7.倒れる午後
午後静心堂薬局前、春の日差しは柔らかく街路を照らしていた。しかし、その光景の中に、ひとつだけ違和感があった。
歩道に、制服姿の男の子が倒れている。手には空の薬のシートを大量に入れた袋が握られ、顔色は青白い。吐き気で身体を小さく震わせている。
私は咄嗟に走り寄った。「大丈夫ですか!」
男の子は小さく目を開け、ぼんやりと私を見る。
「……薬……」声はかすれ、言葉にならなかった。
薬の空袋が大量にある。
——過量服薬。状況は深刻だ。
私は冷静に状況を確認する。
* 呼吸は浅く、脈は速い
* 嘔吐の可能性あり
* 近隣に人通りはあるが、通行人は遠巻き
「救急車を呼びます」私は救急要請をした。
「午後3時半、清心堂薬局前で高校生が倒れています。服用した薬の種類は睡眠薬と抗不安薬、量は不明ですが袋があります。呼吸は浅く、脈は速い、意識は朦朧」その間も男の子の肩にそっと手を添え、落ち着かせる。
「大丈夫、大丈夫だから。ゆっくり息をして」小さな声で繰り返す。彼女はかすかに頷くが、意識はまだ朦朧としている。
「お名前は?」「……優……」声が震える。
私は彼の頭を支え、吐き気があれば受け止められるようにタオルを準備する。「大丈夫、ここにいます。救急隊がすぐ来ます」
男の子は震える手で私の手を握った。「怖い……」その声には、薬だけでなく、孤独や過去の痛みが混じっていた。
数分後、救急車のサイレンが聞こえた。私は手を離さず、静かに安心を伝える。隊員が到着すると、私は状況を簡潔に説明する。「過量服薬、意識朦朧。服用した薬は袋に入っています」
男の子はストレッチャーに乗せられ、救急隊に連れて行かれる。手を振る余裕もまだないが、私の目をほんの一瞬だけ見て、かすかに頷いた。
薬局に戻り、深呼吸をひとつ。午後の光は変わらず差し込んでいる。しかし、薬局前での数分間の緊張は、静かに胸に刻まれた。
——薬局は、ただ薬を渡す場所ではない。ここは、誰かの命を守るための拠点でもある。一歩、一歩、少しずつ支えるための場所。
男の子が安全に搬送されるその背中を見送りながら、私は心の中でつぶやく。「怖くても、大丈夫。少しずつ、支えるから」
午後の静心堂薬局には、今日も静かな光と、誰かを守る時間が流れていた。
若者世代のオーバードーズ増えていますよね…




