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誇りと挟持

「終わったか。……ああ、しんどかった!」


 ジェフェリーは緊張の糸が切れ、その場にへたり込む。と同時に、カークが元の姿へと戻り、ジェフェリーの傍らに座った。ジェフェリーは優しく微笑んで、その頭を優しく撫でる。


 普段苦戦する事がほとんどないジェフェリーにとって、ここまで疲弊するのは異例中の異例だったのだ。本当ならもう少しスマートに事を運ぶ事が出来たはずだったのだが、どうにもトラブルが多すぎた。その9割方はチヅルが原因なのだが、情報を隠しすぎた自身にも非はあるので、とりあえず何も言うまいとジェフェリーは心に決める。


「お疲れ様。でもちょっとだらしないわよ。ほら、しっかり立ちなさい」


 チヅルはジェフェリーに近付き、手を差し伸べる。だが、ジェフェリーは首を振って拒否した。


「ちょっとは休ませてくれよ。ほとんど俺1人でこいつを倒したんだぜ?」

「……うん、そうよね。まだちょっとだけ時間もあるし、少し休みましょうか」


 そう言って、チヅルはジェフェリーの側に膝を抱え込む形で腰を降ろす。

 ジェフェリーは思わずチヅルの顔をいぶかしむように見つめてしまった。断った事に対して何かぐちぐちと言われると覚悟していたからだ。


「……何よ?」

「いや、えらく素直だなあ、と」

「だって全部私のせいじゃない。戦いに集中出来なかったり、かと思ったら1人で突っ走ったり。全く、自分が情けなくなるわ……」


 深々と大きく溜息をつき、チヅルは顔を伏せてしまう。

 ジェフェリーにはチヅルを慰めるような言葉が出てこなかった。だが代わりにもう一度、地平線を見つめながら、あの問いを投げかける。


「なあ。スーヤはお前に、一体なんて言ったんだ?」


 チヅルは答えない。顔を隠すように下を向いたまま、微動だにしなかった。ジェフェリーは小さく息をつくと、意味も無くそのまま遥か地平の先を見続ける。

 そのまま制限時間まで続くと思われた矢先、ぽつりとチヅルの声が聞こえた。


「ねえ。あんたは何でロストブックに潜るの?」

「金のためだ。今はそれ以外に理由は無い」


 迷う事無く、即答でジェフェリーは答える。

 自分がブックダイバーになった事で、1人の人生を決めてしまった。だからジェフェリーには、それを叶えさせる義務がある。どんな事をしてでも。それなのに、


「……フ、どうしたの?」


 チヅルの声で我に返る。気が付けば、自分の前髪を掴み、引き千切らんばかりに力を込めていた。慌てて手を離すと、何事も無かったようにへらっとした軽い笑いを作った。


「悪い。ちょっと疲れが出ちまってたみたいだ。で、何で俺にそんな事を聞くんだ?」

「スーはね、もうロストブックには潜りたくないんだって言ったの。他の世界へ勝手に入り込んで、暴れて、傷つけて。まるで押し入り強盗みたいだって。私、何も言えなかった。スーの言ってる事は正しい。私達が生活や技術発展のためだと正当化していようと、根本にあるそれはどうやったって否定できないもの。今回もその事がずっと頭から離れなくて。本当に、ごめんなさい」

「……なるほどな」


 チヅルの告白を聞いて、ようやくジェフェリーは納得できた。

 自分が誇りを持ってやってきた仕事を子に否定された。そのショックは相当なものだったろう。しかも、すぐにスーヤは浮遊岩へ消えてしまった。これでは寝込むなと言う方が無理だ。むしろ、たった3日間でよく立ち直れたものだと感心するべきだろう。


「ジェフ。私ね、スーを取り戻したら、ブックダイバーを辞めるわ。ううん、それだけじゃない。トリガー技師も引退する」

「な、本気か!?」

「ええ。だってスーに胸を張れる仕事がしたいもの。そうね、イーヴリンと一緒に空の向こうを目指してみようかしら。今回の件であの娘には本当に迷惑をかけたし。ジェフ、あんたはどうするの? このままダイバーを続けていたら、スーに嫌われちゃうかもよ?」


 少しおどけた口調で、チヅルが話を振ってきた。スーヤがブックダイバーを嫌っているなら、ジェフェリーも辞めて別の道を探すのも悪くは無いかもしれない。

 しかし、


「駄目だ。俺にはどうしても金がいる。こんな仕事じゃないと、とても補いきれないんだ」

「スーに嫌われても?」

「嫌われてもだ」


 頑として意思は曲げない。誰が何と言おうと、何と思われようと。これだけはやり遂げなければならないから。


「分かっちゃいたけど、あんたも相当頑固ね」

「頑固結構。男は強い意志を秘めてこそ、良い男になるんだぜ?」

「バーカ。あんたみたいな軽い男、全然良い男じゃないわよ……っと、そろそろ時間かな」


 チヅルがロブグローブを覗く。ジェフェリーも確認してみると、もう残り時間は5分を切っていた。


「だな。それはそうとチヅル、お前のハンマーは探さなくていいのか?」

「あ! 忘れてた!」


 チヅルは慌てて立ち上がると、トリピングの周囲を血眼で探し出した。そしてしばらくすると、黒焦げになったハンマーを引き摺って、ジェフェリーの所に戻ってきた。


「あはははは! これはまた良い色に焼けたもんだ」

「……いいわよ。戻って直せば元通りになるんだから」


 そう言いながらも、チヅルは深く深く溜息をつく。大分ショックだったのだろう。


「まあ見つかってなによりだ。チヅル、そいつからモジュールを取り出してくれ」

「え、何で私が?」

「ほとんど何も出来なかったチヅルに、最後に花を持たせてやるって言ってんのさ」

「ぶん殴りたくなるほど嫌みったらしく言うわね。……分かったわよ」


 チヅルは諦めて、ロブグローブをはめた右手を、音も立てずにトリピングの中へと入れる。微妙な表情でしばらく中をまさぐっていたが、ぴくっと眉が動き、腕を中から抜き出した。

 その掌が握っていたものは、ゲル状の深緑をした物質だった。


「げ、何よこれ!」


 チヅルは思わずそれを遠くへと放り投げてしまう。だがそれが地に着くよりも早く、カークがそれを空中で咥えて、またこちらへ持ってきた。


「おいおい、あんまり粗末に扱うなよ。それが、トリピングを覆っていたあの粘液を作り出すモジュールさ」

「どうやってこんなもん使うのよ。固形ですら無いじゃない……」

「そんなの俺が知るかよ。そこはチヅルのアイデア次第だろ? さて、目的の物も手に入れた事だし帰ろうぜ」

「明日からの事を思うと頭が痛いわ……」


 げんなりとしているチヅルを見て楽しそうに笑い、ジェフェリーは立ち上がる。


「ジェフ」

「ん?」

「ありがとう」

「……本当にらしくねえよ。今日のお前」


 2人はロブグローブのコンソールを操作した。すぐに青い光は現れ2人を包み込む。数瞬後、2人は元の世界へと帰っていった。

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