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ユリスの花嫁と魔騎士  作者: 椙下 裕
第一章 異世界へようこそ
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 お爺ちゃんはとても謙虚な人でした。とても大きな家でした。メイドさんも何人もいて至れり尽くせり。

 取り敢えずお風呂に入りましょうかとにっこり笑顔で言われ、中二さんだけでなく私やホズミも結構薄汚れている事に気付いた。他人様の家に汚いまま居座るわけにもいかないし、とてもありがたい申し出だったので、一も二もなく頷く。

 でもホズミと別々に入れられてしまったのがちょっとショック。私の手で洗ってあげたかったのに……。

 一番風呂をもらった私は上がってから、お爺ちゃんとお茶を飲みながらのんびりまったりお話をしていた。

 暫くして後続の中二さんとメイドに抱えられたホズミが戻ってきた。

 ちなみにホズミはお爺ちゃんに話し掛けられた時点で、というか術で町に出た瞬間に小狼の姿に変身していた。ウチの子は本当に賢い子!

「…………」

「なんだ」

「いえ」

 中二さんがなんだか別人のようで。息子が若い頃のですが、とお下がりの服を貰って着ている。白のシャツに黒のベストとズボン、茶革のブーツ。

 髪も濡れて気持ち悪いのか長い前髪を後ろに流しているから、顔が顕わになっている。

 やっぱり痩せすぎているけど、すっと整った綺麗な容姿だった。この世界の安定のイケメン率ね。

 歳若いメイドさんがほんのり頬を染めていらっしゃる。その気持ちよく分かるよ。私もこの人が人格破綻してるって知らなければ同じ反応をしていたよ。

 

 その後豪勢な晩餐も御馳走になり、残すは寝るだけとなった。

「ではごゆっくりとお休みください」

 人の良い笑顔でお爺ちゃんはパタリと扉を閉めた。ごゆっくりの部分をやたら強調して。そして閉じ込められた寝室には私と、中二さん。

 お爺ちゃん誤解ですうううう!! 違うから私達そういうんじゃないから!!

 部屋の隅でちょこんとしていたホズミも「邪魔しちゃいけないよ」とか言いながら連行されちゃったし。邪魔? ホズミが邪魔な事なんてありませんけど!? いやいやいや、中二さんとホズミをチェンジで、チェンジでお願いします!

 

 荒れ狂う私の内心を無視して中二さんがドカリとベッドに座った。おいちょっと待て、お前がそこを占領するのか、普通男はソファだろ。

 『お前がベッドを使え、俺はソファでいい』『そんな、ダメよ! 貴方の方が疲れてるんだから貴方がベッドで私がソファでいいの!』とかいう押し問答は鉄板だろう? これ一度はやっとくべきだろう!?

 この男にそんなものを求めたって無駄か。

「別にソファで寝るのはいいけど、掛布団は私にちょうだいよ」

「はぁ?」

「はぁ? じゃないわよ! 寒いじゃない、風邪ひいたらどうしてくれんの」

「アホかお前が使ったら俺が風邪ひくだろうが」

 男は乱暴に私の手を引くとベッドに引き入れた。思い切りダイブした私の身体にバサリと布団を掛ける。あべふ、とか変な声だしちゃった気がするけど、聞いてるのがコイツだけだから別にいい。

 更に身体を奥の方に押しやられて、あまつ男まで布団の中に入ってきた。

「ちょー待て待て待て! これは一体どういう事ですかコノヤロウ、事情を説明しろ!」

「ベッドも布団も一つしかないんだ我慢しろ。俺もしている」

「悪かったわね相手が私でーっ!」

 美人のねーちゃんじゃなくて悪うございましたね! 枕を引っ掴んで男の顔に押し当ててやった。

「うるさい嫁だな」

「あんたの嫁違う!」

 大体、私にはハルっていうれっきとした名前が……あれ? なんかこんな風な会話前にもしなかったっけ?

「取りあえず、お前はここだ」

 伸びてきた腕ががっしり私の身体を捕えるとそのまますっぽりと抱きすくめられた。

 ベッドの中で男に抱きしめられている。なんだこの状況、なんだこの状況!!

「あんたねぇ!?」

「黙れ、我慢していると言っただろうが。これでも長時間していれば力は吸収できる」

「……もしかして、まだ本調子じゃないの?」

「半分も満たない」

 あんだけベロチューかましといてまだ力が足りないとか言うのか。いや牢壊したり瞬間移動したりするから足りなくなったんじゃないの?

