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第3話 は? 暗殺はされかけたが、美醜は関係無いぞ

 青みがかった銀の髪がローブから覗いている。切れ長の瞳は冷たいけれど、整った端正な顔立ちで、藍色の瞳と自分の視線が交わった瞬間には……キスされていた。


 ……のでグーパンした。


「ふぐっ!?」


 土手のようになっている芝生の上に倒れ込んだローブの男のマウントを取って、殴る殴る殴る。

 許すまじ。初めてだったんだぞ初めてだったんだぞ!


「姫様〜、姫様ストップでーす」

「何ですの!? 話しかけんなら殺り終わってからにして下さいまし!」

「いや、その人王子様ですよ。殺っちゃったら国際問題です」


 このタイミングで現れる美青年だから薄々そんな気はしてたけど、ビンゴかよ。


「……チッ、王家の権威を傘に着る豚が」

「別にその人がそこ主張した訳じゃ無いですけど……」

「そうだぞ。噂には聞いていたが、とんでもない危険生物な姫だな」


 顔を重点的に潰したのに、一目離しただけで何故ちょっと口元怪我した程度に戻っているんだ。少女漫画か。


「どんな噂か存じませんが、初対面の乙女の唇を無断で奪うド畜生には劣りますわ」


 と、そこで気付く。

 この王子、私と鏡の会話してる所を普通に見聞き出来ていると。


「とりあえず、そこで延びている老人を介抱した方が良いんじゃないか?」

「え? あああ! お爺様!!」


 心臓マッサージの正しい方法はよく知らなかったが、心臓を部分一発ブン殴ってみたら、泡を拭いて目を回していたお爺ちゃんは復活した。

 良い子は絶対に真似するなよ? 絶対だからな。


 尚、お爺ちゃんは王子に目の色を変えたが、何か施しをするどころか馬と馬車まであの局面で救われて逆に施しを受ける側だったため、この後の別れ際、残念そうにしていた。






「それで、()()()()()()()()()()()助けた王子様、一体何が目的ですの?」


 夜。宿泊予定の村の宿屋の一室で問う。

 おい、私が椅子に座ったからって向かいのベッドに横になるんじゃ無ぇ。私そこで寝るんだぞ。


「どこぞの凶暴な姫が単身で乗り込んでうちの国を滅ぼす気でいると聞いてな。便乗しに来た」

「待ってツッコミどころ多い」


『凶暴な姫』って私の事だよな? うん、後でシバこう。

 それで、『うちの国』っつった今? この王子、中央の国の王子なの? アンタこそ何でこんなとこに一人でいるのよ?

 しかも『便乗』? 阻止じゃ無くて良いの??


「簡単に言うと俺は今逃亡中なんだ」

「あ、もしかして性悪の後妻より美しい等という理由で暗殺されかけました?」

「は? 暗殺はされかけたが、美醜は関係無いぞ」


 おかしな物見る目、頂きました〜。流石に男には嫉妬しなかったか。


「あの女王、俺の子種を欲しがってな」

「泥沼!!」

「ああ、厚化粧熟女は嫌だと拒んだら晴れて逃亡の身だ。傑作だろう?」

「断り方ェ……」

「だって俺だぞ。どれだけハイレベルの女を喰ってきたと? 態々カスみたいな年増過ぎを選ぶ訳無いだろう」

「綺麗な顔して言ってる事が最っっっ低でしてよ」


 ゲスかよ。ドン引きだわコイツ……。天は二物を与えずって本当なんだと実感する。


「まあ、悪い事ばかりでも無かったがな。ずっと城と国内しか見て回れなかったが、今回の逃亡で多くの国を見て回れた」

「そんな何年も前から逃亡を?」


 後妻が来たのは、鏡の話じゃ割と最近だったはずだ。


「瞬間移動が使えるおかげで、数ヶ月あれば何処でも行けたぞ」


 羨ましい……。

 私魔法適正ゼロだから、マジで魔法羨ましい。


「だが、流石にそろそろ逃亡生活も飽きてきてな。そしたら、たまたま立ち寄った凶悪兵器が蔓延っている国の姫が面白い計画をしてるじゃないか」


 今、うちの国ディスられなかった?


「良い機会だ。あの女の首を落とし、次は堂々と外遊してやろうと思った次第だ」

「なるほど?」


 ちょいちょい引っ掛かるところはあるが、納得は出来る。

 旅行行くなら、やっぱり思い切り楽しみたいよね。


「そういう訳で、俺はお前の計画に協力する。昼間実際に見たから分かっているだろうが、俺は魔法使いとしてはトップクラスだ」


 ああ、そうね。

 基本的にこの世界、魔力はあっても、魔法を使えない人間がほぼ大半。

 だから物や生物の姿を変えられるシンデレラの魔女や、白雪姫の魔女も、上位クラスって認識になる。

 なら、瞬間移動も出来て、クラーケンを一発で倒せるでかい雷を撃てるコイツは、その更に上って認識でも合ってるだろう。

 用心棒としては、かなり良し。


「お前を守ろう。何に変えても」


 真っ直ぐ見つめて言われた。

 ベッドから起きて、私の方へと寄った王子は、横髪を耳に掛けてくる。

 ……不覚。ちょっとときめいた。


「だから夜は相手を頼むぞ」


 ━━━━ゴッ!!


