第2話 荒事お得意でしょう?
「色々おかし過ぎますよね? 普通、自国の姫を単騎で戦争勃発待った無しの敵国に送り出します? 姫様、実はあの城でドチャクソ虐げられてる系ヒロインですか?」
「銃を的確な狙いで乱射する姫を虐げる国があって?」
「ありませんね。あっても既に亡国と化してますね」
万年雪の自国から出て数日。
牧歌的な田園風景を、ヒッチハイクで捕まえた馬車の二台で揺られながら通り過ぎていく。
斜めがけの大きな魔法鞄に黄色いローブ。懐中時計のような鏡(※妖精携帯用)、無地のシャツとスカート姿の今の私は、『中央の国に留学予定で、そこに住む親戚の家へ向かう途中の商家の娘』という設定だ。
着いたらまた別の設定で行動する予定である。
目的地の家には、父の手配した影が別の身分証を置いてくれている。
「お嬢しゃーん? いつもの道に大岩が落ちてしもうて、最短ルートでこの先進めねぇってよぉ? 森側と海側、どっち通って行きたい?」
馬車を操るお爺ちゃんに聞かれた。
体が今にも事切れそうな程プルプルしてるのに、思いやり溢れる親切なご老人だ。
「どっちのが早いですか?」
「どっちも〜、変わらんねぇ?」
「じゃあ森「姫様、お待ちを」
鏡に遮られた。尚、普通の人に鏡の声は聞こえないし、鏡と喋っている時の私には鏡がオートで掛けた幻覚魔法が発動するので、一般人にはその時その時にあった黙り方をする女の子に見えるそうだ。
「森に行ったら集団レイ◯されます」
「サラリとエグい事言いますわね。ていうか何で?」
「実は私には、軽い未来視の能力があるのです」
こいつスペック盛り過ぎじゃ無い? 実は私と同じ転生者だったりしない?
話進まないから今は突っ込まないけど。
「それによると、姫様は森の方へ行くと、何故か7人の小人に出会います」
お……おおう? それってお決まりのアレでは無かろうか? 運命に抗いたい系主人公を苦しめる━━前世のWEB小説の定番『世界の矯正力』!
でも物語の白雪姫では、小人はお助けキャラだ。それなら小人さん達とは仲良くなっておいた方が良いよね。
「姫様はご存知ないのですね? 実はこの大陸では、施しを受けた場合、体で対価を支払わされるのが割と普通なのです」
ん? お金とかじゃ無く、高山で働く肉体労働の事?
「いえ、アレな意味です」
「あれないみ」
「性的な」
「…………は?」
今凄い事言われたぞ?
「実は小人達は、事故を装い姫様を半殺しにしてから治し、恩を着せます。そしてメチャクチャにしやがります」
「待って、信じられない事を言われましたわ。それって貴女の法螺では無くマジですの?」
「はい。姫様はお城で大事守られていましたからご存知無くとも仕方ありません」
え? え? まさか……まさかと思いますけど、此処って……
━━━━絶対18禁同人誌になる世界!?
叫びかけて慌てて口を塞いだ。
マジか……マジなのか? てか城でお義母様の口から普通に『性奴隷』って飛び出したのも、そんな糞ヤバ世界観が影響してる?
え? じゃあ今私達を運んでるこのお爺様も……。
「このお爺様は大丈夫です。私こう見えて相手の性癖を見抜く能力もございまして」
もうお前は何なんだよ……。それ最恐スキルじゃねーか。
「このお爺様は、美青年しか喰いません。寧ろ姫様くらいの美少女は怖くて堪らないようですよ。それなのに運搬してくれてる良いお爺様です。最後にはチップを弾んであげて下さい」
お……おう、せやな。
なんか一癖あったけど、心根は優しいお爺様なんだろう。きっと、多分。
「海行く? 森行く?」
「海で」
数分後、本来沖にいる筈のクラーケンとエンカウントした。
「鏡ィィイイイイ!!」
お前未来視どうしたああああああ!?
「荒事お得意でしょう? お爺様が心臓発作寸前にも関わらず物凄い馬車の技術を披露してくださっていますよ。姫様も頑張りましょう」
そだね! マジバにロケットランチャー詰めてて正解だったわ! 使う場面来んなよと願ってたんだけどな! フラグじゃねーか私の馬鹿野郎!
お爺ちゃん泡吹いてるとこ申し訳ないけどもうちょっと頑張ってね!
てか滅茶苦茶早いのにタコの脚避けるの本当に上手いなお爺ちゃん!
「あ、負けたらタコ脚責めされますので悪しからず」
「もっと速よ言えぇぇえええ!!」
涼しい顔の鏡に喚きながら、私は海の中からしつこく私たちを狙うクラーケンにぶっ放した。
てか白雪姫にクラーケン出てくるとか聞いてない!
……っしゃあ!! 命中!!
「ギュエエエエエエ!!」
あらー? 効いてませんわー。メッチャ怒ってるわー。
「姫様、バッドエンドのようです」
「やだああああああああ!!」
━━━━ドッ!!
それは、色気の欠片も無い悲鳴と、ほぼ同時だった。
青白い閃光。ついで、世界が真っ白に染まる。でもそれは、瞬きするよりも短い短い刹那。
「……へ?」
何が起きたのか、すぐには理解が追いつかなかった。
追いついて気づいたソレは、雷だった。
綺麗な粒子が空に集まるように、或いは逆に、周囲に降り注ぐように━━キラキラ光って見えて……この一瞬は、周囲が星空みたいに見えた。
だから雷が、クラーケン目掛けて落ちたのだと気付くのに、数秒の時間を要した。
━━魔法だ。
私がどれだけ願って学んでも使えなかった魔法だ。
それを認識した瞬間にはザパーンと、クラーケンが倒れた事で波と振動が起こっていて……。
私とお爺ちゃんは、誰かに抱えられて、波が届かない場所に連れて来られていた。




