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ユリスの花嫁と魔騎士  作者: 椙下 裕
第一章 異世界へようこそ
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 ディーノは過保護過ぎると思うんだ。私って対魔物戦の要員として呼ばれたんだよね。なのに魔物に接触しただけで心配されるし、ちょびっと神殿抜け出しただけで外出禁止とか。

 かといって私は漫画の主人公みたいに、じっとしてられなくてお城をみんなに内緒で出ちゃって、思いがけず大騒ぎを起こしちゃうような、ありがちなフラグは立たせたりしません。

 フラグを立てたが最後、ディーノが怒り狂うのが目に見えてるもの。

 

 それにねぇ、別に私がわざわざ出向いて行くまでもなく、個性溢れる皆様が至る所で勝手にフラグを立ててくんだわ。

「御機嫌よう、お姉様」

 ほら来たよ。一級フラグ建築士が。

 ラヴィ様は王女様なわけですよね。毎日忙しいですよね。貴婦人達とのお茶会、お勉強にダンスのレッスン等々、毎日過密スケジュールのはず。

 なのにちょいちょい現れるよね、しかもアポなし。私は常に暇人だしラヴィ様大好きだからいいんだけど、こんな所で油売ってていいんですか? ていうね。

「ご機嫌麗しゅうお姫様」

 ちょうどじゃれてたホズミの肉球を口に入れようかどうしようか悩んでる所でした。口をぱっかり開けてる所見られましたまあいいか。

 向かいのソファにちょこんと座るラヴィ様は、背筋がぴんと伸びていて佇まいが美しい。お人形さんのようだけど、喋るととても可愛らしくも毒舌たっぷりで人間味のある女の子なのだ。

 たまに王妃様が、この子の将来大丈夫かしらみたいな目で見てる事を私は知っている。

 あの世間を斜めに見るような物言いとか年上好みにも程があるところとか、ちょっと心配だよね。

「今日はお願いがあってまいりましたの」

 真顔でそう切り出した金髪の美少女はルイーノが出した紅茶を慎ましく飲んだ。

 お願い?

 ホズミの前足を上げたり下げたりして遊びながら首を傾げる。ラヴィ様からのお願い……なんかこう、胸にぐっとくるものがある。

 美少女からのお願いを断るなんて女が廃る。私にそんな事が出来ようか、いや出来ない。つまり何でも言って下さいってなもんだ。

「今晩のパーティーに主賓として出席していただきたいの」

「うん? ぱーていー?」

 それってなぁに? 美味しいお菓子ですか? カール的なスナックかなー、断然チーズ味だなぁ。

「ムリムリムリ! 私そんなの出た事ないし!」

 そんなの漫画やゲームでしか知らないし!

「あらお姉様に出ていかないと困りますわ。ユリスの花嫁様をお迎えする為の催しですのに」

「私の与り知らない所で勝手に決めないでー! てかさっきお願いって言ったじゃん、私に拒否権は!?」

「主賓が欠席なんてありえません」

 きっぱりすっぱりとラヴィ様は仰った。だったら最初から強制ですって言ってくれてた方がまだ諦めもついたよ! 希望をちらつかせておいて、高層マンションの屋上から突き落とすような真似をしてくれるとは……。

 涙目。六歳も年下の女の子に泣かされました。


「でも私ドレスなんて持ってないよ、これでいいの?」

 今着てるのを引っ張る。これだってオーダーメイドの手間暇かけたものだけれど。パーティー用ドレスとなるとこの比じゃないよね。

 動きやすさ重視ってわけにもいかないだろうし。ちゃんと踝まで隠れるような丈の何重にもレースをあしらって重たそうなのだよね。

 自慢じゃないがそんなの着た事もないしそもそも持ってませんよ。

「御心配には及びません、事前に用意させています」

「いつの間に!?」

「以前採寸した際にサイズは把握しておりましたので、後はこちらでお姉様に合いそうなデザインを独断と偏見で選ばせていただきました」

「いただかないでーっ」

 そうだったね、この世界に来てすぐに服を作るために採寸したわ。まさかあの時からパーティーは開くのは決定事項で、むしろ本来の目的はドレスを作るための採寸だったとか言わないよね?

