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ユリスの花嫁と魔騎士  作者: 椙下 裕
第一章 異世界へようこそ
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 目を開けるとそこはお花畑でした。アルプスの少女が駆け回ってそうな美しい自然が広がっていました。デジャヴ。

 

 少し離れた所にぼさぼさのプラチナブロンドに黒のローブを羽織った男の姿が。

「おお!」

 手を合わせてポムと音をたてた。こっちの世界に来てからというものやたらとキャラの濃い人達とばかり知り合いになったお陰で、すっかりとこの人の存在を頭の中からおいやっていた。

 そういや居たなぁなんて懐かしさすら感じる。

「おい嫁、なんだその反応は」

「嫁言うな! 私には葛城悠っていう名前があるの。葛城様かハル、どっちかで呼んでちょうだい」

「おい」

 なーまーえーでー! 呼べって言ってんでしょうがこの分からず屋!

 しかもハルって呼ぶしか選びようのない二択に敢えてしたのに。本当にボケとツッコみを理解しない中二病だな。

「それで、一体ここって何なの? 私はどうしてまたここにいるの?」

「ここはお前の世界ともう一つの世界の狭間だ」

 あ、ちゃんと答えてくれた。話通じてるよちょっと感動。

 よしでは次の質問行ってみよう。

「あんたは何者? まさかユリスだとか言うんじゃないでしょ?」

「ハッ!」

 鼻で嗤われた! ガッテム!

 でもこれで人間だってはっきりしたわね。いやぁ神様だったらどうしようかと思ってたんだ。コスプレ野郎とか罵声浴びせちゃったしさ。

「ねぇ、べーやん」

「べーやん?」

「名無しの権兵衛でべーやん。アンタの名前カッコ仮」

「勝手に名づけるな」

「だったらユリスカッコ偽にするわよ」

「名付けてるだろうが」

「だーから名を名乗れと言っておるんじゃ!」

 私何キャラ! 興奮しすぎて自分を見失ってしまったわ。ふふ、と笑って誤魔化しを試みたんだけどべーやんには一切通じなかった。

 今にも首絞めてきそうな勢いで睨んできている。

「……ブラッドレイ」

「は?」

「名前」

「ああ。長いわね、レイにしよう」

「…………」

 ふぅと心底鬱陶しそうに溜め息を吐かれた。もういいよ、この人の悪態にいちいち反応してたらこっちの身がもたない。友好的な対応なんて期待してないしね。

「でさ、レイは私に何の用なの」

「お前の脳は記憶を留めておけないのか? お前は俺の望みを叶える為にここにいる、そう教えたはずだ」

 そういやそんな事も言ってましたねー。あの後フランツさんやソレスタさんにこっちの世界の事を色々聞いたせいで、綺麗さっぱり忘れ去ってたけど。

 私の脳はちゃんと記憶してましたよ。ただすぐに思い出せなかっただけだもん。不必要な記憶だと判断しただけだもん。

 何故ならこの人の言う事もこの人自身も矛盾まみれだから。

 フランツさん達の説明は筋が通っていた。正しいと思えた。だけどレイの話をプラスして考えるとどうしても辻褄が合わなくなってしまう。

 私はソレスタさんの術でディーノの請いによって呼ばれたんだよね? だからあの儀式の場へ落ちた。

 でもその前にレイとここで会って、彼は自分が私を連れてきたのだと言った。自分の願いを叶えるために。

 ユリスはレイとディーノ、どっちの願いのために私を選んだの?

 

 ソレスタさんはレイの事を何も言わなかったのは、黙っていたんじゃなくて知らないからだと思う。大賢者でさえその存在を認識していないこの人は一体何者?

「レイ、あんたの望みは何なの?」

 この人の望みを叶えたら、私は本当に帰れるの?

 

 予想されていなかったユリスの花嫁の出現。急を要するほど魔は増大していないという。だというのにユリスが私を遣わせたのはレイが求めたからってそうとも考えられないかしら。

 この人が何者か知らない。でもそんなの関係なくない?

 思い始めたらいても経ってもいられなくなりそうでずっと意識を逸らしてきたけど、帰れるなら一日だって早く元の世界に帰りたい。

 両親がいて馬鹿みたいに人懐っこい友人がいる私の世界に。

 ざああっと風が私達の間を吹き抜けていった。プラチナブロンドが揺れて作り物みたいな紅の瞳が顕わになる。

 私を真っ直ぐに見据えて彼は言った。

 

「ディーノをこの世から消す事だ」



 身体が痙攣して、その反動で跳ね起きた。心臓がドクドクと忙しなく脈打って、視線が彷徨う。

 動かした手が滑らかなシーツの上を滑って自分がベッドの上に居るのだと認識した。そうだ私は寝てたんだ。急に身体から力が抜けて、もう一度ぱたりと倒れ込む。なんか寝覚め悪い。

