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悪役令嬢に転生した魔王信長、婚約破棄されたのでアイドル聖女を焼き払ったら、最強男たちに溺愛されました。  作者: おおたまらん


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第13話:公爵令嬢の王都への帰還。王国公認商会の色男。聖女の独占市場の抜け穴を刺す

 アレン騎士団長が持ち帰った「税の即納」と「公爵位の返還」という条件は、聖女エマへの献金で国庫が火の車だったアルフレッド王子にとって抗いがたい肉餌でした。王子は「地に堕ちた魔女に今さら何ができる」と高を括り、即座に公文書へサインしました。


 しかし数日後。ランとミツルギを引き連れ王都へ帰還した「アトラス公爵令嬢」ノエルの堂々たる再臨に、王都の民衆は言葉を失うこととなります。


 ノエルが真っ先に向かったのは、王都の心臓部、一等地の繁華街に佇む指折りの目利きと噂される質屋でした。

 ドアを開けると、そこでは、数人の美女に囲まれた男が立っていました。


「やぁ〜! ノエルちゃんじゃないか。急で驚いた。久しぶり……いや、今は『ノエル公爵令嬢』とお呼びすべきかな?」


 少し癖のある明るい栗毛をかき上げ、柔らかい笑みを浮かべると、一転して鋭い商人の目でノエルを仰ぎ見たその男の名は、ヒュデルク・ド・テオドール伯爵。


 3年前、ノエルが公爵家を追放された後、彼女が身に纏っていた最後の一枚、最高級のシルクドレスを「過去」として質に入れに来た際、その覇気に惚れ込み、最高額で買い取ったのがこの男、通称「ヒュデ」でした。


「久しぶり、ヒュデ。相変わらず、女性にモテモテね」


 ノエルのあからさまな棒読みに、ヒュデは「心外だなぁ!」とおどけて肩をすくめました。


「ハッハッ! 女性には優しく、美しく。それが僕のモットーだからね。……ああ、そういえばノエルちゃんと初めて出会った時も、僕のこの『優しさ』のせいで、お転婆な令嬢にナイフで刺されそうになってさ。というかガッツリ刺されちゃって、あの時はノエルちゃんのおかげで助かったんだよね〜〜」


 ヒュデは普段、遊び相手を相応に選んでフラフラしている男ですが、その時たまたま彼の甘言を本気にしてしまった令嬢に刺され、路地裏で倒れていました。偶然通りかかったノエルが、傷口を『黒炎』で容赦なくジュッと焼き切って強引に止血したのです。ある意味、刺されるよりも恐ろしい激痛でしたが、ノエルの見たことのない魔法こくえんに、ヒュデは心底惚れ込んでいました。


「ところで今日は何しに僕の店へ?」


 ヒュデの問いに対し、ノエルは言葉の代わりに懐から小さな袋を取り出しました。そして、ヒュデの手のひらに「それ」を零し落としました。


 夜空から零れ落ちた星の欠片のような、色とりどりの小さな塊。——安土で開発された新商品、『金平糖』です。


「食べてみて」


「……ふ〜ん?」


 ヒュデはそれを一つ口に放り込み、舌の上で転がしました。一瞬で広がる強烈な、しかし上品な甘み。細めていた目をカッと見開き、瞬時にその『価値』を弾き出します。


「……いいねコレ!甘いだけじゃなくて、見た目も愛らしいし女性子どもに受けそうだ。だけど、ノエルちゃん」


 ヒュデは手振りで美女たちを下がらせると、少しだけ声を低くしました。その目は、王都の闇を視る商人のそれでした。


「これを広めるのは、至難の業だよ。今の王都は、エマ聖女一色の『狂信の街』だ。パン一つ買うにしても、彼女のノベルティがついてくる店でしか物が売れない。品質の良さだけで勝負していたまともな店は、この3年でほとんど潰れてしまった」


