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5.安全のための一歩

午後の清心堂薬局は、いつもより少し穏やかだった。窓の外には春の日差しが差し込み、待合の椅子に座る人々の影を柔らかく揺らしている。

自動ドアが開き、30代前半くらいの女性が入ってきた。肩までの髪を軽くまとめ、淡い色のカーディガンを羽織っている。処方箋をそっとカウンターに置くと、少しだけ緊張した様子で目を伏せた。

私は処方箋を受け取り、薬歴を確認する。——抗うつ薬、抗精神病薬、抗不安薬、睡眠薬、種類も量も多すぎる。

「こんにちは」私は穏やかに声をかける。「今日は、この処方箋の薬について少しお話してもいいですか?」

女性は小さく頷く。「はい……」

私は薬を棚から取り出しながら続けた。「服薬の状況を教えていただけますか。どのくらいの量を、どのタイミングで飲まれていますか?」

女性は目を伏せたまま答える。「先生の言われたとおり……だと思います」でも、その口調には少しの迷いや不安が混じっていた。

——自己判断で飲んでいる部分もある。私は静かに息をつき、言葉を選ぶ。

「実は、この処方の量や種類は少し多めです。もしよろしければ、一度再評価してみることもできます」

女性は目を見開く。「え……でも、隣の精神科のクリニックじゃなくていいんですか?」

「ええ。隣の精神科ではないクリニックでも大丈夫です。薬の量や種類を整理して、安全に使えるように確認できます」

女性は少し考える。「でも、私……怖くて」

そのとき、待合の椅子から小さな声が聞こえた。

「私も、最初は薬が多くて不安でした」

高校生が立ち上がり、視線を女性に向ける。制服はまだ少し窮屈そうだけれど、表情には落ち着きがあった。「でも、少しずつ飲めるようになりました」

女性は驚いた顔をして高校生を見つめる。——同じ薬局で、同じような不安を乗り越えた人がいる。

少しずつ、口元が緩む。「……わかりました」小さな声で答えた。

私は薬袋を整理しながら電話をする。


私は薬袋を整理しながら、電話を取り出す。——薬剤師としての役割は、患者だけでは終わらない。

「もしもし、清心堂薬局の薬剤師○○と申します。○○先生はいらっしゃいますか?一件、疑義をお願いしたくお電話いたしました」私は隣の精神科ではないクリニックに電話をかける。「本日、○○さんという患者さんが処方箋を持って来られたのですが、薬の種類と量が少し多めに見受けられます。再評価や整理を検討いただけませんか?」

先生は静かに確認しながら答える。「なるほど、情報ありがとうございます。それでは患者さんに一度来ていただきましょう」

私は電話を切り、患者に向き直る。「先生にも相談して、薬の量や種類を整理できることになりました。安心してください」

患者は少し笑みを見せ、ゆっくりと薬袋を持った。「……わかりました」「全部飲む必要はありません。量を減らすことも、タイミングを調整することもできます」

女性は小さく息をついた。「それなら、安心です」

高校生は微笑み、軽くうなずく。——自分の体験が、少しでも誰かの支えになった瞬間だった。

女性は処方箋の薬を受け取り、ゆっくりと薬局を後にした。午後の光が、彼女の背中を優しく照らす。

私は高校生に目を向けた。「あなたも、ちゃんと飲めてますか?」

高校生は少し困った顔で笑った。「はい、少し多めに飲んでしまったこともありますけど……」「それでも、今日の一歩になりました」

私は微笑む。清心堂薬局には、今日も誰かを支えるための時間が流れている。安全を確認し、寄り添い、見守る。

——それだけで、十分意味のある午後だった。

昔は、精神科の多剤療法多かったみたいですね。

今は、単剤療法が増えてるとは思いますが…多剤療法を避ける心理療法は原則保険外が中心。金銭的負担は大きいかもしれませんね。

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