第1話:断罪と覚醒の夜
「婚約破棄から始まる、悪役令嬢(第六天魔王)の異世界天下統一」
『元トップアイドル聖女』vs『戦国の魔王ノエル(信長)』
「プレリュード王立魔法学院、卒業生のみなさん。これより、国の平和を祈って、祭壇に魔力をささげましょう!」
学院長の力強い宣言とともに、会場の中央にある巨大な水晶が、まばゆく光りだしました。
これは、これからの国を支える若い貴族たちが、自分の魔法の力を国のバリアに注ぎこむ、国家的な儀式「献納の儀」です。
ノエル・オーディン・ド・アトラスは、公爵家の正当な後継者として、第一王子アルフレッドのすぐとなりで祭壇の前に立っていました。
「ノエル。君の炎の魔法は、国のバリアを支える強力な核になる。しっかり頼むよ」
センター分けの金髪をゆらしたアルフレッド王子が、となりのノエルに冷たい視線を向けます。事務的な声でしたが、ノエルにとっては、自分を認めてくれた唯一の瞬間のように感じられました。
「はい、アルフレッド殿下。すべてをささげる覚悟です」
ノエルの持つ炎は、本来はすべてを焼きつくす破壊の力です。でも、彼女は「この力で大好きな国を護りたい」という強い思いを持っていました。暴れ馬のような炎を、みんなを優しく包む「守護の光」に変えるために、指先を針で傷だらけにしながら練習を続けてきたのです。それが彼女なりの、誠実な愛の形でした。
「儀式、開始!」
学院長の合図とともに、卒業生たちが一斉に手をかざしました。
祭壇の反対側では、この国で数百年ぶりにあらわれたという「聖女」エマが、祈るように手を合わせています。
ノエルは静かに目を閉じ、体の中に眠る魔力を練り上げました。
手のひらから透きとおった赤色の魔力が伸び、水晶が彼女の忠誠心を受け入れた――その瞬間でした。
「……っ!? な、何これ、熱い! 誰か止めて!」
エマが悲鳴をあげて倒れこみました。
すると、祭壇の水晶が不気味な黒ずんだ赤色に変わり、激しい音が鳴り響きました。
ノエルが注ぎこんでいたはずの魔力が、あふれだした瞬間に「暴走」したのです。
「……うそ、わたくしの魔法が、暴走……?」
ノエルがパニックになっている間にも、祭壇からは禍々(まがまが)しい爆炎があふれだしました。炎はヘビのように暴れまわり、会場のカーテンを焼き、貴族たちのドレスを焦がします。
「危ない、エマ!」
アルフレッド王子は、迷わずエマのもとへ駆けより、その肩を抱きよせました。婚約者であるノエルには目もくれず、彼は「聖女」のことだけを優先したのです。
王子の腕のなかで、エマは弱々しくふるえて見せました。でも、その瞳の奥には、ノエルをバカにするような冷たい光が宿っていました。
この国での聖女の人気は、王族にも負けないと言われています。なぜならエマには、「見た者すべてを夢中にさせ、自分の言葉を絶対的な正義だと思わせる」という、おそろしいほど強い魅了の力があったからです。
会場にいた人たちは、エマが「怖い」と言っただけで、思考を止めてしまいました。
周囲からは、ノエルがエマに嫉妬し、彼女を殺すために爆発魔法をわざと暴走させた、おそろしい魔女にしか見えなかったのです。
「だまれ、ノエル! 貴様の魔力が祭壇を汚したのは明らかだ! 自分のミスをエマになすりつけるつもりか!」
アルフレッド王子も、エマの力に操られるように冷たい杖先をノエルに向けました。
貴族たちも「人殺しだ!」「エマちゃんを傷つけるな!」と、いっせいに敵意をむき出しにします。
信じていた愛も、積み上げてきた努力も、すべてが否定された瞬間。
あまりのショックに、ノエルのひざが折れそうになった――その時でした。
