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ユリスの花嫁と魔騎士  作者: 椙下 裕
第一章 異世界へようこそ
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「あらぁハル様お久しぶりですぅ。久しぶり過ぎてもう少しでお顔を忘れちゃうところでしたよー」

「忘れないで! 似顔絵でも写真でもこの部屋中に貼ってていいから忘れないで!」

 部屋に戻って最初にルイーノの毒舌の洗礼を受けた。いやぁお城に戻ってきたって実感がわくなぁ。

 実際この部屋の至る所に私の顔が貼られてたら発狂しちゃいそうだけどね。……ルイーノなら私を発狂させるためにやりかねない……。ぶるりと身を震わせた。

「神殿に行くって聞いてたのに、閣下様から連絡が入ってくるんですもん。みなさんおったまげてましたよー」

 おったまげってルイーノ、その語彙力はなんだ?

「……かっかさま?」

「デズモンド ワイロニー ファーニヴァル元宰相閣下、通称閣下様ですよぉ」

「は? え? 誰それ? ファーニヴァルって……」

「昨日閣下様邸でお泊りさせてもらたんでしょう? あ、閣下様はディーノ様の御祖父様ですぅ」

「はああああ!?」

 昨日お泊りしたのは信心深いとても人の良いお爺ちゃんで……あの人が元宰相でディーノの御祖父さん!?

「面白いお爺ちゃんですよねぇ、アタシも何度かお会いした事ありますけど。早くに侯爵の座を息子に譲って、宰相も昨年に引退されて今は楽隠居されてるんですぅ」

 楽隠居! その言葉はとてもあの人にぴったりな単語だ。毎日気ままに暮らしてそうだよね。

 

 ああでも言われてみればだけど、結構食わせ者だったかも、と思わせる所は端々にあったような。

 まず町で会った時、レイに担がれてるっていうあの状態の私を見て平然と会話してたりとか。

 明らかに不審者のレイと一緒にいて、あまつさえ行く宛てがないとか怪しい事言ってる私達を何食わぬ顔で家に招待するか普通。もっと警戒しても良さそうなものなのに。

 朝もレイがいない事について全く触れなかった。そしてホズミも。ずっと子狼の姿だったのに突然少年に変化しても驚きもしなかった。メイドさん達もそうだ。最初から獣族だって気づいてたんだな。

 そして、私達が消えたと気付いて教会の人達はきっと大騒ぎだっただろう。

 だけど迎えがウィルちゃんだったという事は、お爺ちゃんはお城の方に連絡を入れたって事だ。

 レイか、私か。どっちの事情を察してか教会に引き渡さない方が良いと踏んだに違いない。

 

 下世話な勘繰りばかりしてるお爺ちゃんじゃなかったんだね、私勘違いしてたよ。めんごめんご。

「なるほどねぇ、世間は狭いな。さてと、じゃああと残る疑問は一つ」

 狼の姿に戻ってソファに丸まっていたホズミを抱え上げた。

「さぁてホズミくん、そろそろレイとの関係について教えてもらおうかな?」

 ニッコリ笑ったつもりだったけど、動物の顔でも判別つくくらいホズミの顔が引きつったから上手くは出来なかったようだ。

 

 しどろもどろになりながらのホズミの説明を要約すると。

 

 孤児のホズミはずっと一人で放浪していたそうだ。私がこの世界に召喚された日、たまたまこの町の近くに来ていたホズミは、濃い魔力につられて中に入ってきた。

 元を辿っていくと神殿の奥、レイが投獄されていたあの地下だったという。

 行く宛てがなく彷徨うホズミに、何処にも行きようのないレイが取引を持ちだした。

「ユリスの花嫁と呼ばれる女をここに連れて来い、そうすればお前に居場所をやる」

 ホズミは取引に応じた。指定された日に指定された場所に魔物を誘い込んで騒ぎを起こした。

 レイの言った通り私は現れ、ホズミと接触。運良く取り入る事に成功し、神殿行く機会をうかがっていた。

 そしてこの度神殿に行くのについて行ってレイに引き合わせたのだそうだ。

 

