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ユリスの花嫁と魔騎士  作者: 椙下 裕
第一章 異世界へようこそ
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 フランツさんが慣れた足取りで通路を進んで行く。私はその後ろをキョロキョロ周りを見渡しながらおのぼりさん丸出しでついて行く。更にその後ろをしとやかに歩きながらルイーノさんが。

 社会見学に来た学生が先生について色々見回ってるみたいな気分だ。

 そして会話もなく一列に並ぶ私達を見て、給仕らしいシンプルだけど仕立ての良さそうな服に身を包んだ人達が道を開けてこうべを垂れる。

 ハッキリ言って、ものっそい居心地悪いです。


 花嫁について以外にも聞こうと思っていたらルイーノさんが戻ってきて「陛下がお呼びですぅ」と言ってのけた。

 陛下って王様だよね。王様が呼んでいる、だと?

 恐々とする私にフランツさんはあっさりと「では行きましょうか」なんて簡単に促す。

 

 神官だ王様だ宰相だと、現代日本じゃ現実感のないファンタジーならではの職業名が飛び出して正直まだ頭が追いつかない。

 けどこの、掃除の行き届いたピカピカの大理石の廊下に白亜の壁、高価そうな陶器に飾られたこれまた立派な花、掛けられた大きな絵画達。

 ザ・キャッスル。RPGでお馴染みの王様のいるお城を体現しちゃったようなこの城に、ああ私違う世界に迷い込んじゃったんだなぁってしみじみ思えた。

 とかなんとか、半分現実逃避してる間に目的地に到着したようです。逃げたい。

「失礼致します」

 フランツ様がノックをすると内側から扉が開かれた。

 中は淡い色調でまとめられた調度品や長いテーブルとソファが置かれてもなお余りある、広々とした部屋だった。

 扉の前には左右に警備の人が立っていて、部屋の奥には何人かのメイドさん。

 部屋の真ん中にあるソファに夫婦らしき男女と、彼らの子どもだろう女の子が鎮座していた。

 

 男の人は悠々と足を組んで寛いだ様子。女の人はニコニコと微笑みながら飲み物を飲んでいる。

 女の子はまるでお人形のようにちょこんと前を向いて座っている。

 おおう眩しい! ただそこにいるだけで高貴なオーラを纏っている、生まれながらにして人の上に立つ事を定められた者にしか許されないこの存在感。

 この方々が王様と王妃様、そしてお姫様ですね分ります。自然と床に座り込んで「ありがたやありがたや」ってやりたくなる。絶対私の祖先はド田舎農民だ。


「陛下、ユリスの花嫁様をお連れ致しました。こちらが我々の呼びかけに応えて下さったハル様です」

 フランツ様がそう言って私の背中を押した。一歩前に出ると王様は私の全身をざっと見て首を傾げた。

 王様って言うと立派な顎髭をたくわえた白髪の、トランプのキングみたいなのを想像していたけれど、目の前にいる人はまだ歳若い。

 子どもの女の子がまだ小学生くらいだし、三十代前半ってところか?

「やはりその子が、か。ユリスは随分と可愛らしい方を召されたのだな」

 組んでいた足を解いて、体を前に傾けた王様は少しだけ笑った。

 今のは容姿云々の事を言ったのではなく、こんな何も出来無さそうな娘がどうして選ばれたのかっていうような意味合いだ絶対。

 それについては私も激しく同意だから何も言い返さない。役立たずだろうって言われた気がするから頷きもしないけどね!

 王様の言外の思いを察したフランツさんがクスリと笑う。

「私は成程、と納得しましたよ」

 何が!? 神様の思考を理解できたとな!? さすが神官様という事なのかしら。

「お前がそう言うならそうなのだろうな。まぁ確かに、面白くはなりそうだ」

 値踏みするようにもう一度私を見てニヤリと笑った。この王様さり気無く性格悪そう!

 私の勝手な王様像とかけ離れていた事の動揺と、全く話について行けない事実に困り果ててフランツさんを伺った。

 心得てますよと言わんばかりに頷かれる。ああこの人の温和さが救いだ。

「ハル様はこちらの状況を何も聞き及んでいない状態で召されたようで。ご自身がどういったお立場に立たされておいでなのかも、理解されてない様子」

 なんかそう言われるとアホの子みたいじゃないか? いやフランツさんの言った事は全てその通りなのですが!

「訳も分からぬまま単身放り出されたのか。神の祝福を受けた者だというのになかなか不憫だな」

 それは皮肉ですかコノヤロウって言いたくなったけど、意外にも王様の表情には同情の色が浮かんでいた。

 言葉のまんま、異世界でボッチにされてしまった私を憐れんでくれているようだ。そこまで悪い人ではないのかな。

「しかもこちらの願いを見事叶えなければ元の世界には帰れない。幼気いたいけな娘に全く神というのも理不尽な事をする」

「え?」

 願いを叶える?

