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ユリスの花嫁と魔騎士  作者: 椙下 裕
第二章 恵みの大祭
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 僅かに眉間に皺を寄せたディーノに苦く笑う。

「ディーノは嫌だろうけど、私はあなたとあの人、二人が在ってディーノ・ブラッド・ファーニヴァルなんだと思うの」

「……それは、俺が欠けているという事ですか」

「え? そうじゃないそうじゃないよ! さっきも言ったけど、ディーノはディーノなの。別に欠けてる所をお互い補うとかじゃなくてね、上手く言えないんだけど、違うの」

 心の中にある漠然とした思いは簡単に言葉になってはくれない。

 ちゃんとディーノに伝えたいのに、何と言えばいいのか分らない。とてももどかしかった。

 

 二人で一つとかよく聞くけど、そうじゃなくてディーノとブラッドは足したら一じゃなくて五くらいになりそうだ。

 一人ずつでも欠けてる何てことはない。むしろ有り余る存在感と力があると思う。だけど、でも。

 この人達は片方だけじゃいけない。両者がいて初めてディーノ・ブラッド・ファーニヴァル。そんな風に感じる。

 これを言ったら、二人に……いやブラッドに殴られそうだけどね。

「ディーノもブラッドもちゃんと居て欲しいの」

 要するに私はそれが一番なんだ。どっちかが消えるなんて物騒な事は絶対にさせない。

 ブラッドの積年の思いとかディーノの胸の内なんか知ったこっちゃない。

 二人は自分が私を連れてきたって言う。なら責任とって私が元の世界に帰れるまで面倒見ろ。

 私が願う事をさせてほしい。どっちかにじゃない、二人に……

「多分私は」

 二人にこの世界に呼ばれたから。ユリスはきっとディーノ・ブラッド・ファーニヴァルの請いを受けて私を寄越したんじゃないかって今なら思うから。

 

「……ハル?」

「ううん、でもどうしようかなって。ブラッドの事もあるしずっとディーノと一緒にいるのはいいんだけど、夜がね」

「ああそうだ、あの男と一夜を共にした話がまだでしたね」

「そこに戻るの!? 私ったらとんだやぶへび!」

 暗くなりかけた雰囲気をどうにかしようと話題変えたらこれだよ全く! ディーノしつこい。ヘビのようだ。ヘビが本当にしつこいのか私は知らないけど。

 そして一夜を共にしたとか言うな。エロい誤解を招くでしょうが。なんもなかったよ! 完全な濡れ衣……あれ、なんもなかった、のかな?

 うーん、ベロチューされたのは牢屋でだし、抱き込まれたけどそれだけだったし。

 なにか、に入るのか入らないのか。経験がなさ過ぎてよく分からない。

「思い出してるんですか、なにを?」

「ディーノ怖い……」

「潔白であれば恐れる必要はないと思いますが」

「いや自分の今の迫力分かって無いでしょ!? 小動物なら心臓止まっちゃいそうな勢いだよ!?」

 目が、目が笑ってないの!

「ディーノが心配しているような事は一切なかったと最初に言っておきます! 奴は私をホズミと同系列としてしか見てないからね、うん」

 あれは正にそんな感じだった。泣く子供には勝てないっていうそれだけだった。

 おおお、言ってて自分で傷つくわ。一応お年頃の女の子としての自覚はある。

 しかし女慣れしてそうなブラッドからしたら私なんざ取るに足らないガキだったんだな、くそっ、一発殴ってやりたくなってきた。

 決して手を出してほしかったわけじゃないけど!

 

「ていうかディーノ考えてみなよ。倫理的に考えて未婚の男女が同じ部屋でってのは拙い。だけど私だよ? よく見なよ、これに手を出そうと思う? ディーノなら出す?」

 ねぇよ。まずねぇよ。こんな引く手数多の選り取りみどりの美形が、こんなちんちくりんな女にわざわざ手を出したりしないだろう。

 私がハンナさんみたいな豊満ボディだったならいざ知らず。変態さんだけどそれはもう見応え触り応えのある身体だったもの。羨ましい……。

 ぎりり、と歯を食いしばっていると、頭より高い位置からため息がポロンと零れ落ちて来た。

「ハルのいた国がどうだったかは知りませんが、こちらの男をあまり過信しない事ですよ」

 そう言ってポンポンと頭を軽く撫でてきた。

 完全に子ども扱いじゃないか!

