continuty
むかしむかしあるところに、かれらはいました。
そこはとてもいごこちがいいばしょでした。
だれもけんかなんてしません。だれもびょうきになんてなりません。
ぜんぶがふんわりうごかない、とてもきれいなばしょでした。かれらはそこにいました。
あるとき、ひとりがとびだしました。
ぽん、とかれがとびだすと、かれらはとてもあわてました。
かれらのたいせつなものが、かれがとびでたあなからとんでいってしまったからです。
これはたいへん。かれらはたいせつなものをとりもどしにいきました。
ほとんどのかれらはたいせつなものをとりもどせました。
たいせつなものをみつけたかれらは、ぱちんとすこし、うれしそうにひかって、そこへかえっていきました。
けれど、ほんのすこしのかれらは、くらくてひろいばしょにとびだしてしまったたいせつなものをみつけられないままでした。
かれらはみんながたいせつなものをみつけるまで、ぽんとあいたあなをあけておこうとおもいました。
けれど、そのあながあいてから、なんだかからだがじゆうにうごきません。
そうしてきづくと、あなのそとから、くらくてひろいなにかがどろどろとはいってきてしまったのです。
それでもかれらは、みんながかえってくるのをまちました。
だんだんと、かれらのばしょもくらくなっていきました。いごこちのいいばしょが
はんぶん。はんぶん。はんぶん。はんぶん。
はんぶんをどんどんくりかえして、かれらはもう、あきらめました。
きっとかえってこないんだ。
きっと、むこうでたのしいなにかをみつけたんだ。
そうして、かれらはちいさくなってしまったいごこちのいいばしょをくるんととじて、もう、くらくてひろいばしょからはみえなくなりました。
たいせつなものをさがしたかれらは、くらくてひろいばしょで、みんなずっととおくにいってしまいました。
ぽんととびだしたかれはどうしてとびだしたのでしょう。
たいせつなものをなくしたかれらはどうしているのでしょう。
じかんはたくさんすぎました。
ずうっとむかしのおはなしなのです。
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私はどこだろう。
水の流れる音が耳をすすぐ。彼はうつ伏せに倒れていた自身に気付き慌てて上体を起こしたが、そこがどこであるのか分からなかった。
青い光に照らされた明るい白銀の直方体の内にいたはずが今やあるのはくすんで崩れてくたびれた廃墟のような、いいや廃墟そのものの部屋だった。
部屋というのももはや正しくはない。その部屋の中央は穴明き吹き抜けになっており、その頂上がどこにあるのか目で測るのもできないのだから。
穴の縁は経年の故かほろぼろと崩れ、その至る所より遥か天上からの水の雫の溜まりの故の緩い流れをしたためていた。
そうしてその、何故あるのか分からない有り様の中心に信じられないほどの静謐さを纏い一つの固まりがあった。
八つ足に滑らかな銀の身の付いたそれは、内側から花の如く凛と咲き、まるで自身は部屋の荒廃の中に自然にあるとでも言いたいようだったが、同時にそれは周囲の経年から考えるに滴り落ちる水の影響を存分に受け霞み曇った銀でなければおかしなはずだろうに、その表面は見事な鏡のようだった。
男は立ち上がり、手元の自信作がすっかりと作動しないのを確かめひどく残念そうな顔をした。少しでもデータが読み取れれば自身の置かれた状況を読み取れたのに、と。
ため息をつき、いないスペシャリストの安否を思う。彼はいまどこに、いやいつにいるのだろうと。
目の前の花は当たり砕けた水の飛沫を燐光すら感じさせ弾いている。
'それ'は全てを知っている。ここでなにが起きたのかも、ここはどこなのかも。
歩み寄り銀の花に触れると、それはいつかのスペシャリストを迎え入れた時のように逆に咲き、彼を迎え入れた。