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うちの両親の話を少し。珍しいパターンの話ではないんだけど、いわゆる出来ちゃった結婚だったわけです。同じ会社の同僚で、当時二人はちゃんと付き合っていたので、社内恋愛の末の結婚。まあ子どもが出来た時期がちょっぴり早かったよねっていう、周囲の反応はそんな感じだったらしい。
しかし当人達は違っていた。
確かに付き合ってはいたんだけど、母曰く
「私、あの人と結婚する気なんてサラサラなかったのよね」
だそうだ。父も概ね同じ意見とか。どんなカップルだよおい、ねえ!?
気が合うし一緒に遊ぶのも面白いし、付き合うのは全然良かったんだけど、結婚はこの人じゃないとお互い思ってたんだそうです。でも私が出来てしまったのでそうも言ってられなくなった。
仲が悪いわけじゃないけど、結構ドライな二人で、しかも子供の私にそれを躊躇いもなく言っちゃう両親なんです。
父母ともに自由人なので、休日も思い思いに予定を入れて適当に過ごしてるから、昔から家族で出かける事はごく稀だった。
それに対して、仲のいい家族って言われると私は一番に友人のところを思い浮かべる。あそこは本当に和気藹藹としてて、家も居心地がいい。
おじさんもおばさんも仕事が忙しくてあんまり家にいないし、お姉さんも歳が離れているんだけど不思議と温かみのある家だ。
なんというかサザエさん的な安心感がある。羨ましいなぁと思っていた。
しかし今回ディーノのお父様と対面して分かった。私はとても恵まれていたのだと。
愛があるのかと言われたら正直微妙だけど、親としての自覚はちゃんとあるんだようちの両親は。
だけど侯爵のあれはあかん。あれは駄目だ。
どうやらお母様はディーノが産んですぐに亡くなられたそうで、侯爵のあの態度はそれが原因らしいのだけれど。
それにしたってあの毒はちょっと強すぎませんか。聞いてるこっちが泣きそうになったわ。
ディーノはディーノで何も言い返さないし。
キリングヴェイに来て二日目、既に胃に穴があきそうです。
昨日と打って変わっていい天気。というわけで町をディーノと二人で散歩です。
城下町と違ってここはゆったりとした田園風景が広がっている。田畑は青々と作物が追い茂り、砂利道のところどころに点々と家が建っている、こののんびりとした田舎町をてくてくと歩いて散策しています。
さっきから擦違う人達がみんなフレンドリーに話し掛けてくれるんだよね。
そんで農作業中だったおじちゃんが、この先に大きな湖があるから行っておいでーって教えてくれたから行く。
だんだんと民家がなくなり道が細くなって辺り木々が増え始め、あれこっちで良かったんだよねぇ? と不安になり始めた頃、急に視界が開けて目の前に湖が現れた。
「おおお!」
澄んだ水が太陽の光を反射してキラキラしている。
自然と両手を広げながら湖の傍まで寄った。
「キレイキレイ! ディーノ!」
後ろの方を歩いていたディーノを振り返ると、彼は眩しそうに目を細めていた。
朱金の瞳が湖の色を吸収して輝いて見えた。風に靡く髪までキラキラしてる気がする。何これ、ディーノ自体が煌めいてんの? この人発行体なの、美形にだけ与えられた特殊スキルなの?
「話には聞いていましたが、本当に豊かな土地ですねここは」
「良い所だねぇ、侯爵を継いだらディーノもここに住むの?」
今はディーノは宮廷騎士だからお城のすぐ近く、貴族の邸宅が立ち並ぶ市街地に住んでるらしい。
でもディーノは嫡男だって言ってたし、お父さんと不仲とは言ってもいずれは跡を継ぐんだろう。そう思ったんだけど、彼は苦笑しながら首を振った。
「相続はしません。あの人もさせる気はないでしょうし」
「兄弟いるの?」
「さぁ、俺が知る限りではいないと思います」
う? じゃあ、あれ? 誰が継ぐんですか?
「継ぐ者のいなくなった爵位とその領地は一度国に返還されます。その後功績を上げた家に再度振り分けられるんです」
「じゃあ全然知らない人のものになっちゃうって事? ディーノ、それでいいの?」
本来ならディーノが治めるはずなのに、全然繋がりのない他人にあげちゃうなんて。ディーノが悪代官みたいな人なら同情の余地なしなんだけど、絶対善良な領主様になるよ。私が保障するよ!
ぐっと拳を握りしめた私だけどディーノは全くその気はないようで。
「俺は騎士の仕事だけでいっぱいいっぱいですよ」
どうやら領主になるつもりはないらしい。欲のない人だなぁ。
こういうのって物語の中でも現実でもありがちな相続争いとかに発展するパターンだと思うんだけどね。
ディーノがいいならいいんだけど。あのお父さんと変に争う種を増やすだけ馬鹿らしいってとこかな。
良かったな侯爵、ディーノが大人な対応してくれて。
それにしても、こんな美しい景色を眺めながら私達はどうしてこんなギスギスしたお家事情の話をしてるんだろうね! 激しく何かを間違ってる。ここはもっとロマンティックな話をしなければなるまい。
胸きゅんな恋の話をな!
