Scene;8
いつかはいなくはなるけれど
世界は真簡単にその意を露へと変える。
その旅人を包む斑目の過去と未来の被し粒は正に彼を真っ当に包み込んでいる。
数多の飛沫は閃いて、その身全てを照らすよう。色は目映く瞬いて、魔性の真紅は瞬いた。天つ新たな天蓋、遷のくしきは深く青。
シーアは万色を映し出している。最早その交錯するヴェールは人の認識しうる色、或いは匂いを越えた眩さだ。全てが混じり、濁ることなくただ重なり、減算ではなく加算で発されるその色がシーアに飛び込んでいた。
その中を、その只中を、ただ一つ揺らがない現たる色を保ち、彼は進んでいた。
そうして同時に、その色の違いの瞬きの群れは代わらない一つの色を迎え入れるかのように道を作り出してもいた。それは観測している科学者に安心を与えたが、それと同じくして心裏にある著しい不安をよぎらせた。
仮に、彼がこのままエミュレティムに接触し、スペシャリスト流の'治療'を施せるのならばいい。だが、果たして今は彼を包み込もうとしていないあの波が彼を覆い隠したのならば、彼はどうなるのだろうか。
いいや、積荷は、それを為すためのものなのだ。仮に完全に起動したのなら、その結果は見えていた。そうして多脚歩行機にかかれば積荷の目的は簡単に為されるだろうことも積荷を作った彼は分かっていたし、この急速なまでの変位はそのことを裏付けてもいる。可能なのだ。積荷はその機能を果たせることが科学者には、シーアには見えていた。
そうして問題なのは、今まさにそれがなされようとしていることだ。
赤と青のアジテイタアは彼を取り巻き、どこへ連れていこうとしているのか。2人以外に見せないのは何故なのか。
そも、この状況下で何故積荷は動作したというのだろうか。答えを識る多脚歩行機へ繋がる道はもちろん、モニターさえも変位され繋がらない今では知る由も無く。
何故と何故、それから何故が彼の思考を侵食した。
しつこくしぶとくしにぞこね