 ありうるんだ、此処の人達って実に狡猾なんだ!

「ちなみにパーティーの規模って」

「国の要職についてる方々や名だたる貴族達が主ですわ、まあ後は教会の方やその他諸々」

「ムリっす! 私には荷が重すぎるっす!」

 要職、名だたる貴族、誰一人として顔見知りになりたいとかこれっぽっちも思わない。むしろ礼儀も言葉遣いも何もなってない私がそんな人達と同じ空間にいるなんて場違いじゃないか。

 しかも極め付けが教会関係者。今は会いたくない。フランツさんとだって顔を合わせたくないくらいなのに。

「当然ですが、ホズミはお留守番です」

「そんな殺生なぁっ!」

 居た堪れなくなるって分りきってる空間にホズミを連れて行くなとか、ラヴィ様は鬼ですか。

 ほら子どもとか動物とかって得てして場の緩和剤になるじゃない。会話が途切れて気まずくなるのを防止するためにも必要だよホズミ。

 顔をグリグリすると鬱陶しそうにホズミが前足で私のほっぺたを押した。

「人が獣族に抱いている感情を多少は知っているはず。人の集まる場にこの子を出すわけにはいかないの。わたくし達だってお姉様がそのように接していなければ、ホズミに対して差別的な目を向けていたでしょう」

「ラヴィ様!」

 人が獣族に向けるのは、自分達よりも下の者を蔑むそれだ。強大な力を持った彼等の存在を恐れるあまり、人の姿を保てないのを自分達よりも劣っているのだと判断して見下す事で怯えを中和している。

 その考えは蔓延し常識化し、人は獣族を下位に見る。そんな相手に対して彼等が良い感情を持つはずもなく、人と獣族の仲は修復不可能な程に崩れてしまった。

 

 無意識の感情を修正するのは困難だ。みんなにホズミの存在を認めさせるのは、私が思っている以上に難しい。

 だからって、それを本人を目の前にして言うなんて。

 畏れ多くもお姫様をきつく睨んでしまった。だけどラヴィ様は笑ってかわす。

「その子が大事ならこの部屋にしまっておいて、という事よ」

 お、大人だ……。私なんて足元にも及ばないくらい。王妃様とはまた別の意味で将来が不安だわ。

 この子をどうにか出来る男の人なんているんだろうか。

 

 そしてあれよあれよと私の為らしいパーティーに出席する事になりました。

 ね、言った通りでしょう。私が自分から動かなくたってフラグが勝手に乱立していくんだよ。

 演劇を見に行った時といい、ラヴィ様は特に率が高い。今晩、何もないわけがないよね、出席したくねぇー!

 

 

 午後になり私は日課であるホズミとの庭の散歩をしていた。私の根城のある棟の周りなら良いというディーノのお許しはちゃんともらっている。

 今日はついでにかくれんぼもしました、隠れてたんです。ジッと息を潜めて。

 鬼はホズミじゃありません。ホズミは私の隣に待機です。私を探すのはラヴィ様付きの侍女の方々。早い話が逃げたんです。

 どうせ見つかってたっぷり怒られる羽目になるのは目に見えてたけど、でもせずにはいられなかった。皆の手を煩わせる。これがせめてもの私の抵抗だ!

 

 結果は、侍女さん達だけだと苦戦していたので見兼ねて途中参戦したマリコさんにあっさり見つかりました。

「ハル様お気持ちはお察しいたしますが、どうかここはラヴィ様の顔を立てて下さい」

 と心情に訴えられて観念するしかなかった。マリコさんはとても大人だった。

 

 侍女さん達の手際はとても良かった。他人にお風呂に入るのを手伝ってもらうのは恥ずかしいけど、あれだけてきぱき事務的に洗われるとこんなもんかなって思えてくる。

 流れ作業のようにお風呂を出て身体を拭かれてドレスを着せられて。こんだけしてもらったのはちっちゃな頃親にやってもらって以来だ。

 

