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ユリスの花嫁と魔騎士  作者: 椙下 裕
第一章 異世界へようこそ
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「おはようございますユリスの花嫁様」

 部屋から一歩出た瞬間に神官らしき人に捕まってこの挨拶。黒のローブをまとった女性神官さんは深々と頭を下げている。

 花嫁花嫁と、生娘に向かってやめていただきたいのだけれども。いい加減どうにかしたいなぁこの敬称。

「フランツさんは?」

「神官長は所用で出ておりますので代わりを仰せつかりました」

「さようですか」

 フランツさんめ……! こんな腹にぱんぱんに思惑抱えた人達がたくさんいるところに私一人放置ってどういう事ですか。ラヴィ様に言ってやる。株を大暴落させてやる。

「どうぞ、お召替えを」

 さっと何処からともなく出された真っ白な衣装を咄嗟に受け取ろうとしたらキョトンとされた。

 何故? 分らず私も同じような表情になる。部屋の前で二人で立ち尽くす。何やってんだ私等。

「あの……僭越ながらわたしがお手伝いさせていただきますので」

「えぇ!?」

 着替えを!? ああそうか、身分の高い人は一人で着替えたりしないで侍女にやってもらうのか!

 しかしお城でも私は自分で着替えている。ルイーノは衣装を渡してくるだけで手伝ってくれた例はない。

 一人で着れないようなややこしい服じゃないし、多分初日に私がちゃっちゃと一人で制服着たのを見て、コイツはこれでいいのか楽だなラッキーと思われたんだろう。

 丁重に断って部屋で一人で渡された服に着替えた。

 ちなみにホズミはもうとっくに窓からお散歩に出かけて行った。さすが身軽でいらっしゃる。

 

 服はソレスタさんのに似ていた。白地に金のラインやボタンが付いたワンピースのようなコートのような、一枚羽織ったらいいっていう簡単なものだった。詰襟って新鮮だ。丈も膝がギリギリ隠れるくらいで実に動きやすい。フランツさんがそういうのがいいって言ってくれたのかな。

 いつもはルイーノが遊び半分で結ってくれる髪はおろしたまま。

「お待たせしました」

 さっきと同じように外で控えていた神官さんは私を見て目を見開いてすぐに頭を下げた。

 

 今日も昨日と同じようにシーア教について色々聞いた。

 神様達は人の世界に介入しようとするとき、絶対に自身の代理を立てるのだそうだ。ユリスなら私のように異世界から。

 他の神様もそれぞれ人間や獣人もしくは魔物、多種多様ではあるけれど絶対に何かに意志を託すのだとか。神様自らが動いちゃうと影響が大きすぎて世界が壊れかねないという事らしい。

 でも殆どが神話やお伽噺の中で語られるばかりで実際に現れたのを確認できたのはユリスくらい。

 そんな訳で、街頭インタビュー! あなたが思う一番身近な神様は? ってしたらダントツ人気はユリスさんなのだそうです。

 やっぱり目に見える形でその存在が感じられた方が有り難味が増すってもんだよね。

 そりゃお爺ちゃんも拝んじゃうよね。昨日のあれは衝撃だった。

「昨日からファーニヴァル卿のお姿が見受けられませんが、ご一緒ではないのですか?」

 顎髭を蓄えたおじ様がチラリとこちらを見た。ふぁーにばる? ああディーノの事か。

「ディーノは他のお仕事で遠くへ行ってます。この前町に魔物が出たので」

「魔物の討伐ですか。しかしこんな時だからこそユリスの花嫁様のお傍を離れるべきではありませんな」

「でもそれもディーノの仕事だから」

 ちょっと哀愁漂った感じで言ってみた。ディーノが行っちゃうのは淋しいけどお仕事だから我が侭いわないわ! みたいな。

 そういう答えが欲しかったんだろう? そうなんだろう!? いい子ちゃんテンプレ回答をさっきから連発している私です。満足そうに目を逸らしたおっちゃん(おじ様から格下げ)に溜め息を吐きそうになった。

 実際にはディーノと私を並べて置いておきたいのが本音だろうけれど。花嫁とそれを守る聖騎士なんてまるで物語のような絵面だものな。片割れが私だというのが、本当ごめんなさいでも現実はそこまで上手にはできないのよって事で。

 ああこの試されてるような会話はいつまで続くんだろう。早くおうち帰りたいよう。それが無理でもホズミ欲しい。抱きしめたい。

 そういやホズミが見せたいものがあるって言ってたなぁ。

「ユリスの花嫁様?」

「あ、すみません。えっと、ディーノが?」

 いけないボーっとしてた。

「ええ、ファーニヴァル卿は幼い頃一時期この神殿でお預かりしていたのですよ。当時から彼は何をさせてもとても優秀で神童でした。まさに聖騎士になるための存在で――」

 その後も、ディーノが聖騎士になれたのはこの神殿で教育を受けたのが良かったのだというような話が暫く続いた。

 途中から聞くのをやめちゃったから内容は全く覚えていないけど。

 ユリスがどういう基準で聖騎士を選ぶのか知らないけど、絶対この人達のお陰って事はないな。一ミリも関係ないと思う。それに、最初から彼は優秀だったんでしょう? だったらあんた達がお節介焼かなくたって選ばれてたんじゃないのって話だ。

 やだやだ、いっちょ噛みしてあたかも自分の手柄みたいにさぁ。

「きゃああっ!!」

 おっちゃんの話にほとほと嫌気が差してきた時、遠くで女性の悲鳴が聞こえた。

 おっとこれは自慢話から逃げる良いきっかけじゃね? ってわけで、ちょっくら野次馬ってくる!

