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揺れる心

 倉庫で作業をしていたイーヴリンが、扉の開く音に反応して振り向く。そこには帰ってきたアレックスが立っていた。


「あ、帰ってきたんだね」

「必要なものは詰め込めるだけ詰め込んできた。微妙に足りないものもあるが流石に持てなくてな。まあ、しばらくはこれで大丈夫だろう。後はまた、ジェフにでも取りに行かせるさ」


 そう言って、アレックスは山のように膨らんだリュックサックを背負い直す。中から、ガシャンという金属音が聞こえた。


「ちなみにこれが例のモジュールだ。こいつは内部に強大な炎の力を溜め込んでいる。うまく引き出して制御出来れば、十分な推力を確保する事が可能な筈だ」


 アレックスが懐から緋色に燃える珠を取り出し、イーヴリンに見せる。これは1年前、アレックスが単身で潜ったロストブックで手に入れたモジュールだった。リフレクトブロウで対処しにくい相手と戦う時のサブ武器として開発していたが、結局実戦では1度も使用していない。


「あとこれを見てくれ」


 アレックスは、ポケットから紙束を取り出してイーヴリンに手渡す。


「これは?」

「エンジンの改良案だ。行きと帰りの列車で考えてきた。ちょっと目を通してもらえるか?」


 イーヴリンは渡された紙を、隅々まで読んでいく。

 イーヴリンは内心で驚嘆した。そこには元のエンジンの良い所を生かし、元の設計段階でネックとなっていた箇所を改修した設計図が描かれていたからだ。イーヴリンは改めて、アレックスの知識とひらめきに感心した。


「これは……すごいな。ただ、」

「ただ?」

「ここ。モジュールの力を伝える伝達部分が、他の機構に邪魔されてる。このままだと1割弱はエネルギーが無駄になるよ。だから、このラジエータの位置を調節して……」


 イーヴリンは胸のポケットに挿していたペンを取り出すと、話しながら設計図に新しく走り書きで書き込んでいく。


「ほら。これでスマートになった。この形なら無駄なく伝わるはずだよ」


 自信満々でイーヴリンは修正した設計図をアレックスに渡す。アレックスはそれを見ると軽く唸った。


「なるほど、見事だ」

「でしょ」

「ああ、これでいこう。やはり設計は1人だけでは駄目だな。これで良いという先入観がどうしても邪魔をする」

「うん、そうだよね。僕も問題には気付いていたけど、これといった解決方法が見付からなかったんだ。あのまま僕1人で作っていたら、きっと失敗に終わっていたと思う。君達が来てくれて、本当に良かったと思うよ。ありがとう」


 長身のアレックスを見上げる形で、イーヴリンはお礼の言葉を口にする。だが、アレックスは首を横に振った。


「いや、俺達の我侭で付き合せてしまったんだ。感謝しているのは、むしろこちらだよ。……だが1つ聞かせてくれないか? なぜ俺達に協力する気になったんだ?」

「そ、それは、君達があまりにも真剣だったから……」


 不意の質問に平静を装うとしたが見事に失敗し、どぎまぎした形で返してしまった。あからさまな態度で、アレックスにはそれが嘘だと見抜かれてしまったようだ。


「それが理由だとしても、恋敵を助けるんだ。聞かされた翌日に、打って変わって平静でいられる訳が無い」

「いや、その、恋敵って……!」

「好きなんだろう? ジェフの事が。態度を見ていれば誰だって分かるさ。例えば今日の朝、君がジェフに口を聞いてもらえなかった時に、思わず女言葉が出ていた、とかな」

「……うん、そうだよ。僕はジェフの事が好き。はは、やっぱバレバレだったよね」


 アレックスには誤魔化しきれない。観念して、イーヴリンはそれが事実であると告白する。


「結局、あの後に何があったのか。良ければ聞かせてもらえないか? どうしても言いたくないなら、それでも……」

「別に何にも無いよ。誰にも聞こえないよう声を押し殺して泣いて、どうしようか一生懸命考えてただけ。最初は断ろうと思ったんだ。夜が明けるぎりぎりまで。でも、ぎっちゃった。本当に見捨てていいのかって。ジェフがその娘の事を好きだって聞いたのに、見殺しにしたら僕、きっと自分が嫌いになる。ジェフとも向かい合って話せなくなる。だから、そんな事をするぐらいなら正々堂々と戦いたい。結局、自分の嫉妬が嫌で、気持ちを押し殺しただけなんだ」


 堰を切ったように流れ出すイーヴリンの独白を、アレックスは黙って聞いてくれていた。

 最後にイーヴリンはアレックスに笑いかけようとしたが、その瞬間に堪え切れなくなった涙が溢れ出す。思わずイーヴリンはつなぎの袖で押さえるが、一度流れた涙はもう止まらない。


「ごめん、なさい。きっと、すぐ、にとま、るから」


 声を詰まらせながらイーヴリンはアレックスに謝る。情け無い姿を他人に見せている。そんなイーヴリンの心中は、気恥ずかしさで一杯だった。

 アレックスはそんな様子を少しだけ見ていたが、踵を返して歩き始めた。


「……問い詰める真似をしてすまなかった。俺は少し外に出て行く。それと、詫びに1つ朗報だ」


 朗報という言葉に、イーヴリンは目を覆っていた袖を少しだけ下ろす。そこには出ていこうと出口の扉に手をかける、アレックスの後姿が映っていた。


「スーはおそらく、ジェフに恋愛感情は抱いていない。だから諦めるな、イーヴリン。君ならきっと、ジェフを振り向かせられる」


 そう言い残し、アレックスは倉庫を後にした。

 イーヴリンはその場にしゃがみこみ、声を上げずにただ泣き続ける。その涙が切なさから出るものなのか、それとも安心した嬉し涙なのか。それは、イーヴリン自身にも分からなかった。

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