 呆然としている間に私の用意はほぼ出来上がっていた。

 白地に萌葱色の花の刺繍がふんだんにあしらわれたドレスだった。上はチューブトップでタイトだけどスカートはふんだんにドレープがきいていてボリューム感がある。両サイドが少し上に吊り上げるようになっているのがまた憎い演出だ。

 そこそこ高いヒールのパンプスは紐がついてて編み上げるようになってるから脱げる心配はなさそう。

 髪も結い上げてもらって更に宝石っぽいキラキラした飾りをつけられたもんだから怖くて頭を動かせない。落としたらって思うと歩き方もぎこちなくなる。

 

 仕事を遣り遂げたとほんのり達成感を滲ませる侍女さん達にお礼を言う。

 そんなこんなで全身コーデされたわけですが。よくもまぁ私なんかの為にここまで用意させたなっていう。申し訳なくなってくる。

 しかし既にあるのだから着なくちゃ勿体ない。私は貧乏性なんだ。ここまでしてもらったんだ、仕方ないから今晩は大人しく立派なユリスの花嫁とやらを演じてやろうじゃないの。

「ハル様、準備はオッケーですぅ?」

 私の用意の全てをラヴィ様が派遣した侍女さん達に託してルイーノは他の仕事をしていた。ひょこりと応接室の方から顔を出して私の様子を窺う。

「わぁハル様綺麗! 木偶にも衣装ですねぇ!」

「馬子でしょ!?」

「え、でもハル様って木偶ですよぉ?」

「みなまで言うなー!」

 木偶。役に立たない人。事実が突き刺さるんですー! 何も仕事しねぇくせにこんな時だけ一人前に飾り立てて貰うなんざ、何様のつもりだコイツって言いたいんですか。そうですよね、私が誰より一番思ってるよ! だが敢えて言わせて頂こう、私はユリスの花嫁様だ!

 

 なんか最近ルイーノの態度に悪意しか感じ取れなくなってきたんだけど、これは彼女なりの愛情表現なのだそうだ。マリコさんが言うんだから間違いない。心を許した人程ずけずけと物を言うらしい。

 そう思うとフランツさんにも私やマリコさんほどじゃないけど対応が雑だよね。結構気に入られているらしい。

 ラヴィ様達はやっぱ王族って事で一線引いてるので対応はとても丁寧だ。そして問題はディーノ。私から見た感じ、二人ってとっても余所余所よそよそしいんだよね。

 実は昔からよく顔を合わせてた従妹同士らしいんだけど。ディーノがマリコさんを呼び捨てなのはそのせいなんだって! 謎が解けた。でもルイーノの事はさん付なのは彼女が呼び捨てにするのを許さなかったかららしい。

 ディーノ一体何やらかしたの……。

 とまぁ、そんな感じでルイーノの好意の判断基準は毒を吐くかどうか。分りにくいな! 天邪鬼ですか?

「ほら木偶様、お迎えが来てますよぉ」

「木偶呼ばわりやめてよぉ!」

 ペコリと頭を下げた侍女さん達に「ありがとうございました」と笑顔で感謝の意を伝えながら内心冷や汗。

 ディーノか、ディーノなんだな。実はこの前拗ねさせてからまだ一度も会ってないんだ。

 まだネチネチ怒ってたりするのかな、そうだったら意外と器が小さいと言わざるを得ない。がっかりだよ! と。

 期待と不安をいっしょくたに胸に抱え私は彼が待つ隣の部屋へと移動した。

「わぁー、ハルちゃん綺麗だよ! お嬢様みたいだね」

 わぁー、ウィルちゃんでした!

 

 て、またこのパターンかい。この人は出落ちとしてしか需要がないんじゃないのか。

 そのくらい出てきた瞬間が一番輝いてる人だよね。口を開く前が最も格好よく見える。喋れば喋るほど残念なキャラだ。

 

 そんな人でも肩書は立派な騎士様。ウィルちゃんにエスコートされながら、いざ尋常にパーティー会場へ!

 

 



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