視界の端で、祭壇から噴き出す「ドス黒い、どろどろとした赤色の炎」が、不意にノエルの記憶を激しく揺さぶりました。
それは、燃えさかる炎に包まれて崩れ落ちる、見たこともない黄金の城の光景。
(……是非に及ばず……)
なぜかその言葉が、魂に直接刻み込まれたように響きました。
ドクン、と心臓が跳ねます。
絶望に塗りつぶされていた脳裏に、燃え盛る本能寺の光景と、裏切りの刃を笑い飛ばした「男」の記憶が、濁流となって流れ込んできたのです。
ノエルは、ゆっくりと顔を上げました。
その瞳から涙は消え、代わりに、この世界の誰も見たことのない、するどい「覇気」が宿っていました。
「……ふふ、ふはははは!」
「……何がおかしい、狂ったかノエル!」
アルフレッド王子が、その気迫に押されながらも叫びます。
ノエルは、自分に向けられた杖の先を、まるでゴミでも払うかのように、手で無造作にはねのけました。
「婚約破棄? 国外追放? ……ふん、そんなちっぽけなこと。アルフレッド殿下、お礼を言うわ。この狭い鳥カゴは、わたくしには退屈すぎましたもの」
「な……っ!? 貴様、何を……」
その時でした。
ノエルの足元から、音もなく「真の闇」が広がりました。
祭壇からあふれていたエマの「ニセモノの爆炎」が、まるで巨大な怪物に食われるように、一瞬でかき消されます。
ノエルの全身から立ちのぼったのは、ただ熱いだけの赤でも、不吉なドロ色でもありません。
光を吸い込み、まわりの色を奪う、深い闇のような漆黒の炎――『黒炎』でした。
(魔法……か。いや、これは『理』よ)
ノエルは、自分の内側に眠っていた魔力の密度が、劇的に跳ね上がるのを感じました。
今まで彼女が「炎」だと思っていたものは、ただの燃えカスに過ぎません。この黒炎こそが、いっさいの無駄をはぶき、対象を消し去る、完成された熱の極致なのです。
「ひっ……! あ、熱い……いえ、寒気が……!」
エマが悲鳴を上げて後ずさりしました。黒炎は熱すぎるがゆえに、まわりの空気を一瞬で焼きつくし、逆に肌を刺すような冷たさを錯覚させるのです。
「やはりお前の正体は『黒炎』の魔女か! なんて不吉な! 早くこいつを追い出せ!」
王子のどなり声が響きますが、騎士たちは一歩も動けません。彼らの杖が、ノエルの黒炎に当てられて、ひび割れ、色を失っていくからです。
ノエルは不敵にほほえむと、深紅のドレスの裾を豪快に蹴り上げました。
会場にただよう安っぽい香水のにおいを、ノエルから立ちのぼる、するどい「お香」の香りが塗りかえていきます。
(……なんて、小さい。わたくしは、この程度の男との『ままごと』に、人生を捧げようとしていたの?)
数万の軍勢を動かし、古い世界を焼き、新しい法をつくる。
その巨大な熱量に比べれば、王子に愛されるだの、エマにハメられるだのといったケンカは、文字通り「ゴミ」に等しいものでした。
(できる……わたくしには、何だってできる気がいたしますわ。この国を……いえ、この世界を、わたくしの思うままに描き変えることすら!)
ノエルは、あざ笑うように口角を吊り上げた。
その瞳に宿る光は、先ほどまでの「公爵令嬢」のそれではない。
数多の屍を越え、頂から世界を見下ろしてきた「魔王」の眼差しだ。
「まずは……そうね。あの甘ったれた王子と聖女には、絶望という名の『兵糧攻め』から教えて差し上げましょう。」
はじめまして、おおたまらんと申します。処女作です。
織田信長って悪役令嬢だよなっと思って書いてみました。
まだなろうの使い方わかっておりませんがご容赦ください。
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