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ユリスの花嫁と魔騎士  作者: 椙下 裕
第二章 恵みの大祭
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ちょい役ハンナさんが思いの外書いてて楽しかったのでついつい調子に乗りました。

そのせいでまたページ数が…


 大慌てで出て行ったはずの私がホズミを連れて程なく帰って来たのを、あんぐりと口を開けてソレスタさんが眺めていた。

 しかも私がプリプリ怒ってるもんだから、頭の上に疑問符が幾つも浮かんでいるような顔になっている。

「……ディーノは?」

「やたらグラマラスなお姉さんと乳繰り合ってる」

「あらま」

 私の不機嫌を察して急にソレスタさんの表情が冷めた。

 どさりとソファに倒れ込む。

「暫くディーノと口聞きたくない気分です」

「あらそれは大変ね、ディーノ」

「ハル、俺の話を聞いて下さい」

「そんな気分じゃないって……うわあああっ!? ディーノいつ入ってきたの!?」

「わたくしもおります」

 ふふふ、と艶やかにほほ笑む侍女さんも後ろに控えていた。

 いやあああ! 二人の気配全然しなかったんですけど! ドアの開閉さえ気づかなかったんですけどー!?

 ていうか。

「二人揃って仲良くご登場?」

 自然と冷めきった目で、私の足元に膝をついているディーノを見下ろしてしまった。

 不信感しかない眼差しで。

「特に聖騎士様とご一緒なのに他意はございませんが、わたくしもユリスの花嫁様に弁解したく参りました」

「ち、近い近い! なんかすごくいい匂いする! てか触んないで!」

 また音もなく近づいてきたかと思うと私の太ももに手を乗せて侍女さんが、すっごい顔近づけてきた。

 何この人ちょっと怖い!

 ここの侍女さんの特技って気配なくそっと行動する事だってのは知ってたけど、これくノ一もビックリだよ!

「お姉さん本当に侍女なの? 本業は暗殺とかじゃないの!?」

「人に気取られぬよう動くのは当然です。だってそうしないと……夜這いが出来ないではありませんか!!」

「するなーっ!!」

 うわああん変態さんだぁっ!! 拳握りしめて言うことじゃないーっ。

 お姉さんから逃げたい一心でソファからずり落ちてディーノにしがみついた。

「後ろからこっそり近づいて逃げ場をなくす時にも有効ですわ」

「犯罪者! 犯罪者の行動!」

 身体がガクガク震える。この人本気の本気で危ない人だ!

 男の人にさえ感じた事のない貞操の危機とやらをこの女性から感じるんだけど!?


「ああ、その怯えた表情もそそられます」

「ひいいいっ!!」

 お姉さんの顔を見るのも見られるのも耐えられなくなってディーノの服に蹲る。

「というわけでわたくし、男の方に興味ありませんの。だからユリスの花嫁様が心配するのはわたくしと聖騎士様の間ではなく、ご自身の純潔ですね」

「うわー! わー! 言わないで怖い怖い! ……てかてか、さっき、ディーノとイチャイチャ!」

 前代未聞の宣言にテンパってるけど、さっき見た光景は頭にこびりついている。

「だから、してませんって……」

 ここで漸くディーノが口を挟んだ。

 緩やかながら弾丸トークを繰り広げる侍女さんのおかげでなかなか喋れなかったみたい。

「さっきのはユリスの花嫁様を是非紹介していただけないかお頼みしておりました。紹介料として胸くらいなら触っていただいても結構ですと言ったのですが、聖騎士様は取り合って下さらなくって」

「ご自分の身体をもっと大切に扱って下さい!!」

「あらお優しい」

 そうでなく!! 胸くらいならってあーた!

 いやそんだけ大きいカップの胸ならむしろ惜しむ事もないのかもしれない。私は巨乳じゃないからその辺の心境は分らん。分らんが、同じ女としてそれはどうかと思うんだ!

「段取りは狂ってしまいましたが、ユリスの花嫁様とお近づきになれた事ですし、今日のところは退散いたします。これからしばらく貴女のお付をさせていただきますのでよろしくお願いしますわ。あ、そうそうわたくしハンナと申します」

「チェンジ希望! 誰か他の方を!」

「では失礼いたします」

 無視されたーっ! すっげぇ華麗にスルーされたーっ!

 何なのこの屋敷。侯爵に始まり執事に侍女さんに、お城とはまた違った奇抜な人選過ぎるでしょ。

 泣きたい。

「あ、明日から私自分の部屋でも心休まらない……」

「あらちょうど良かったじゃない」

「何が!?」

 私がハンナさんに熱烈アタック(死語?)を受けてた時完全に傍観者になっていたソレスタさんが口を開いた。

 この人全然助ける気無かったよね。力を使えないの云々言ってたけど、やっぱ基本的にソレスタさんは人を助ける気が無いだけなんだと思うな。

「そうやってディーノにくっついてればいいでしょ。お互い見張れて一石二鳥」

「見張るとは、どういう意味です」

 目ざとくソレスタさんの微妙な言い回しに反応するディーノ。

 しかし私は違う所に反応してしまいました。

 くっついていればいい。そうやって? はい、こうやってですね。

 ハンナさんが怖くて必死過ぎて自分がやらかした事に今の今まで全く気付いてなかった。

 