 ちゃんと考えて使ってよね。別に力搾取されても体調に問題はないんだけど、いちいち精神的ダメージが大きいんだから。こういうのは出来るだけ回数減らしてほしい。

「ハル」

 するりと私の頬を撫でた。驚いて彼の顔を見ると、紅の瞳が真っ直ぐこっちを見据えていた。

「な、名前」

「お前が呼べと言ったんだろ? 覚えていないのか。なら俺の名前も?」

「名前……レイ?」

 ああ、そうだ。あの花畑で二回目に会った時に。それでこの人は

「離せっ、離して! あんたディーノを……」

「暴れるな。今の今まで忘れていたくせに。どうせお前の中であいつはその程度のものなんだろう?」

「違う!」

 どんなに必死でもがいてもレイの拘束は解けなかった。コイツはディーノの敵だ。あの時見た夢を思い出せなかったのは事実だけど、レイとディーノなら私は迷わずディーノの味方だって言える。

「……別にお前の想いはどうでも構わないが、お前はあいつを消す為に召喚されたんだぞ」

「それだって! 私は、聖騎士のディーノに呼ばれて」

「ならあいつはお前に何を望んだ? 明確な意思でお前を求めたのは俺だ」

 わけが分らない。ディーノは私に何も望まない。呼んだつもりもない。私を呼んだのはやっぱりこの人なの? 魔物の増加は関係なくて、でもユリスはそんな理由で本当に人を召喚したりするの?

 私は、ディーノを消さないと元の世界に帰れない?

 頭の中がぐちゃぐちゃになって、泣きたくもないのに目頭が熱くなってきた。頬に添えられていたレイの手がそっと目元を拭う。

 なんなのよ、一番コイツがわけ分らん!

 レイの胸倉を掴んで、渾身の力を込めて身体を押した。その勢いのまま起き上がって彼の上に乗っかる。

 マウントポジション取ったどー! とか言ってる場合か私。しっかりしろ。

「あんた何者? ユリスの花嫁を呼べるのは聖騎士だけでしょ? なのにどうしてディーノじゃなくあんたが私を呼べたの。なんでディーノを狙うの……」

 この世界の中で異質なのは私よりもむしろレイなんじゃないだろうか。何処にも属さず、誰からもその存在を語られる事がない。

 レイとの繋がりが見えるのは今のところディーノくらい。それすらも断ち切ろうとしている。

「あいつが聖騎士に選ばれたから俺が消す側に回った。もしも俺が選ばれていたら、あいつも俺を消そうとしただろう、絶対にな。俺等はそういう風に出来てるんだよ。だから教会もあいつが聖騎士になったと同時に俺を幽閉した」

「意味が、分かんない」

「お前が理解しようがしまいがこれは変わらん。俺とあいつはいつも片方しか表に出られない。互いに互いを否定し続けるしかない……お前を召喚できるかどうかは正直賭けだった。俺にも聖騎士になる資格があったって事だろうな」

 そう言って自嘲気味に笑うから、だから私はレイを心底拒絶出来ないんだ。誰よりも自分で自分を否定してるみたいな顔するから。

 ディーノとレイは正反対のようでちょっと似てる。

「さっきからお前は何で泣いてるんだ」

 俯いてる私から零れた涙がレイの頬に落ちて線を引いて流れた。

「レイが実に面倒くさい男だから嘆いてんのよ」

「……面倒くさいのはどっちだ」

 レイは私の腕を引いてまたベッドに転ばせると自分の肩に顔を押し付けさせた。

 乱暴な。痛いじゃないの。面倒くさい上に不器用な男ね。でも泣いてる女の子を慰めようという気持ちがあるのはちょっと見直した。

 そのなけなしの思いやりに免じて、大人しく今はくっついててやろう。

 レイが全回復したらディーノの所に行って彼を傷つけようとするんだろうか。そんなのは絶対嫌だしさせないけど、かといってレイをまたあの牢に入れたくもない。あんなの人がいて良い所じゃない。

 地下牢なんてベタベタな所に人を閉じ込めた教会に私は不信感でいっぱいだ。今度会ったらあのおっちゃんの顔面パンチしてやりたいくらい。

 か弱い女の子のパンチなんて大した威力じゃないわよ、猫の肉球押し付けられるようなもんよ。

 

 泣いたせいか頭がぼーっとする。瞼も重たくなってきた。まだレイに聞きたい事はいっぱいあったはずなのに考えがまとまらない。

「あのガキはお前が面倒見ろ」

 ガキ? ああそうだ、ホズミの事を聞きたかったんだ。レイを見上げようとしたけど両腕に抱きこまれて身動きが取れなかった。

 まあいいか、起きてからにしよう。

 襲ってきた睡魔に抗わず、私はそのまま眠りに落ちた。

 

 

 そして朝、私が起きるとレイは何処にもいなくなっていた。

 


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