 ヒュデは呆れたように肩をすくめると、質屋の壁際にずらりと並べられた商品を指差しました。


「ほら、うちも結構な品揃えでしょ? 聖女の微笑みが描かれたハンカチに、聖女の祈りが込められたペンダント……。どんなに良い商品でも、こういう『聖女関連』と抱き合わせにしないと、今の王都じゃ誰も見向きもしない。……理屈じゃない、呪いに近い流行だよ」


「確かにエマちゃんも可愛いけど、僕は世の中の女性みんな大好きだからさ!たった一人の女に縛られるなんて、もったいないじゃな〜い」


 ヒュデの冷静な分析と、壁に並んだ趣味の悪いエマ・グッズの山を、ノエルは不敵な笑みで受け流しました。


「エマ関連の商品は、エマが作っているの?」


 ノエルのその核心を突く問いに、ヒュデはポンッと手を叩き、鼻で笑いました。


「まさか! 作っているのは、『エマ公認』の権利証ライセンスを買った、一部のエマにゾッコンな特権商人たちさ。他の人は貴族であってもエマ公認グッズは作れない。もちろん利益はほとんどエマが持ってってるという噂だ」


 ヒュデは壁に掛かっていた安物のペンダントを指先で弾きました。カチャリと、軽いプラスチックのような安っぽい音が響きます。


「原価なんてタダみたいな粗悪品だよ。でも、それに『聖女エマの祈り』というはくをつければ、馬鹿な貴族や狂信的な平民たちが金貨を積んで奪い合う。全く恐ろしいマーケティングの手法だよ」


「そういえば、もうすぐエマのライブがあるんだけど」


 ヒュデがカウンターの隅に置かれた魔石が組み込まれたモニターを指差します。そこには、数万人の聴衆が熱狂し、涙を流しながらエマの名を叫ぶ過去のライブ映像が流れていました。


「エマに絡めた……何か……」


 ノエルは、星屑のような七色の金平糖を指先でつまみ、モニターの映像と交互に見ながらぶつぶつと呟く。

 モニターの中のファンたちは、エマの歌に合わせて熱狂的に何かを振っていた。しかし、演出のために落とされた照明のせいで、彼らが一生懸命振っている「色の違う旗」は暗闇に沈み、何色なのかほとんどわかっていませんでした。


 その光景を見た瞬間、ノエルの脳内にピコン!と電流のような閃きが走りました。


「……エマのライブで使う、『いろんな色に光る杖』みたいなのはどうかしら。エマの信者は歌に合わせて色の違う旗を振っているみたいだけど、会場が暗いから色がよく見えていないわ。なら、暗闇でも鮮やかに発光するアイテムがあれば……」


「!?」


 ヒュデの目力がさらに強まりのある眼光が、限界までカッと見開かれました。

 暗闇の会場を、ファンたちが自ら放つ無数の光で染め上げる。それがどれほど熱狂を生み、飛ぶように売れるか。商人の直感が、莫大な利益の匂いを嗅ぎ取ったのです。


「そんなものを作るのが可能なのかい!? ……最高じゃないか、うちで独占販売させてくれるなら全力で売るよ!僕はこれでも王国公認商会の会員だからね」


 ヒュデは興奮を隠しきれない様子で身を乗り出します。

 エマの利権には直接触れず、しかしエマの信者たちの『熱狂』だけを利用して、莫大な利益と安土の技術力を王都に見せつける。まさに、ノエルとヒュデのタッグにふさわしい鮮やかな盤面返しでした。


「交渉成立ね。ラン、ミツルギ、王都に来たばかりだけど、至急『ドワーフの里』に向かうわ。あそこにはわたくしの信頼する腕ききの職人がいるからね」


「おっと、だったら僕も同行させてもらうよ! その『光る杖』の仕様、販売のプロデューサーとして直接職人たちとすり合わせたいからね」


 ヒュデがウインクを飛ばしながらノリノリで提案すると、ノエルはあっさりと頷きます。


「ええ、構わないわ」


「「……は?」」


 背後で静かに控えていたランとミツルギが、思わず素っ頓狂な声を同時上げ、ハモりました。

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