は無視する。

 ていうか私とホズミを一緒にしたらこうなるって分かれよ。あ、いやブラッドと三人でってあんまり無かったな。

 ブラッドって存在感が濃いからか、たまにしか会わないのにしょっちゅう遭遇してるような気になるんだよね。

 よいしょとホズミを抱き上げた。子どもの姿だと私はすぐに腕が痛くなって降ろしちゃうので、ホズミはよく心得てちゃんと狼の姿になってくれる。

「ブラッドって、今までもここに良く来てたの?」

「なんで」

「そりゃあさ、まんまじゃないの」

 遠く広がる花の絨毯、奥には山が聳え反対には町の建物が小さく見える。

 この場所はブラッドと最初に出会ったあの現実とも夢ともつかないあの花畑そのままだ。

 綺麗なところだし印象的だからすぐに分かった。

「……何度か」

「へぇ。あ、もしかしてミケくんとは前来た時から実は見知ってたとか?」

「…………」

 

 え? なに? なんで憮然とした表情で黙りこくるの?

 ミケくんも何とも言えない顔をしている。結局どうなの合ってるのそうじゃないの、どっちよ!

 はっきりしない人達ね。

 私もブラッドに負けじと眉間に皺を寄せて見上げると、奴はあろう事かぷいと顔をそらしたのだ。子どもかおのれは。

 

 それにしても、確かにこの花畑が見事だからと言ってブラッドが心に留めているっていうのは不思議なものだ。

 趣とか風情とか持ち合わせていなさそうなのに。

 意外なんだよなぁ、景色を見て動物達に気にして。まるで情緒豊かな人みたいじゃないか。

 ぶふーっ! って笑ってやりたい気分だ。

「ねぇホズミ的にはブラッドって優しいお兄さんなの?」

「ワウ」

「ですよね、鬼畜ですよね!」

 バチーンッ!!

 私が鬼畜って大声で言った瞬間頭叩はたかれた。

 勿論犯人はブラッド。貴様何をする!

 慌ててホズミが肩によじ登って頭をぺろぺろ舐めてくれる。ありがとう、でも髪がべとべとになりそうだ。

 因みに狼の姿の時のホズミの言葉は私の耳でもきちんと翻訳できません。何となくこういう感じの事言ってんのかなぁって読み取る程度。

「なにすんのよ、女に手を上げるなんて最低ね、この鬼畜!」

「…………」

 無言の圧力。ブラッドは背が高いから上の方からすっごいメンチ切られている。

 いい加減にしとけよ、このアマ。黙って聞いてりゃいい気になりやがって、痛い目見たいのか、ああん? とアイスニードルのような冷たく突き刺さる視線が物語っている。

 

 本日何度目か分らない溜め息を吐いたブラッドは、私の前に手を翳した。

 ぶわりと風が顔に当たって思わず目を閉じる。

「な、なに?」

 恐る恐る目を開けると、さっきまでと同じ仏頂面のブラッドに、心洗われるような花畑。

 だけどホズミとミケくんがいない。ちゃんと抱いていたはずのホズミが消えている。

「どういう事!?」

 まるで変わらないけれど、ここはたった今まで居た所とは違う。ブラッドが作り出した空間の狭間とやらだと直感で分かった。

「あいつ等がいたらお前がまともに話をしようとしない」

「あらまぁブラッドったら話をしようという気があったの」

 言葉数が少ないと言うか面倒がって必要最小限以下しか喋らないんだこの男。

 

 そんなブラッドが強引に人払いまでしたんだ、ちょいと私も気合を入れて話を聞いてやろうじゃない。

 

 

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