 へぇーほぉーと、真面目に聞いてんのか? って怒られそうな相槌を打つ私。ルイーノには席を外してもらっている。

 なんと言いますかね。私はホッとしてしまいました。ホズミがレイの手下なんじゃないかって思ってたから。利害関係で一時的に繋がってただけだったんだ。

 ちょっとお説教が必要な部分もあったけど、最悪の状況じゃなくて安心した。もしもホズミがディーノの敵に回るなら、ここには置いておけない。

 まぁそれならレイが、ホズミの面倒を私に任せたりはしないか。

「全く、あの男も変なトコ律儀っていうか……。多分最初からさ、レイがホズミに用意してた居場所ってここだったんじゃないかな」

 レイに私以外の人脈があるようにはみえなかったし。

 今のホズミの話を聞いてて思ったんだけど、奴はあそこから出られなかっただけで、結構外の状況を把握していたんじゃないだろうか。

 人の夢に介入するくらいだ、外を覗き見する術くらいは習得済みに違いない。

 最初は城に住みつけとでも言うつもりだったのかもしれないけど、私のホズミの溺愛っぷりを知ってたなら、私にホズミを押し付けるのが手っ取り早い。

 

 だからってあのレイが、約束ちゃんと守ってホズミの後見人をちゃんと考えてあげてたなんて、柄じゃなさ過ぎて笑える。

 またあの人を憎めない理由が増えてしまった。由々しき事態だわ。

「ハル……ハル、ごめんなさい。ボク悪い事いっぱいした」

「そうだね、ホズミは悪い事いっぱいした」

 私の手に添えられた小さな手が、小刻みに震える。

「私に謝るだけじゃぁダメだね。後で一緒にみんなに謝りに行こう。そしたら今度こそレイは関係なく、私と一緒にいてくれるって約束してね」

 おでこを合わせてグリグリすると、むず痒そうに首を振る。二人で笑い合った。

 直後、そんなハートフルな雰囲気をぶち壊す程、荒々しく部屋の扉が開いた。ノックもなく何奴!? と眉間に皺を寄せて振り返る。

 

 ツカツカと一直線に私達の方に強歩でやってくるのは私の倍くらいの深さで眉間に皺が寄っているディーノだった。

 ぎゃあああああ! ラスボスの存在を忘れていた!!

 いつもはキラキラして見える朱金の瞳は、今は獲物を狩る野生動物の如くギラギラしている。完全に私ロックオンされてるぅー。無意識にホズミにしがみついた。

 ソファの上でガクブルする私等の前までくるとディーノは私の肩を掴むと、背もたれに押し付けた。

「神殿に行ったそうですね……。アイツに会ったでしょう、アイツは今何処にいるんです!?」

 間近で凄まれて竦む。いつも温和な人なだけに余計に迫力がある。

「アイツってレイの事?」

「レイ? アイツがそう名乗ったんですか?」

 だからそのアイツってのが誰の事を指してんだって訊いてんのよ。十中八九レイの事なんだろうけど。

 そういやレイもディーノを頑ななくらい名前で呼ばなかったな。なにそれ流行ってんの? アレとかアイツとかで通じちゃう仲なの? 実は仲良しなんじゃないの?

 おっとこれ以上はやめておこうか。友人が大はしゃぎで食いつきそうな方向の話だ。でもあの子なら、この手の話題を振りまくってたら「呼んだ? 私の出番だよね?」とかって容易に時空を超えてやってきそうな気もするなぁ。いっちょやってみるか、面白い事になりそうだ。

「ハル?」

「ご、ごめんなさい!」

 脳内ですっごい話が逸れてました! 謝るから怒んないで。美形が怒ると迫力あるんだよ、怖いんだよ!

