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悪役令嬢に転生した魔王信長、婚約破棄されたのでアイドル聖女を焼き払ったら、最強男たちに溺愛されました。  作者: おおたまらん


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第16話:魔王、溶ける。

温泉で身も心も解きほぐされた一行を待っていたのは、ドワーフの里が誇る滋味溢れる晩餐でした。


 大広間のテーブルには、獲れたての山菜、豪快に炙られた猪肉、そして琥珀色の葡萄酒ワインが所狭しと並んでいます。


「さあノエル姉様、今日は再会を祝して乾杯しよ!」


「ええ、そうですね。ヤスミン」


ヤスミンが天真爛漫にグラスを差し出し、ミツルギもまた、聖遺物でも扱うような手つきで自分のグラスにワインを注ぎます。その傍らで、給仕をしていたランだけが「……あ」という顔でノエルを見つめました。


止める間もありませんでした。ノエルは優雅な所作でグラスを傾け、ほんの一口、琥珀色の液体で喉を潤したのです。


「……っ、ふぅ。やっぱり、ドワーフの里の食べ物もお酒も最高に、美味しいわね……」


ノエルは努めて冷静に、いつもの公爵令嬢らしい優雅な微笑みを浮かべようとしました。しかし、その瞳はわずかに潤み、視線は先ほどからヤスミンの鼻の頭あたりをゆらゆらと泳いでいます。


「でしょでしょ! ノエル姉様にそう言ってもらえるのが一番嬉しいよ! いつでも好きな時に来て! ご馳走するから」


「いいねいいね〜、美女二人がキャッキャしてる姿見るのって最高に幸せだよね〜〜」


ヒュデが二人をおかずにするように酒を嗜み、その隣では酒好きのミツルギが何も喋らず、スポーツ飲料のようにワインをぐびぐびと飲み干しています。


あっという間に顔がピンク色になったノエルを見て、ランが突風のような速さで背後に回り、小声で耳打ちしました。


「ノエル様、もしかしてお酒を嗜まれたのですか!?」


「……だって、喉が渇いていて、美味しそうだったから」


少し幼い口調で返すノエルに、ランは困り果てたような、しかしどこか保護欲を掻き立てられたような仕草を見せました。


「ダメそうなら僕がお部屋にお連れしますから、いつでも合図くださいね」


「うん」


ノエルがこくりと首を縦に振ったその時、ミツルギが眼鏡の奥の瞳を向けました。


「……何、体調が悪いのか?」


「いえ、そう言うわけではありません」


ノエルは背筋を伸ばし、必死に意識を保ちます。

宴はヒュデの女の落とし方テクニックを使った数々の武勇伝や、ヤスミンによる幼少期のノエルの話で盛り上がりを見せていきました。


数分もすれば、ピンク色だったノエルの肌が、いよいよ真っ赤に熟れきっていました。


「お楽しみのところ申し訳ありませんが、ノエル様! 湯あたりと疲れが重なったようです!失礼して、お部屋へお運びしますね」


ランは手際よくノエルの脇を抱えるようにして立ち上がらせ、ミツルギたちが追求する隙を与えず、足早に大広間を脱出しました。


「……あ、ありがとう、ラン……。……わたくし、完璧な、……タイミングの、退却、ね……」


「全然完璧じゃないですよ。ノエル様! 僕の肩に捕まってください、あの人たちにノエル様が酒が弱いってこと、バレちゃいます!」


ようやく客間の扉を閉め、二人きりになった瞬間。

 ノエルは「ふにゃ……」と、ランの胸の中にその全体重を預けました。


「……ラン。……ランは、本当に、よく気がつく、……良い、子、ですね……」


「はいはい、下戸な主君を持つと苦労するんですよ。さあ、お水飲んで横になってください」


少し遅かったかもしれないと後悔しながら、慣れた様子のランが寝台に座らせようとすると、ノエルはその手をぎゅっと握りしめました。あろうことかランの首筋に顔を埋めて、くんくんと鼻を鳴らします。


「……ラン、いい匂い。……お花のような、……安心する、匂いが、します」


「えっ、ちょ、ちょっと! いけませんノエル様、くすぐったいですってば!」


普段の凛とした姿からは想像もつかない、蕩けたような表情。

 ノエルはランの頬に自分の赤い熱を帯びた頬をすり寄せながら、潤んだ瞳でじっと少年を見つめました。


「……わたくし、……王都を追放された時、村の入り口でランに出会わなければ……きっと多分、一人で暮らしていたかもしれない……」


差し出されたコップを両手で持ち、ちびちびと水を飲みながら、ノエルはポツリポツリと語り始めました。完全に酔っ払った彼女の口からは、普段は鎧の下に隠している本音が溢れ出します。


ノエルは、ゆらゆらと揺れる視線でランの胸元に顔を寄せました。


「……でも、ランがついてきてくれた。ランがわたくしの横にいてくれたから。だから本気で、この世界のことわりごと変えてしまおうと思ったの……」


ノエルはランのシャツの裾をぎゅっと握りしめると、上目遣いで、潤みきった瞳をじっと少年へ向けました。


「え……ノエル様……それ、本当……?」


ランは思わず絶句しました。

 あの日、泥にまみれて追放されてきたノエルに拾われ、行き場のない自分に居場所をくれたのは彼女でした。ランは今の今まで、自分こそがノエル様に救われ、その慈悲に生かされている「拾われた存在」なのだと思って生きてきたのです。


恩返しをしなければならないのは、自分の方だ。そう信じて疑わなかったランに対し、酔ったノエルはさらに言葉を重ねます。


「……わたくしの心に火をつけたのは、ラン……あなたですよ……」


ノエルは熱い吐息を漏らしながら、蕩けたような、しかし確かな幸せを感じさせる笑みを浮かべました。


「ランがいてくれたから、わたくし、新しい目標ができて……。今、人生がとっても楽しいのですよ。この国を、ランと一緒に、わたくしたちが心から笑える場所に作り替えることが……」


あまりに重く、真っ直ぐな言葉。

 自分が救ったつもりの主君から、「貴方がいたから今の人生が楽しい」と告げられる。

 ランはいたたまれなさに耐えかねて、真っ赤な顔で自分の髪を乱暴にかきました。その視線のやり場に困った、次の瞬間。


「……すぅ……、……すぅ……」


燃え尽きた、ノエルの身体から力が抜けました。そのままランの膝を枕にするようにして、主君はすっかり夢の世界へと旅立ってしまったのです。


「……寝ちゃった!?」


安土の地で、二人三脚で這い上がってきた日々。

 王都で蔑まれ、絶望の淵にいた公爵令嬢を、その背中で支え続けてきた平民の少年。


ランは、自分にだけ見せられた「無防備すぎる真実」に、耳まで真っ赤に染めながら、そっと指先でノエルの柔らかな頬を撫でました。


「……あっつ」


それが、酔ったノエルの体温なのか、それとも自分自身の火照りなのか。

 ランは激しく波打つ鼓動を鎮めるように天井を仰ぎ、静かな夜の闇の中で、しばらく身動きが取れずにいました。


「……まいったなぁ、本当に」

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