 幾つかの棟に別れている神殿の中でも今私がいるところは最奥で一般人は入って来れないところだ。礼拝室から表に出ると朝の女性神官さんが怯えた様子で一点を見つめていた。悲鳴は彼女のものらしい。

「どうしたんですか?」

「あ、あ、ユリスの花嫁様……」

 だあ! こんな時まで嫁言われるの嫌だな! でも訂正している場合でもなさそうだ。

 彼女の視線の先を辿ると、そこには黒い塊が。

 あ……ホズミ。

「大丈夫ですよ、あの子は」

「な! 獣族!? どうしてここにいる!!」

 おっちゃん神官が追いついて来た途端、ホズミに向かって罵声を浴びせた。ホズミは怯えてはいないけど、マズイ状況だっていうのは理解しているらしく、どうしよう? と私の方を見つめてくる。うん、どうしようかねぇ。

「すみません、あの子は」

「ユリスの花嫁様お下がりください! こんな汚らわしい物の傍へ寄ってはなりません。どうやって入り込んだのかは知りませんが、コイツ等は野蛮で人に害を成す魔の者です!」

 “あの子は”の続きをこの人はどうしても遮りたいらしい。

 よしおっちゃんにもう一度チャンスをやろう。仏の顔も三度までって言うし、もう一回言うから今度遮ったら強硬手段に出てやる。

「あの子は」

「いいえユリスの花嫁様」

「何がいいえかーっ!! 人の話をきっけぇーっ!!」

 何故コイツに否定されなきゃいけない!? しかも言う前から! あんたは私の心の声を聞く能力でも持ってるというのか!? お約束のように丁寧にまた遮ってくれるとは!

 ぎゃーす! と大声を出した私に驚いておっちゃんが黙った。女性神官さんもポカンとしている。

 つかつかとホズミの方へと行くと小さい体を抱きかかえた。

「ユリスの花嫁様! それは」

「ホズミです!」

 今度は私がおっちゃんの発言を遮ってやった。ざまぁ!

「ホズミは私が連れてきたんです。この子は人に危害を加えたりしません。フランツさんに確認してください。……ごめんねホズミ、嫌な思いさせたね」

 顔を寄せるとホズミも頬擦りしてくる。こんな可愛い子を汚らわしい? 野蛮で害があるなんてよく言えたもんだな。

「ハル、大丈夫?」

「え? うん、私は全然。でも何で出てきちゃったの?」

「迎えに来た」

「ああ昨日言ってたところね」

 なるほど。じゃあ行きますかね。またおっちゃんの所戻るのは気まずいし。ディーノのくだりから結構私は腹が立ってたんだからね!

 あれこれ詰問されるのも鬱陶しい。逃げるが勝ちだぜ。

「お騒がせしました。ちょっとこの事人目につかない所でも散歩してきます。心配ないので探さないで下さい」

 家出の決まり文句みたいになってしまった、まあいいか。口を開けたまま固まっている二人を放って私はホズミを抱いたまま歩き出した。……重たいからもうちょっとしたら降ろそう。

 

 繋いだ手を引っ張るホズミについて行くこと五分。何処へ連れて行かれるのかと思っていたら、さっき私がいた建物をぐるっと半周して裏側に辿り着いた。

「ハル、ここ」

 いや、ここってあんた。本当に建物の真裏じゃないですか。ただ壁があるだけなんですけども?

 私にはホズミが何を見せたかったのか分ってあげられないよ、ごめんね不甲斐ないお姉ちゃんで。

 壁? この壁のシミが幽霊っぽく見えるとかそういう事? ああ見えなくないね、こことか目っぽいよねうんうん。

「ほら」

 頷いている間にホズミが何をやったのか、壁の一部がごごごごと音を立てて横にスライドした。

 そして現れたのは地下に続く石の階段。

「ええええええっ!!」

 開けゴマ!? まさかのセサミストリート! これなら分かる。これ発見したらそりゃ誰かに言いたくなるよね、自分一人で抱えるにはこの仕掛けは凄過ぎるよね。

 だけどホズミくん、これ絶対良くない方の仕掛けだよ! RPGならこの先はモンスターのうじゃうじゃいるダンジョンになってて、奥には中ボスが待ち構えてるパターンのやつだよ!

 私が躊躇していると「入らないの?」と不思議そうにホズミが見上げてくる。

 私、戦闘能力は皆無なんだってば! そういうのはディーノの担当だからさ。もしも魔物とか潜んでたらどうすんの。

 仮にも神殿の地下なんだから無いとは思うけど、でもファンタジーのお約束でもあるじゃん? 絶対の安全を誇る場所が呆気なく襲われて崩壊しちゃうとかお決まりじゃん?

 階段の先が真っ暗で見えないのが余計に恐怖を煽る。

「大丈夫だよハル、危なくない」

「もしかしてホズミ一人で入ったの?」

 こっくり頷くホズミの額をデコピン。何もなかったから良かったものの、もし怪我でもしたらどうするのよ。メッ、悪い子。

 額を擦りながらホズミはむうと口を尖らせた。

「もし危なくっても、ハルはボクが守るから」

 ぶほっ! むせた! そして鼻血出るかと思った。この子ことごとく私を萌えさせないと気が済まないのか。

 

 惚れてまうやろーっ!!

 

 


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