folklore;1
むかしむかし
揚々朗々歌うのは、違わぬ一つの思いの荷。
刻々黒々進むのは、違えた一つの重き荷だ。
遙々瞬き見失い、それでも那由他を揺蕩うて、求める光るの源は。
無垢なる無辜の狢らの、望むを乗せる残り火は。
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西暦2063年。
「モノレンマ」と訳された彼らは人類種に一方的な最後通牒を突きつけた。
彼らが何であるかは知りようがなかった。
だが少なくとも科学力に於いては現状の人類よりも遥かに高度なものを操ることはどうやら確からしかった。
何故なら彼らの通知した僅かな、文字とすら認められないレベルの形象は、しかしそれを見る全ての人間にその意図を知らせる事が可能だったからだ。
最後通牒の結果に起きるであろう出来事について、彼らは曰く。
「回帰するための手段にいつまでも気がつかなかった人類に対する"教育"」。
その実態はと云えば、馬鹿らしいほどに単純なものだった。
そうとも、彼らの最後通牒の期限、2083年4月12日世界平均時16:42:30の僅か2秒後。
太陽は消えた。
正確に言えば消えてなどおらず、見えなくなっただけというべきだろうか。しかし極小まで圧縮されたそれは元太陽系のバランスを著しく乱し、この星にとって致命的な結果をもたらす事は最早明らかだった。
余りにも一方的で余りにも少ないコンタクトしか持たなかったモノレンマが何を持って"回帰"と為すかは最早分かりえなかったが、しかし黙って真暗の揺籃にとどまる事が最良の策と考えるものは殆どいなかった。
そうして、希望を求める為に建造された船はアタと名づけられた。
月をセントラルユニットにしたそれは、末端にあるものをその反対側へと移動させることで移動するいわばアメーバのように不恰好な代物だった。しかしその道中にあるあらゆる物質をその"胎内"に取り込み加速度的に速度を増すそれは理論的には光速に限りなく近づけるはずだった。
西暦2128年。
アタが完成した。光の届かない揺籃の地には産声が減っていたから、皮肉にも争いは殆ど起こらなかった。
あと90年、いいやそれよりも以前に自分たちがいなくなるのを分かった上で、それでも揺籃に残るという"彼ら"は、自分たちのいなくなる最後までそこで生き抜くことにした。
そうして【私】と彼らは別離した。
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あるところに