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タバコ

作者: BloodyBishop

喫煙所て何で不気味な所に追いやるのでしょうww

今日も残業で会社の大きなホールで一人パソコンに

向かい、今月の営業結果と、来月の営業計画書を数字に

まとめなければいけない。

3ヶ月前に、ここの支店の営業トップが病に倒れ、急遽、

営業部隊を仕切るため、妻子を残して単身でやって来たのだが、

まるでデタラメな組織で、来て早々仕切るのが、大変だった。 

今日も成績の悪いベテランのケツを叩き、自分の注文書をまとめ、

気が付くと午前1時を回っていた。

「山田さん何やってたんだよ、本当に」

そう独り言をいいながら、会った事の無い先任に悪態を付き、

後1時間は掛かりそうなので、別棟の喫煙室までチョッとタバコをと

顔を挙げると、守衛のおじさんが広いホールの廊下からこちらを覗き、

「まだ掛かりそうですか?」と声を掛けて来た。

「すいません、もう1時間ぐらいです」と言うと、

「そうですか、ではカギ掛けて、火の元お願いします、

後、退出日報も忘れずに」と行ってドアを閉めた。

彼らは一回りすると仮眠を取るのだ。

帰りは、このホールのセキュリティーを自分でかけ、

裏の通用口から出なければいけない。

ここは、ビルの4階、かなり広いホールに自分だけ一人

ポツンと座っていると情けなく、とても寂しく感じる。

入り口まで歩き、後ろを振り向くと、結構隅の方にそこだけ

電気が付いていて暗い海原にポツンと見える小島のようだった。

(そういえばタバコ後2本だったな・・)

