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第8話 今日はついてませんわね

 パッと見て、破茶滅茶に可愛い子だった。

 小柄で、やや垂れ目だけど大きくて、可愛い顔立ち。髪はふわっふわのキャラメルブロンド。ほんの少し一部の肉付きが良い感じで、いかにもパン屋やスイーツ店の看板娘って感じだ。


 ……が、それだけ。

 なんか話しかけて欲しそうにチラチラ見ているけれど、可愛いだけで声をかける程、私達は暇じゃ無いのだ。

 何より、万民受けするのは私の方って自覚あるしな。

 何てったって、こち(この世)とら(で一番)【白雪姫】(美しいが故)だもの(殺される女)

 美人で(言うまでも)可愛(なく)い女(自分)は毎日見飽きてるレベルな訳よ。


「通常の獣なら無害な類の獣人は、要注意だ」

「例えば?」

「近年では、自分の子を狼獣人に丸呑みにされた山羊獣人の女が、狼獣人の腹を生きたまま鋏で掻っ捌き、石を大量に詰めて井戸に突き落とすという猟奇事件が起きた」


 それ【7匹の子山羊】だろ。

 確かにアレ、前世の子どもの頃は絵本で楽しく読めても、大人になったら中々凄い内容だと思ったけどさ……。

 ていうか、狼が子山羊を丸呑みにしてる件はスルーなのか?


「よってアレには構わず進むぞ」

「まぁ、構う理由も無いしね。オッケ」


 そう言う訳で距離をとって通り過ぎようとしたら、豚耳ッ娘がぎょっとしながら私達に手を伸ばして来た。


「お、お待ち下さいませぇ! あ、足を挫いてしまったようでしてぇ……」


 相変わらず視線はチラチラ。そして片手で足首をさすり、もう片手は顔の近くで口元を隠す感じ。

 で、多分()()()()()見たら斜め上目遣いの、一番可愛く見えるアングル。

 はいはい、理解。これハニートラップだ。


「「じゃあな」」

「こんな所に置き去りにされたら、悪い狼に食べられてしまいますぅ!」

「自然淘汰だ。諦めろ」

「嫌ですぅ!! うわぁぁああん!!」


 赤ん坊の如くワンワン響く泣き声に、リシャが大きくため息を吐いた。


「……治してくる」

「一緒に行きます」


 女連れの男にハニートラップを仕掛けてくる図太い女だ。油断は禁物。


「や、優しい方ぁ♡」


 彼女の足首に触れるか触れないかの位置で魔法を使うリシャに、甘ったるい声を掛けていた彼女は、次に私を見て不思議そうに瞬きをした。


「あ……あれれ? 何故でしょう?」

「?」


 リシャと私を、彼女は何度も交互に見て、最終的にその瞳は私を見て止まる。


「女の人〜……ですよねぇ?」


 どう見てもそうだろうが。


「私……何故だか貴女にときめいちゃうんですが━━ぁああああああ!! 痛い痛い痛いぃぃいい!?」


 物凄い悲鳴が上がるので、リシャの手元を改めて見ると、思い切り足首を掴んでいるし何ならバチバチ紫電が走っているのを見た。


「コレは俺のだ」

「オイ嘘教えんな」


 スパァンと、頭を一発叩く。良い音したな……。


「ご、御免なさい御免なさい御免なさいぃ! 断じて貴方様の奥様に色目など使いませんので、バチバチ止めてー!!」


 その後、体が痺れて動けなくなったと抜かす彼女を負ぶって家まで送る事になってしまった。

 余談だが、「奥様じゃ無い」と訂正を入れるタイミングは無かった。






「私、マリーナと言います。最近此処にお引越しして来たんです」


 マリーナの家は、煉瓦造りのしっかりした家だった。

 彼女が本当に【3匹の子豚】であるのなら、末っ子だね。


「そうか、達者でな」


 クルリと。リシャが私の腰に腕を回して回れ右した。だから必然的に、私も回れ右。


「去るの早過ぎません!? せめてお茶くらい飲んでいって下さいぃ! 最近誰ともお喋り出来なくって寂しいんですぅ!」

だよウザい」


 即答したのは私の方である。


「そ、そんなぁ……酷いぃ」


 この女、通りすがりの(リシャ)にあんな分かりやすいハニートラップ仕掛けておいて、頭というか……神経がおめでたい奴だ。

 家の扉を開けて、今度こそ本当に去る━━つもりだった。


「ハァ……ハァハァハァハァ━━」


 血走った目で笑う息の荒い男、つまり変態が居た。


 ━━━━ッ!!


