第5話 つ、追撃??
長かったので二つに分けました。
少し短くなりましたが、ノープロブレム!
……また、性懲りも無く……。
起きてすぐ、脳内の怒りゲージがジワジワ上がっていく現象に慣れてしまった自分を悲しく思う。
どういう状況かと言うと、背後からベッドに侵入した不届き者にがっちり抱きしめられて、後頭部の髪に鼻先をグイグイ押し付けられている。
止めろ、嗅ぐんじゃ無い。せっかく綺麗な鼻筋なのに曲がるぞ。
身動きが取れない。辛い。でも布団の中は暖くて気持ちが良い。だが気持ちいいその熱源は不届き者!
出来れば甘んじたくないシチュエーションだが抗えない!
屈辱ここに極まれり……と、なんか斜め上に悔しさが突き出る私は、意趣返しとばかりに腹部に回る腕を引っ掻いてやろうと思った。
……て、感触が肌じゃ無い。布団の隙間から中を覗く。……私もだけど、リシャも服着ている。
そりゃそうか。昨日は普通に寝たんだから。
意趣返し失敗だ。何より馬鹿馬鹿しくなってしまった。
魔素処理をした日は当然だけど━━いや当然にしちゃダメなんだけど━━普通の日でも……。リシャは結構高頻度で私のベッドで寝てる。
せっかく旅費をケチらずにちゃんとツインの部屋取ったのに、勿体無い。
一つのベッドでの窮屈な目覚めに、最初こそ自分を抱きしめて眠る男を投げ飛ばしていた。
でも、その程度で騒ぐのが馬鹿らしい事してるんだよね、私達……。
別に絆された訳じゃ無い。
いや、……絆される訳にいかない。
仮にそういう関係になったとしたら、辛い未来しか無いと、【私】は分かっている。
だって展開を頑張って変えてみても、【白雪姫】を放棄なんて出来ないから。
ラストだけは、変わらない。
『絶対18禁漫画になる世界』とか、『絶対TL漫画になる世界』とか、散々自分で言っていたけれども……どちらにしろ嫌な未来が消えてくれない事に、気が滅入りそうだ。
私の目の前に、戒めの如く時折現れる本。
魔法で取り出してるとかじゃ無い。私は魔法が使えないから。嫌がらせのように、誰かが寄越してくるんだ。
一口だけ齧られた真っ赤なリンゴの絵の表紙に、何度銃弾をブチ込んだ事だろう。
いつも綺麗になって私の目の前に現れるから、余計腹が立つ。
今日はリシャが居るから撃てない。だから、さっさと消えろと……願う事しか出来ない。
「しら……ゆき」
「!」
起きた? まずい、本を見られる……!
私は、あの本を王族にはあまり見られたくなかった。
だから焦ったんだけれども、……振り向いたリシャの目は、穏やかに閉じられている。
起きてない? 寝言?
後身顔を向けると、本は無かった。良かった……。
安堵していたのも束の間。頬に手を添えられて、顔の向きを変えられた。
目が薄く開いて、ぼんやりと私を見ていた。
本、やっぱり見られてたかな? いや、セーフのはず。そうだと思い込んどこう。
私は何も知らない風に口を開いた。
「おはよ━━「お前は、可愛いな」━━ひょ?」
不意打ちすぎて、反応出来なかった。
なんか砂糖吐きそうなセリフが飛んでこなかった? 最中はよく「可愛い」って言ってくるけれど、朝イチ寝起きは初めてだ。
自分の耳か頭がおかしくなったかと思った。
「リシャ……寝ぼけて━━」
「好きだ」
「━━へ?」
つ、追撃??
頬に添えられた手がスルリと。
唇の端に届いて、そのまま下唇の真ん中まで……。
一本の指先が滑った直後……。
「zzz」
あろう事か、この男は二度寝し始めた。
きっと普段なら怒ってた。
はず……だと、思う。
━━ドッ ドッ ドッ ドッ ドッ
し……心臓が、今までで一番うるさい。
これなら寝てくれて、寧ろ良かったかもしれない。
今絶対、真っ赤で変な顔になってるから。
起こさないように、寝顔を覗いてみた。
本当に綺麗な顔。
起きてる時は、冷くて、不遜な色が全開なだし。魔素処理の時なんて……やっぱ止め。余計なエピソードが付いてきて、朝から思い出すには刺激が強い。
瞬間移動の時は予め言われてたから、まだ納得出来る(最後ブチ切れたけど)。でも、他の、大きな魔法を使ってるように見えない時も、その…………激しいんじゃないかと思う。痛く無いよ、うん。全然。でもその、色々しつこくて長くて……気持ち━━何でもない!
私でアレ……今まで誰で処理したかなんて聞きたく無いけど、その子達ちゃんと生きてる? 大丈夫?
その辺りを考え始めたら、頭がクールダウンして来た。
逃亡中だから、隠蔽、追跡遮断、防護結界とか、一つの発動なら普通は処理が要らないくらいの小さな魔法を幾つも発動してると、リシャは言っていた。
実際幾つの魔法を発動してるかは知らないけれど、最低でも3つ……か。
無数のシャボン玉の飛んでいく様子が、脳裏を過った。
思い出されたソレは、10年ほど前の事だ。
とても美しい魔法を目にして、憧れた。
……あの魔法使いは、あの時どれくらい魔力を消費したんだろう?