と思い2階の別棟に続く渡り廊下まで階段で降り、

そこから5分、古い方のビルの渡り廊下を渡りきった角に

喫煙室が有る。

最近は節電のため人が通らないと電気が消えるようになっていて、

センサーで人を感知すると、蛍光灯が付く仕組みになっている。

階段を勢い良く下りるとセンサーが追いつかず、

暗闇に吸い込まれそうになる。

回転階段なので、下まで見通せるのだが、1階には自販機が置いてあり、

ブーンと低い音を立て、これも節電のため、ボヤーとした明かりで

ホールの白い壁を照らし、返って不気味に見える。

2階の渡り廊下を歩いて禁煙室に近づくと先客がいるようで

喫煙室は明るく、光が廊下を照らしていた。  

近づくと古いパイプ椅子に座り,しきりに体を触って

何かを探している人が一人。

「今晩は・・・」私が入って行くと、ビックリしたのか、

パイプ椅子をガタガタと鳴らし中腰で立ち上がり、暫くこちらを窺っていた。

「ああ・・すいません・・・ビックリさせて」こちらもパイプ椅子の

音にビックリして固まったが、声をかけるとその人はホットしたように、

何も言わず、パイプ椅子に座りなおした。 

(おや?)不思議な事にタバコの煙を吸い込む空気清浄機が作動していない。

(おかしいな?)と思ってBOXからタバコを出して火をつけると、

ひゅー・・・ブォーと言う結構耳障りな音で起動し始めた。

その間もその人は終始体を触りそわそわしている。

(そうか、タバコ無くしたのか)そう気づいて、

「あ、僕のでよかったらどうぞ、きついですけど」

そう言って差し出すと目を潤ませ、今まで我慢に我慢をして来たように

震えた手を差し出した。

だが、躊躇しているようで、なかなかBOXから抜いてくれない。

「・・・・タバコ止めてるんですね?」何となく察して声をかけると、

頭をブンブン振って、震えた手を私が差し出したタバコのBOXの前で

小刻みに出したり引っ込めたりしていた。

その内、我慢できなくなったのか、一歩踏み出しタバコを抜き取った。

そして、背広のポケットからジッポを取り出し、

カシャ、ジッ、ジッ、ボッと独特のリズムで火を付け、中腰で、

思い切り煙を吸い込んで、又カシャンとジッポの蓋を閉じた。

特有なオイルの香りが一旬したがすぐに空気清浄機に、

吸い込まれ壁に染み付いた煙の匂いだけになった。

すると「ゲホゲホ・・・ゲボゲボ・・うぐ、うぐ・・」と凄い勢いで、

初めてタバコを吸った中学生のようにむせ始めた。

「大丈夫ですか?」と駆け寄ろうとすると椅子に座りながらタバコを

指に挟んだ手で大丈夫とゼスチャーして来た。 

そしてむせながら両手を合わせ有難うとゆう仕草でこちらに

礼を返して、又深く煙をすいこんではむせていた。

「すいません、これきついタバコで。」

そう言って、自分のタバコの最後の一本を空き缶の水に、

ジュッと付けて灰皿に捨て、

「では、もどりますので」といって部屋を出た。

むせながらもその人は、とても満足げな顔で、こちらに

会釈をし嬉しそうに笑っていた。

(タバコはなかなかやめられないものな)

そう思いながら喫煙室を後にした。

途中、階段から明かりが見える喫煙室を眺め、1階でコーヒーを買い、

3階の踊り場から又、覗くと喫煙室の明かりは消えていた。


次の日、月初の数値目標を営業マンの前で説明し

「今月はお願いします」

と全員で声を上げた後、部長が先ほどからしていた携帯を置き、

「チョット良いかな」

と全員を椅子に座らせ、少し目頭を押さえこう言った。

「皆さん、病気療養中の山田さんが今朝、

病院で亡くなっていたそうです。」

「エエ・・・・!!」皆、相当ビックリしたように声を上げ、

ザワザワ話始めた。

「それで、今日これから皆さん手分けして、葬儀やらの準備を

手伝って下さい。」


話を聞くと、山田さんは一人者で、社内検診で肺がんの

恐れが有ると言う結果が出たのだそうだ。

皆、検査入院だと思っていたらしくまさか末期だとは

誰も思ってもいなかったようだ。

部長と二人で、私も一緒に病院へと言う事になり、

道すがら山田さんの話を聞くと、とてもタバコが好きで

一日三箱、吸っていたそうだ。

病室では、何故か愛用のライターを握り締め、

ベットから落ち床にうつ伏せで亡くなっていたそうだ。

良く会社の喫煙室で、すぐ一箱吸ってしまうので、

集まる人からタバコをもらっていたそうで、

去年、営業所が初めて全国3位になった時、

営業課長の山田さんに、ジッポのビンテージライターを

みんなで送った物なのそうだ。

そんな山田さんの話をしながら病院に着き、

真っ先に山田さんのもとに向かった部長は

病院の霊安室で男泣きに泣いていた。

歳も近く、呑み仲間であった山田さんは、

部長にとって部下以前に友人のような存在だったらし。

そのとき、葬儀業者の人が遺体の引き取りにやって来た。

丁度、忙しい時間だったので、葬儀会社の担当と、

看護士と部長しか居らず、安置用のベットから、

移動ベットに載せかえるために、私も手伝う事になった。

4人が四隅に立ち、毛布がかけられた遺体の下のシーツを持って、

せーので移動ベットに移した時、はらりと毛布が床に落ちた。

それを拾い、又掛けてあげようと山田さんを見ると、

胸に置かれたジッポに見覚えが有った。

顔を見ると、昨日喫煙室で会ったその人だった。

顔は満足げに微笑んでいた。

「・・・・・」

帰り道、タバコを切らしていた事を思い出し、

「部長、すいません、コンビニで・・・・」

タバコをと言おうと思ったがやめた。

「いや・・良いです・行きましょう」

山田さんのアパートに部長と向かう車の中で、

(タバコはやめよう)と思った。

肺がんでも最後は吸いたいです私はww

焦がしましまろさんに捧げます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 一連の流れで終わりまで綺麗にまとまっているのが、読み易いしすごくいいと思いました。てっきり怖い系かと身構えていたので、良い意味で期待を裏切られました。 山田さんの人柄がよくわかり、全体的に…
2012/07/08 16:38 焦がしマシマロ
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