 だからね、座っていた椅子を掴んで思い切り殴った私は、悪くないと思うんだ。


「お前な……結界魔法を張れない人間だったら、今のは死ぬぞ?」

「平然としてんじゃ無ェ!! 死ね!!」

「一国の姫にあるまじき口の汚さ。……それが素か」

「貞操の危機の前に取り繕ってられるか! この下半身の獣め!」


 もう一発椅子で殴ろうとしたら、今まで静かだった鏡が「姫様ー」と声をかけてくる。だからさぁ……、


「今忙しいから殺り終わってからにして!」

「そうは仰いますが……、大人しく従っておくのが、姫様的には一番ハッピーエンドですよ? しなかったら、ゴブリンかトロルかオークの巣で目が死んだお嫁さんエンドです」


 どういう事!?


「いやもう姫様呪われてるんじゃ無いです? 普通此処まで魔物エンド網羅する女現実にいませんよ」

「だろうよ! 何でそんな凄惨な事になるの!?」


 おいコラ下半身王子! 肩震わせて笑うんじゃ無い!


「まぁ、普通にここでサヨナラして道中で襲われるか、そうじゃ無いなら、その王子様が魔素中毒起こして再起不能になった所を攫われるんでしょうね」


 魔素、中毒? 何かファンタジーでありがちっぽいけど、私の知ってるのとは違う気がするな。

 因みに私が知ってるのは、体に悪い魔力がある所に行った人間が、そこの魔力を大量に吸っちゃって起こす不調だ。


「魔法を使えば、体の中からその分魔力が減るのは分かりますね?」


 うん、そうだね。


「若い魔法使いは、その減ったスペースに魔素が発生するんです」


 あ、嫌な予感がする。


「まぁ、少しくらいならすぐ自然に魔力に変わるんですが、大魔法を使って大量に魔素が発生すると……」


 魔力に変わる前に、体が不調を起こすんだな。しかも自然回復出来ないと見た。


「それでその回復方法が……まぁ夫婦間なら普通の、『夜のゴニョゴニョ』なんですよね」


 夫婦じゃ無いし。濁してるようで濁しきれてない悍ましい事言わんで欲しい。


「しかも高貴な血であればあるほど効率が良いとされてます」


 私、腐っても王族。血統は最高ですね。ははは、ロックオンされる訳だぁ。


「まぁ、私たちの会話を普通に見聞き出来る程の魔法使いが、そこまで大量に魔力を消費するなど普通はあり得ないのですけれど……」


 チラリと、すぐ近くに立つ男を見る鏡に、男は相変わらず涼しい顔をしている。


 何と無く察してたけど、魔力多い魔法使いには私達の会話してるとこ、普通に見えるのね。


「まぁ、頑張って(諦めて)ください」

「えっ、嘘でしょ鏡!?」


 ただの鏡になった私の肩に、ポンと背後から手が置かれた。

 ただの鏡には、絶望顔の私。そしてその後ろに、妖艶に微笑む獣が映っている。さっきまでの、冷たくて少〜し詰まらなそうな、涼しい顔は何処に!?


「安心しろ、避妊魔法は掛ける」


 絶句。気持ち的には血も吐いてるレベル。

 此処はどうやら、絶対18禁同人誌になる世界であると同時に、絶対TL漫画になる世界でもあったらしい。


「待って待って! 私初めてだから!!」

「その顔なら遊び放題だったろうに……」

「そりゃ男に生まれてたら遊んだわ! ちょっ、ひ……ひぎゃああああああああ!!」


 恨みまくるぞ神様ぁぁぁあああ!!




 ***



(三人称)


「全く……」


 朝方だった。

 白雪姫が眠るベッドの側に置かれた椅子に座り、彼は艶のある長い髪を指先に絡めつつ一束掬った。


「男の従者を付けず城を出たと連絡を受けた時は、肝が冷えたぞ」


 静かな愚痴だ。

 夢の中の白雪姫には、当然ながら届かない。


『待って待って! 私初めてだから!!』


 ━━当然だ。そうなるように……守ってきたのだから。


 この世界、実は王侯貴族の閨教育では、男は勿論、婦女子も最後まで教育される。避妊魔法があるからだ。

 だが、白雪にはその教育がされていない。


「余り……隙を見せないでくれ」


 無防備に眠る彼女の黒髪。

 それに口付けを落として請う声は、


「こんなに早く……奪うつもりでは無かった。もっと、大切にしたかった」


 優しくも、低く掠れていた。

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