 そういえばコスプレお兄さんも同じような事を言っていた。望みを叶えたら帰してやるとか。いや本当王様の言う通り、ユリスさんったらただの平凡女子高生になんちゅう無理難題押し付けてくれてんだ。

 しかし来てしまったものは仕方ない。

「で、私が叶えなきゃいけない願いってのは何なんでしょう」

 王様の願い事を私なんかが叶えられるとは到底思えない。

 この国の更なる繁栄を、とかのたまったら即刻投げるけどね。そんなものはお偉いさん方がうんうん悩んで考えてくれっていう。それ以外ならまぁ難しくてもなんとか

「ここの所急速に勢力を増大させている魔を打ち払い、この国引いては世界に安寧をもたらせて欲しい」

 なんとかならんわ。投げだ投げ!

 王様がユリスの花嫁は本当に私なのかと疑問に思い、そして同情してくれた真の意味を理解した。

 どっからどう見ても私なんかがどうにか出来る問題じゃないし、事実私じゃ太刀打ちできない。

 神よ、もう一度問います。何故私を遣わせたのですか。

 魔を打ち払うって事は戦闘とかあるんじゃないの。私運動神経そこそこしかないし、武器なんか新聞紙丸めて作った棒くらいしか振った事ない。当然経験値ゼロのたまねぎ戦士以下の活躍しか見込めないよ。

「物騒な事は全て殿方に任せておけばよろしいのよ」

 部屋に鈴の音が転がるような子ども特有の高い声が響いた。

 ずっと前を向いて微動だにせず大人しく座っていたお姫様の声と思われる。でも喋った内容があまりにも。

「あらあらラヴィったら、話の腰を折っては駄目よ?」

 優しく諭すのはその隣にいる王妃様。だがお姫様は母親の方を見て頬を膨らませた。

「折ってないもの! だってこのお姉様に恐ろしい魔物と戦えと言うの? 無理じゃない、そんなものは騎士達に任せておけばいいの、その為の彼等じゃない」

 お、大人しいお人形さんみたいな子だと思っていたら、ズバズバはっきり物を言う子だなぁ。ちょっと気持ちいい。

「なにも私達だってハル様に戦えなどとお願いするつもりは毛頭ありませんよ」

 フランツ様が苦笑する。良かった! 言われるかと思ってかなり焦ったよ。

「けれどお父様達はそういう人を望んで儀式をしたでしょう」

「そのはずなんだがな」

 そう、でしょうね。魔物なんて見た事ないけどきっと恐ろしい化け物に違いない。そんなのと戦える強い人を神に頼んだんだろう。

 なのに私が来てしまった。見るからに役に立たなさそうな。儀式の最中に私が現れた時の皆はさぞ落胆したんじゃないだろうか。

 え、もしかしてコイツがユリスの花嫁とか? マジかよぜってー使えねぇって。返品できねぇの? いや待てってもしかしたらタイミング良く空から降ってきただけの全然関係ない小娘かもしんねぇじゃん。は? 空から降ってくるとかありえなくね? まぁ本人気絶しちゃってるし、起きて確認するまで保留って事にしとこうぜ。みたいな。

 ……私のせいじゃないのに私が悪いみたいなこの罪悪感はどうしてだ。

 会話を続けるたびに私のハートがズタズタになっていくんだけど。もうやめてよー。

「大体、自分達ではどうにもならないからと言って、全く関係のない世界の人に責任を押し付けるなんてどうかしてると思うの!」

「あー……そういえばディーノはどうした?」

 娘に追及されて咄嗟に話題変えたよ王様弱っ!

 お姫様はツンとそっぽを向きながら「すぐに来ます」と答えた。私このお姫様好きだわ。

 さっき王妃様がラヴィって言ってたっけ。名前もなんて可愛らしい。お美しい王妃様に似た、透き通るような白い肌にブロンドの長い髪がよく映える。意志の強そうなアーモンド型の大きな瞳。美少女だ。将来が楽しみで仕方ない。

「そもそも、ディーノが不甲斐ないせいなのだわ。彼がもっとちゃんと自覚を持っていれば……」

「えぇと、申し訳ありません。私の話ですか?」

 お姫様に釘付けになっている間に開けられていたらしい扉の前に男性が立っていた。どこか困ったように眉を下げながらも笑みを浮かべ、一礼して中に入って来る。どうやらこの人がディーノさんらしい。

 赤と白を基調とした詰襟の服を着た背の高いお兄さんだ。腰には剣装着されているから、騎士さんなんだろうか。

「遅れて申し訳ありません」

 私の傍まで来るともう一度謝った。

 うわぁっ。間近で見るとやっぱり背が高い。というか、というかこの人すっごい綺麗な顔してるよ! 正統派美形だ、イケメンっていうか美形だ!

 髪は濃紺で短か過ぎず長すぎず、清潔感がある感じ。すっと鼻筋が通っていてその下の口は笑みを作るように少し弧を描いていて優しげだ。輪郭はシャープで男前度を上げている。

 おおお! やっぱファンタジーっちゃ美形のお兄ちゃんだよね! 今の私はこの世界に来て一番テンション上がってます。私だって年頃の女の子ですし? 人並みにトキメキますとも。

 興奮気味に、しかし表情には出さないように必死に押え込みながらディーノさんを舐めるように見まくって、行き着いた瞳から視線を逸らせなくなった。

 彼も真っ直ぐ私を見ていた。その瞳が見事な朱金色をしていて。

「お加減はどうですか? ユリスの花嫁様」

 ふわりと微笑むディーノさん。

 こ、こ、この人最初に私を抱きとめてくれた人だぁー!!

 


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