「ハル様もう起きられてたんですかぁ。珍しい事もあるもんですねぇ」

 ノックもなしに寝室に入ってきたルイーノが朝一番の毒を吐いた。ああ現実だホッとする。

「今日はどの服にします?」

「んー……浅黄のー」

「はいはい、これですねぇ」

 日々増えていく私専用のお洋服達は、既にタンス一つを埋め尽くす程になっている。やっぱ可愛い服を貰うのはそりゃあ嬉しいけど、そろそろもういいって言わないとなぁ。

 ここに長居するわけじゃない、ただの居候の身なんだし。至れり尽くせりの贅沢をさせて貰いっぱなしっていうのも悪いしなぁ。

 寝起き特有のぼんやりした頭で取り留めもなく考える。枕にぐりぐり顔を押し付けてぐだっていると、頭の上に服を被せられた。

「ハル様がそんな寝起き悪いなんて、これまた珍しいですねぇ。嫌な夢でも見たんですかぁ?」

 そう。私は長時間睡眠だけど寝起きは結構良い方だ。パッと寝てパッと起きる。けどどうしてか今朝はものすごく身体が怠い。

「……夢、見たような見てないような……。覚えてない」

 いや見たんだけど全然内容が思い出せない。変な夢だったような気はするんだけど。

 驚いて起きたし怠いし、嫌な夢だった可能性高いよね。それなら思い出さなくてもいっか。

 

 いつまでもグダグダしてたって仕方ないので着替える。髪を梳いて姿鏡の前に立って整えた。

 うーん、変わり栄えのしない容姿だ。

 黒髪に黒い瞳。どっからどうみても日本人丸出しの容姿。よく異世界トリップしたついでに外見も変わっちゃう話あるんだから、私もラヴィ様みたいなキラキラ美少女キャラにビフォーアフターしたかったなぁ。折角のファンタジーなのにつまんないの。ユリスも気が利かないったら。

 どうにもならない不平不満を思い浮かべながら寝室を出た。

 

 テーブルの上に並べられた食べ物の数々。一人で食べるには多すぎるその量。

 そしてソファに鎮座している王妃と王女。デジャヴ。

「御機嫌ようハルさん」

「ゴキゲンヨウゴザイマス、エルネスティーヌ様ラヴィニア様」

 どうしてこの人達は唐突に現れるんだろうか。立場のある人達なんだから事前に通知というか連絡入れてから訪問するもんじゃないの?

 ドア開けた時の私の気持ちを少しは考えてもらいたいのよ。

「今日はお姉様にお願いがあってまいりましたの」

 お願いがあってまいられましたか。お姫様が私なんぞに何の御用でしょう。

「わたくし、町に下りてみたいのです」

「はぁ」

 みたいのです、とかそんな可愛らしく言われてもですね。私にどうしろと。

 きょとんとしているとルイーノが「はい」と手を挙げた。

「町へ行くなら薬草屋に寄って買ってきて欲しいものが幾つかあるので、お願いしますねハル様ぁ」

「薬草屋!? なにその怪しげな響き! ていうか私行くの決定事項!?」

 そして今回もルイーノお留守番なのねズルくないですか!?

 薬草の名前らしきものが箇条書きされた紙を手渡された。準備いいですね!

「ハル様ご多忙の中申し訳ございませんが、今日一日は姫様にお付き合いいただけませんか?」

 後ろに控えていたマリコさんが頭を下げる。低姿勢な本当に良い人だ。

「いえ全然まったく忙しくないどころか完全な暇人なんですけどね。でも私が行くとなるとディーノの予定も調整しないと」

「御心配には及びませんわ。既に手配は整えてますの」

「手回しの良い事で……」

 ラヴィ様ってディーノに対して容赦ないよね! 前に理由を聞いたら「ディーノのあの煮え切らない態度が気に入らないのです!」と力説された。

 相手が王族だから言葉を濁したり、是とも非とも取れるような曖昧な態度になってしまうのは、臣下としては仕方ない部分もあるだろう。でもこのはっきりとしたお姫様は苛ついてしまったわけだ。

 子ども扱いされてる気になったってのもあるだろうね。この年頃の女の子は難しいのだ。そこがまた可愛らしいんだけども。

「王妃様、いいんですかお忍びで遊びに行くだなんて」

「社会勉強になりましょう。陛下も楽しんできなさいと仰せですし」

 随分と鷹揚な夫婦だな! それだけこの国が平和だって事なのかしらね。

 しかしお忍びとはいえラヴィ様が町歩いてたら目立つだろう。しかもマリコさんとディーノを連れてってもう見世物になる事間違いなしじゃないか。平凡な容姿の私が逆に浮く!

 想像だけで慄いてしまった。

「でも町に何か用でも?」

「今町に旅の劇団一座が来てますの。大衆向けなんですがとても評判のいいお芝居をやっていて、それを観てみたいの」

「演劇かぁ!」

 いいよねお芝居。うん、目的がそれなら私も行きたくなってきた。

 私が乗り気になったのが分かったのかラヴィ様がクスクス笑う。いやまぁ精神年齢は絶対私の方が下だからね、いいんだけど。

「ラヴィを宜しくお願いしますわね、ハルさん」

「私に出来る事なら」

 けれどその言葉はマリコさんとディーノに言ってあげて下さいな王妃様。私も守られる側の立場だし何の役にも立てないと思います。

「ラヴィ様せっかくですし今日はとことん楽しみましょうね」

「はいお姉様!」

 うおおおお!! 可愛い可愛い可愛い! 萌え死ぬかと思った。ぎゅうって抱きしめたいーっ。

 ルイーノがマリコさんに何か言って困らせているのを横目にしつつ、私はラヴィ様のあまりの可憐さに悶えていた。

 


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