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序章

 ここはどことも知れぬ世界の1つ。鬱蒼と生い茂る原生林が大地を包み込み、咽返るほどの青臭い匂いが溢れていた。

 時折、耳障りな甲高い鳴き声が聞こえる。笑い声にも似たそれは、まるで聞く者を嘲っているようだ。


 そんな森林の中に、ぽっかりと火口が開いた山が1つ。赤茶けた地面がむき出しで、草木1本生えていない。火口は堆積した土によって埋まり、平たい大地を作り出していた。

 その中心から、腹の底まで響く音と共に火柱が上がる。火柱は高々と燃え盛った後、空中で霧散して消える。火柱によって出来たもうもうと上がる煙の中から、2つの影が現れた。


「なるほど、間違いないようだ」


 1つは人間だった。髪は銀髪。長さはこざっぱりと切りそろえられている。顔付きは端整だが、どこか荒々しい。目を細めて相手を強く見据える表情が、そんな印象を感じさせるのだろう。


 もう1つは人間と比べると非常に大きい。上背は無いものの、這った姿は人のおよそ10倍以上の大きさがあるだろう。全身は赤黒く、テラテラとしたぬめりを帯びていた。顔面は蜂のような複眼を持ち、光の反射で怪しく光る。その下には顔の半分まで裂けた口が開いていた。


 蜥蜴に似た不気味な生物は、左前足を大きく上げ地面へと叩きつける。するとそこから、轟々と猛る火柱が男へ向かって襲いかかった。

 だが男は冷静に射線軸から体をずらし、紙一重のところで火柱をかわす。


「そんなものは当たらんぞ。さあ、向かってこい」


 挑発的に、蜥蜴もどきへ掌を上に向けて突き出し、指先を自分の方へ曲げる。

 相手は男がした行為の意味など分からなかっただろう。しかし、このままでは埒が明かないと判断したのか、地響きを上げて男の方へと突進してきた。


 まともにぶつかり合って勝てるはずがない。質量が違いすぎて、跳ね飛ばされるのがオチだ。だが男は逃げない。むしろありがたいとでも言うように、右足を引いて蜥蜴もどきを迎え撃つ体勢を取る。


「そうだ、それでいい」


 圧倒的な重量感と速度で距離が近付いていき、ついに目の前まで踏み込まれた。蜥蜴もどきの踏み込んだ大地が割れ、その全体重を頭から男へと激突させる。


「こいつで……吹き飛べ!」


 男が拳をぎりぎりと握り締める。突進が自分の元へ届くぎりぎりのタイミング。その一瞬を狙って、右拳を蜥蜴もどきの鼻先へ叩き込んだ。

 大木が薙ぎ倒されるような軋む音。通常なら男の右腕が折れ曲がる音だったそれは、蜥蜴もどきの顔を文字通り凹ませた音だった。


 軽々と蜥蜴もどきの体が地面を離れ、地表スレスレを飛んでいく。そして一度地面に接触すると、3回4回と全身が跳ね上がり、火口の淵まで来てようやく動きを停止させた。

 ぴくぴくと失神する蜥蜴もどきの元へ男が近付く。そして左手を蜥蜴もどきの左前足へ触れさせた。左手は融合するように前足へと入り込み、そこから何かを引きずり出した。


 それは真っ赤に燃え輝く、掌に収まるほどの大きさの珠だった。男は満足そうに頷くと、大切そうに背負っていたサックへと入れる。

その時、男の左手に付けられているグローブから電子音が鳴り響いた。


「む、時間か」


 グローブについているコンソールを操作する。すると、男の周囲を青い光が取り囲み、たちどころに男の姿が消えてしまった。

 後に残ったのは、未だ伸びたままの蜥蜴もどきのみ。男は完全に、この世界からその存在を消した。

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