「ねぇディーノ……前から聞こうと思ってたんだけど」
恥ずかしくなって顔を湖の方に向ける。
「ディーノから見て、ルイーノとウィルちゃんってどうなのかな!?」
「……どう、と言われても」
分かるだろ! 私が言わんとしてる事分らないの!?
あの二人の関係がこの先どう進展していくかだよ、あるのないの!? ロマンス!!
「お互いの想いは知りませんが、将来を考えるのは難しいでしょうね」
「え、何で!?」
「身分が違いますから。ウィルフレッドは市民の出なんです」
ルイーノはディーノの従姉妹なので、それなりなお家のお嬢さんなんですよ。
身分か……、それは難しい問題だな。ウィルちゃんにその壁を乗り越えてでも! みたいな甲斐性は求められないしなぁ。
ああ残念だ。あの二人のやり取りを見てニヤニヤするのが楽しみだったのに。
「ハルは人の世話を焼く方なんですか?」
いえ、どちらかというとリア充爆発しろって思う方です。
でもこの世界の人の事だと、どっかで二次元的に捉えてしまっているのか、ユー達付き合っちゃいなよ! って思っちゃうんだよね。
「ホズミの件もありますし、面倒見がいいんでしょうね」
ホズミのは、小学生が捨て猫を拾ってきちゃうのと原理は一緒なんです。最初はほんと、深く考えてなかった。
とてもディーノの中で私の行動が良いように解釈されてしまっている。私そんな出来た人間じゃありませんよ。それにね
「返したいだけだよ。みんなに良くしてもらってるから、私も何かで返したい。ユリスの花嫁として結果を残せればそれが一番なんだけどね」
ホズミもう泣いてないかな。ルイーノに慰めてもらってるのかな。
結局あれから殆ど顔を合わせずにキリングヴェイに来ちゃった。
ああもう何やってんだかなぁ私って大反省ですよ。一人ぼっちが嫌だって泣いてたホズミをどうにかしてあげたいのに、逆に傷つけてしまった。
どうしよう、本格的に嫌われてたらどうしよう、私立ち直れない。
「結果、ですか」
ホズミに嫌われる想像をして撃沈してしまった私の隣でポツリとディーノが呟いた。
「ディーノ?」
「結果だけを残して」
「おーい! おーふたりさーん!!」
遠くで呼ぶ声がしてディーノは言葉を切った。
同時に私達も通ってきた並木道を見ると、ここを教えてくれたおじちゃんがトタトタと走っていた。
「良かった、まだここでイチャイチャしてて」
「してませんよ!」
私達のどこをどう見たらそんな表現が出てくるんだ!? ただ普通に話してただけでしょうが!
即座に否定した私と違って、笑いながら軽く流したディーノはやっぱ大人だね。
「で、どうしました?」
「二人を探してるえっらい美人さんが来てるぞー」
美人? ディーノと顔を見合わせた。誰だろう。王妃様を筆頭にお城に居る女性陣は基本的に全員が美人だ。
でもまさか王妃様やラヴィ様が来るわけないだろう……来ないよね?
さすがに王都からそんな簡単に出たりしないよね、王様だって許すはずない。ない、はず
いやでもあのラヴィ様のフラグ乱立っぷりはもはや鬼畜の所業だからね。油断は禁物なのです。
「あーいたいた、探したわよー!」
手を振りながらゆったり歩いて来たのは、白いローブを着た美青年でした。
「ラヴィ様じゃねぇのかよ!! がっかりだよ!!」
「この美貌の大賢者様の何がご不満!?」
はい、というわけでお姫様じゃなくてソレスタ様でした。
あんだけ否定したのにやっぱラヴィ様じゃん!! ってツッコミする気満々だったのに、どうしてくれんのよ私のこの意気込み。
しかし大賢者様がこんな長閑な田舎町に何の用事だろうか。あ、『美貌の』の部分はスルーで。
そこに反応すると調子乗りそうだからね。
「おお、こうやって並ぶと圧巻だなぁ」
しげしげとディーノとソレスタさんを眺めておじさんが言う。それについては全くの同意見です。
おじさんと私は頷き合う。どんな心の通じ方だ。
そしておじさんの言葉に気を良くした自称賢者様はにっこりと笑った。単純な人だな。
「大祭にアタシも呼ばれてたのよ。貴女達と一緒に来ようと思ってたのに、人が仕事してる間に勝手に出発しちゃうんだもの」
あ、そうだったんですか。それは申し訳ない。ていうか知らないし。王様も一切そんな事言わなかったもの。
「ああその大祭なんだがなぁ」
のんびりした口調でおじちゃんが思案気に喋り出した。
「このままじゃあ中止になりそうなんだよ」
ちゅうしになりそうなんだよ。
とても簡単な事を言われたのに、その意味を理解するのに数秒かかった。
ディーノもソレスタさんもぽかんとしている。
「な、なんだってー!?」