 私もディーノもしゃがんだ姿勢でべったりくっついたままだ。

 無我夢中でしがみつく私を隠すようにディーノは背に腕を回して……。

「どっせーい!!」

 思い切りディーノを突き飛ばした。が、ディーノはまるで岩のように全く微動だにせず、反動に負けた私が尻餅ついた。

 ディーノにソレスタさん、ホズミがぽかんとしてみてくる。

 恥ずかしい。あの掛け声も合わせて何もかもが恥ずかしい。

「大丈夫ですか?」

「ご、ごめん、大丈夫です。あの、ハンナさんが怖くてその、ごめん」

 抱き着いてごめんとはさすがに言えなくて変な謝り方になった。

 真っ赤な顔見られたくないから俯く。

 するとそっと両脇に手を入れて持ち上げられ、ソファに降ろされた。

 ディーノは「何がですか?」とにっこり笑う。お、大人の対応だ。

 私の一連の挙動不審な行動を黙殺してくれた! が、しかし更に大人であるはずのソレスタさんがものっそいニタニタ笑ってくる。ダメだあの男。

 

「で、お互いに見張るとは」

 会話の流れを巻き戻したディーノは、無表情にソレスタさんに問い質した。

「そのままの意味よ。命を狙われてるディーノと、貞操の危機のハルちゃん。バラバラにいるより一緒にいた方がいいじゃないって事」

 未だニヤニヤを止めないソレスタさん。このオヤジめ。

 そういうとこちょっとディーノのお爺ちゃんと被る。

「特にハルちゃんなんて夜這い宣言されちゃってるものねー、これはもう同じ部屋で寝泊まりしないといけないわねー」

 何故棒読み。

 心のこもって無い事この上ないよ。

 つか今なんてった?

「寝泊まり?」

「そうよー、ディーノの部屋でもこっちでも。あ、そしたら空いた方の部屋アタシに使わせてね、あのケチ侯爵ったら部屋用意してくんないのよ。でもそうしたら、ハルちゃんが使ったベッドでアタシ寝る事になるのかしら?」


 ガン!! ガシャン!!

 ディーノが長い脚でテーブルを蹴ったせいで上に置いていたティーカップが揺れて倒れた。

 聖騎士様ご乱心!

「あんまり巫山戯が過ぎると斬りますよ」

「……ディーノ……」

 なんて極上スマイルで聖剣を構えるんですかあなた。

 ソレスタさんは全然懲りてないんだけどね。この人の肝の座り方は尋常じゃない。

「ああはいはい、じゃあアンタ達はこの部屋でアタシが隣ね。えーディーノのベッドかぁ。汗臭かったら嫌だわ」

「ソファで寝て下さい気持ち悪い」

 うん是非ともそうしてほしい。なんでかちょっと私も気持ち悪くなってきた。ソレスタさんが。

 シーツは侍女さんが新しいのに変えてくれてはいるだろうと分かっていてもね。

「ほらホズミ行くわよ」

「えっ!?」

 ソファで狼の姿で丸まっていたホズミがひょいとソレスタさんに片手で抱え上げられた。

「ホズミ連れてっちゃうの?」

「そりゃ子供がいちゃゆっくりじっくり出来ないでしょう」

 ……何を、とか聞かないからな。私は絶対聞かないんだからな。

「あら何よ、何想像したのよ? 話し合いに決まってるじゃない。いやねぇもう」

「なんも言ってないでしょうがっ!!」

 誘導されたツッコミはすまいと耐えたのに、言わなくても続けやがったよこの人。

「後は若いお二人でってね」

 くふふ! と不自然な笑い声を出してドアノブを掴む。

 そしてこちらを振り返った。

「ちょ、ちょっとソレスタさん、夜もディーノと一緒の部屋とか、冗談だよね?」

「何気にしてるのよ。ブラッドとは寝たんでしょ? デズモンドに聞いたんだから」

「わーーーーっ!!」

 デズモンドって誰だ!? あ、ディーノのお祖父ちゃんか!

 急に掘り起こされた過去の傷に思わず耳を塞いだ。

 けどすぐ傍でした囁き声は全く防いでくれなかった。

「本当にちょっとじっくり話し合う必要がありそうですね、ハル?」


 友好的に微笑んでいるはずのディーノから冷気が駄々漏れで、背筋がぞくぞくする。

 あはは、と引き攣った笑みを返しながら走って逃げようとしたんだけど、肩を掴まれて阻止された。

 軽くポンと置いているだけに見えるのに一歩も動けないんだけど、どうした私の身体。秘孔を突かれたのか!?

 

 気付いたらソレスタさんとホズミの姿は消えてきた。

「ディーノ落ち着こう、平和的に話を」

「だから、そう言ってるじゃないですか」

 あなたが今から行おうとしているのは話し合いじゃなく尋問でしょ!?

「あの男と寝たというのは本当ですか」

「寝たとか言わないで!! 誤解です誤解! ブラッドとは至って清い」

 焦りながら弁解しようとする私の言葉をディーノが遮った。

 両手で私の頬を包んで、顔ごと上を向けさせられる。そこには真っ直ぐ私を見下ろす朱金の瞳があった。

「俺が、ディーノ・ブラッド・ファーニヴァルです」

 確かにそうなんだろう。ソレスタさんも今はブラッドの名はディーノに返還されたと言っていた。

 けれど彼だってブラッドじゃないの。二十年以上もの間その名で生きてきたはずだ。

 あの子とかアイツでも、レイでもない。

 ディーノとブラッドの関係は特殊で、お互いに認めたくないものなのだというのは分かっている。でもブラッドという存在を否定するような事を私はしたくない。

「ディーノはディーノ。ブラッドはブラッドだよ」

 

 ディーノの手に自分のを添えて、はっきりとそう言った。

 

 


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