「銀髪で紅い目の男です」

「ああ、やっぱレイか。レイが今どこにいるか? ……そんなもんこっちが知りたいわボケェ! あんの野郎、よくも……!!」

 今朝の感情が舞い戻って来て沸々と怒りのボルテージが上昇していく。

「よくも、何されたんです? ハル」

 はっ! 急上昇していたボルテージが、冷や水掛けられたようにまた急降下していった。

 静かなのにそんな威力のあるディーノの声。いや静かだからこそ怖い。この人の怒り方はフランツさんと同じだ。

「言って下さい。あの男に何されたんです?」

 ひいい、顔は笑ってるのに目が完全に怒ってるよぉ! 無言で首を振る私にディーノは舌打ちしてホズミを見た。し、舌打ち!? 聖騎士様が舌打ち!?

「ホズミ、何があったんですか」

「だあっ! 子どもに向かうのは卑怯だし!」

「……聞いても俺にはホズミが何を言っているのか分りませんけどね」

 うん。うん? あ!! そうだ狼族の言葉は私以外には分らないんだった!

 ホズミは人間の言葉はある程度理解出来るけど喋れない。私はこの世界の言語は何でも日本語に自動翻訳されるから、言われるまで気づかなかったんだけど、ホズミはずっと狼族の言葉で喋っているらしいです。

「そんな混乱するほど聞かれて困る事があったんですか」

「いい、いやいやいや」

 とか言いながらとっても困りますええ! ホズミもオロオロしちゃって……ホズミに?

 そういや牢屋でのあれ、ホズミも居たよな。ばっちり見られてたよな。

「レイのヤロオオオッ!! ホズミ、忘れなさい。昨日見た事は全部頭から消しなさい!!」

 何もしてないのにさっきから修羅場みたいなこの場に取り残されて可哀そうだとは思うけど仕方ないのよごめんね!

 だってあんな現場を見られてたなんて、穴があったら入りたいなんてもんじゃない。自ら穴掘って埋まってしまいたい。いや違うな、レイを埋めてしまいたい。

 絶対ディーノに知られるわけにはいかないのよ!

「お願いホズミ」

 ホズミは考える様に目を伏せて、すぐに決心したように頷いた。

「ホズミ―!」

 なんて私思いの優しい子! 溜め息を吐くディーノをあえて見ないようにしながらホズミに抱き着いた。

「まぁホズミがハルの言を無視するわけないですよね」

 その通り。ホズミの最優先順位は今のところ私だからね。自分で言っちゃう。だって誰も言ってくれないから。

「アイツと接触して何もないわけありませんが、一応危害を加えられたという事ではないようですし、これ以上は問わないようにします」

「御恩情痛み入ります」

「今回だけですからね」

 次なんて私もあって欲しくないです。危害だって加えられたといえばそうなんだから。私の心はズタボロですよ。

「それより、ディーノこそレイとどういう関係なの?」

 こじれに拗れまくってるじゃん。お互いに良い感情は持ち合わせていないみたいだし。レイはそういう風に出来てるなんて言ってたけど、そうなった原因はなんなのか。

 会った瞬間から生理的に受け付けないとかあるけど、この二人に関してはそうじゃないと思う。この軋轢にはれっきとした理由がありそうだ。

 

 どれどれちょっとハルさんに話してみなさい。もしかしたら仲直りする良い案がふわっと降臨するかもしれないじゃない?

 そんなまさか、好奇心でちょっと聞いてみたいだけだなんて、そんな……そうなんだけどね!

 期待に胸膨らませる。お節介焼きのおばちゃんみたいだわ。

「ハルが話してくれないなら、俺も言いません」

 なん……だと? この男実は拗ねてる? 爽やかな笑みを浮かべつつも私がレイとの間にあった事をひた隠しにしてるからご機嫌斜めか?

 反則だろこんな成人男性!

「あ、そうだハル」

 うっかり八つも年上の男に萌えそうになったけど、それより先にディーノが喋り出した。

「暫く外出禁止ですからね」

「ええーっ!!」

 あんた鬼かっ!? 私悪くないじゃん、神殿にはフランツさんにだまし討ちみたいに連れて行かれただけだし、レイに会ったのは仕組まれてた事だったし、レイが逃げたのだって私関係ないのに!

 

 横暴だー! と散々文句言ったけど、前言撤回はしてくれなかった。

 暫くってのがどのくらいかは分らないけど、ディーノの気が済むまではお城で引きこもり生活を送る羽目になりました。

 

 


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