 緊急事態(もとい)、咄嗟の事だったので、音での認識が疎かになった。

 私の銃弾とリシャの影の槍(闇属性魔法)

 どちらが先に、相手にブチ当たったのかは分からない。

 けれども扉を開けて一歩分という、恐ろしく至近距離に居たソイツが、数メートル先へ吹っ飛んで行ったのは確かに見えた。


「今日はついていませんわね」

「全くだ」

「━━あいるびぃばああああっく!!」


 走って戻って来やがった。

 今、私達はどんな表情をしている事だろうか?

 まぁ、楽しい表情では無いな。それだけは分かる。


「貴方、何故生きていますの?」


 私はもろ口に弾が入る角度で撃ったし、リシャは確実に腹を狙っていた。

 そもそも漫画じゃ無いんだから、完全に点みたいにすら見えない距離に飛ばされた生き物が、脚で走って戻ってくるのが有り得ない。


「マリーナと結婚する為なら、死んでる暇なぞ御座いません」


 …………マリーナのヤバそうなストーカーかな?


「口に入った物なら歯で挟んで受け止めましたし、魔法は射程範囲終わるまで体をくの字に曲げて逃げ切りました」


 確定。ヤバいストーカーだ。

 顔は二重が綺麗なイケメンなのに。

 敢えて分類するなら美人系のリシャとは違った可愛い系の。

 しかも頭にイヌ科の獣耳が付いた……イヌ科。


「もしかして、そこの残念雌ブタを食べに来た狼ですか?」


 家の中に居るマリーナを指して問い掛けると、「残念雌ブタ!?」という衝撃を受けてる声が聞こえた。

 意見は聞かない。己の行動を省みなさい。


「ええ、その通りです」


 そう言って、変態改めストーカー改め、狼男は一枚の書類を懐から取り出した。


「この家を建てる際にお借しした借金、耳を揃えて払っていただこうかと」


 借用書を確認してから、後ろでビクビクしているマリーナに視線を移す。

 駄目だ、コイツに聞いても疑問点解決しなさそう。

 という訳で消去法だ。無言でリシャを見上げて説明を求めた。


「狼獣人の『食べる』や『丸呑み』というのは、借金の取り立てや、それを払えなかった場合に借金奴隷として連れていく事を意味する」


 ああ、うちの国は奴隷禁止だけど、他国はまだ奴隷制度禁止してないとこ多いよね。此処も含めて。

 そっかー、つまり本当に食べちゃう訳じゃ無いんだ。

 そりゃ借金取り()を殺した母山羊がサイコパス扱いされる訳だよ。


「私の場合は性的に食べても宜しいのですよ」


 爽やかな笑顔で何ほざいてんだこの狼。


「最低かよ」


 軽蔑の眼差しと一緒に、ポロッと口から零れた。


「なっ……! 勿論、責任を取って妻に迎えますよ!! ていうかそっちの方が僕としては嬉しい!!」

「妾としてですか?」

「正妻です。狼は一夫一婦制なんです。妻にと望んだ番以外は断固拒否です!」


 ふーん……。

 狼の身なりを確認した。変態行為が際立ってブッ殺スイッチ入ってたから気にして無かったけれど、上質な上着に、微かにする男物の香水の匂い。何より借用書にある家紋。

 うん、どう見ても貴族。


「通りすがりの男を引っ掛けるくらいなら、普通にお嫁に行けば宜しいのでは?」


 後ろに居るマリーナに声をかけた。

 多少面倒かもしれないけれど、家庭教師くらい付けてくれるだろう。

 すると、彼女の涙腺がピィと崩壊した。


「鬼ですか悪魔ですかぁ!? 本気で言ってるんですか!? 私豚なんですよ! そして向こうは狼なんですよ!? 生理的に無理ですぅ!!」


 あぁ、そういう事か。種族の壁の高い事……。


「……て、人間も豚肉食べますわよ?」

「人間は、可愛さか有用性を示せばまだ食べないでくれる優しさがありますぅ!」


 そういえば、前世で子豚が大活躍する有名な映画あったなぁ、結構好きだった。

 でも此奴には、残念だけどあの可愛くて賢い子豚の片鱗全く見えないんだよな。


「待って下さい」


 静かな声だが、随分と重々しく大きく聞こえたのは、気のせいじゃ無いだろう。


「マリーナさんが、通りすがりの男を引っ掛けようとしたんですか?


 ━━僕というものが有りながら?」



 瞳孔まで開くその目にハイライトは無く、絶対零度の圧だけがその顔には乗っていた。


「ピッ!」


 マリーナが身を小さくし、私の背中にピッタリくっついて隠れる。

 隠れ切れてないけれど。


「間男は…………お前だな?」


 ジロリと、眼球がリシャへと向けられる。


「心外にも程があるんだが? 家裁で訴えるぞ」

「ッ!!」


 面倒くさそうに首の後ろを掻くリシャに、狼が飛びかかった。

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