「でぇい!」

 ディーノの手を乱暴にはたき落とす。

 笑われるかと思って先手を打ってギロリと睨むと、意外にもディーノは困ったように眉尻を下げていた。

「俺はこうやってハルの事をわざと子ども扱いしていないと、どうにもなりませんけどね」

「…………ん?」

 今、なんと? なんかすっごい事言われたような気のせいのような。

 ぶわあああと顔に熱が集まるのが分かる。

「もう何度言ったか分りませんけど……危機感、持って下さい」

 固まる私を置いて、ディーノはくるりと背を向けるとドアに向かって歩き出した。

 で、出ていっちゃう?

「ディ、ディーノ!」

 両手を伸ばして彼の服の裾を掴む。なんとか間に合った。

 顔だけこっちに向けたディーノを見上げる。

「持つ、危機感持つけど、ディーノと一緒にいる……」

 最後の方は恥ずかし過ぎてボソボソと呟くような音量になってしまった。

 でもばっちり聞こえたらしいディーノは目を閉じて首を捻った。若干眉間に皺が寄っている。

「それ、持ってますか?」

「持ってる持ってる! 両手に抱えきれないくらいだよ!」

「ハルの両手は小さいですもんね……」

 どういう呆れ方だそれ! いっそ憐れむような目をくれるな悲しくなるじゃない!

「そうですね、一度くらい襲われてみないと分らないのかもしれませんね」

「ディーノ怖い!」

 さっきとは違った恐怖がぞくりと背筋に走った。

「ディーノを信頼してるって事だよー」

「それは全く嬉しくないんですが」

「なん……だと」

 男の人って難しい。信頼されたら普通喜ぶもんじゃないのか。

「まぁ、一緒の部屋では寝ますよ。さっきの侍女がどんな行動に出るか分りませんし。運び込める簡易ベッドがないか聞きに行こうと思っただけです」

 あ、そうでしたか……。

 ぱっと手を離した。すみません、ちょっと服皺になっちゃった。

 

「こんな感じに纏まりましたが、満足ですか?」

 ディーノの問いかけに首を捻る。私にではなく、あらぬ方向を向いてるから。

 足音を消して扉に近付くと内開き戸を開いた。

「おっと」

 部屋のすぐ外側に見慣れた金髪。ぱっと扉から離れて両手を上げたのは隠しようのない美貌のソレスタさんだ。

 そしてその横には何故か執事さん。

 二人はずっと聞き耳を立ててたのがバレバレな場所に立っていた。

「あっははー、お邪魔様ー」

「おやバレましたか」

「なっに古典的な事してんじゃあーっ!!」

 つーか執事さんあんた本当になんなのよ!?

 謎だわ、私が出会った人の中で一番言動が謎!!

 

「ですから初日に同室に致しますかと尋ねましたのに」

 ブツブツと文句を言いながら、屋敷に働いているのだろう男性陣に持たせていた簡易ベッドを部屋の中へと入れている。

 準備良過ぎだろう!

「で、お二人のベッドの間に衝立は必要ですか? なんならくっつけますが」

「くっつけたら簡易ベッドの意味あんまないと思います! 衝立希望!」

 そもそもこの部屋に設置されていたベッドはダブル以上に幅広なのだ。

 横に並んで寝るなら、もうそれは同じベッドで寝るのと大差ない。

 

「とか言いつつ、明日の朝には衝立は取っ払われるのよ」

「ええそうでしょうね。結局この簡易ベッドも無意味なんでしょう」

 頷き合う賢者と執事。

「仲良いねあんた等! つかそんな事にはならない!」

 ギャーギャーと騒いでいると、隣の部屋で熟睡していたらしいホズミが起きてきて、目をこすりながら「ハルうるさい……」と苦情を申し立ててきた。

 ご、ごめんなさい。

 

 ちくしょう、小一時間ほど前までのシリアスな雰囲気は何処へ消えた!

 

 


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