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第二話『決意』

 避難所に居ない生徒が二人も出れば、先生も気が気じゃないでしょう。でも心配いりません。良い感じにごまかしてくれるはずです。それが先生の仕事なのですから。



 遠くでサイレンの音が聞こえる。警戒状態が解かれ、街の消火活動が始まったのだろう。星野は今なら救急車を呼べるはずだと確信した。

「それ、返してくれない?」

 如月は星野が持っていた星剣レオを指差す。ディスプレイに映ったドットの目が嫌そうにしている。星野は言われた通りに如月にその剣の柄を手渡した。

「レオ、お願い」

『まったく。お前の親父さんに感謝するんだな』

 すると、突然視界が白く染まる。あまりの眩しさに星野は目を瞑る。形容し難い音と共に身体が一瞬だけ宙に浮き、足が地面をとらえた。

 恐る恐る目を開けると、まず飛び込んできたのは大きなモニター。何も映っていない。部屋には照明が無いのか薄暗い。モニターの向こうには、まるで水族館のメイン水槽のような巨大な窓。そこから漏れ出るような光が僅かに部屋を照らしている。側にある小さなサブモニターには何かの数値やグラフが表示されていた。何を表しているのかは星野には見当も付かなかった。

 それらを眺めていると、如月は星野から離れ、ふらふらとした足取りで中央の椅子に向かって歩いていった。まるで船の指揮官が座るような大きな椅子だ。そこで星野はようやく、ここがブリッジのような建て付けになっている事を理解する。他に誰も居ないので気付けなかったのだ。

「……アテナ」

 如月は椅子に腰を下ろすなりモニターに向かって声をかけた。すると、その声に反応するようにモニターに光が点り、空調系が動き出す音がした。

『おかえりなさいませ、マスター』

 そして、モニターに映し出された丸いモヤモヤから声がする。周りを見ていた星野は驚いてモニターの方に視線を移すが、誰も見つけることはできなかった。そんな星野に目もくれず、如月は椅子に備え付けられているドリンクホルダーからストロー付きのタンブラーを取り出した。

「治療ポッドの準備をお願い。それから被害状況をまとめて、修繕費用を見積もって頂戴」

『かしこまりました。……ところで、そちらのご友人はいかがいたしましょうか』

「適当に構ってあげて。……星野くん」

「はい⁉︎」

「……まずはアテナと話をしてみて。細かいことは後で」

 如月はストローで中身を吸い出すと、ドリンクホルダーにタンブラーを戻して立ち上がる。星野は何か言いかけたが如月は目もくれず、蹌踉めきながら扉の向こうへ消えてしまった。

 残された星野は光るモニターを改めて見てみる事にした。そこには青いモヤモヤが映し出されている。「えっと……」どう話しかけるか星野は迷っていた。

『私は支援AIのアテナと申します。アテナと気軽に呼んでください。まずは、ようこそと言っておきましょうか、マスターのご友人』

「ああ、うん。ありがとう? で、良いのかな」

『お礼を言うのは私の方です、ご友人。マスターはこれまで、ご友人をここへ連れてくることはありませんでしたから』

「それって……どういう?」

『ここは天体観測用人工衛星基地・スターゲイザー。今は星剣を保管、管理する作戦基地となっています。つまり、あなたは星剣の使い手としてマスターと星剣に選ばれた初めての人だということです』



 一方、如月は足を引き摺りながら白い廊下を歩いていた。青く明滅するプレートに従って自動ドアを抜けるとそこには数台、人が入れるほど大きな丸い装置が置かれていた。そのうちの一台が待機状態に入っており、口を開けて待っている。

 如月は靴を脱ぎ、靴下を足から抜くと靴の中へ刺し、制服を脱ぎ捨てて下着姿となった。ボロボロで血濡れた制服はもう使えないだろう。布切れとなったそれを一瞥すると如月は、残ったグレーのスポーツブラとショーツも脱ぎ去る。一糸纏わぬ姿となった如月はポッドの水槽に足を入れる。ちょうど湯船に入る動作に近い。フックにかかっている吸気マスクを着けると、ポッドがそれを感知して、ポッドの蓋が閉まる。そして中をほんのり温かい液体が満たしていく。それに包まれながら如月は朦朧としてくる意識の中で、母のお腹の中の胎児もこんな感じなのだろうかと想像する。水中に浮いた如月は膝を抱え、水泡を眺めながらゆっくりと目を閉じた。



「アテナ、その」

『なんでしょう、ご友人』

「実は僕はまだ何も知らなくて。星剣ってなんなの? どうして剣から声がしたの? 作戦って何? そもそも……」一度口にした疑問が呼び水となり、溢れ出るように口が疑問を紡いでいく。だがそれは、ひとつの質問に帰結していた。「……如月さんって、何者なの?」

 アテナは一呼吸置いてこう答えた。『であれば、改めてマスターについてお教えしましょう。私が支援AIとして命を受けてからの話にはなりますが』

「構わないよ」

『ではまずは、災害と呼ばれているモノについて、お話しする事にしましょう』

 災害。この国では自然災害はありふれたものではあるが、ここ数年で最もメジャーとなり、歴史上最も凶悪と言わせた新たな災害がある。それが"剣雨"と呼ばれる災害だ。文字通り、空から剣が降ってくる災害。局所的に発生し、それは何も無い空から突然降ってくる。

 そして最近の研究では、その剣は地球外生命体、すなわち宇宙人の一種であると言う説が有力とされている。

『……その根拠のひとつが"刃禺"と言う怪物の存在です。彼らは未知の鉱石の鎧を身に纏い、破壊行為を繰り返します。その存在が世に認知されたのは3年ほど前と言われています』

「待って。バグ? それがあの怪物たちの名前なの?」

『はい。剣によって生み出された人形。基になっているのは地上を漂う亡霊だと考えられています。空から降る剣……"刃異人"と呼んでいますが、彼らは人間の持つ魂に干渉する力を持っています。その力を行使して肉体を得ているのです』

「えっと……今のは、剣が地球外生命体であることを認めたって事であってる?」

『肯定。刃異人は刃を持った異星人という意味です。彼らは独自の言語を持ち、文明もあります』

「……信じられない。いや、そもそもどうしてそう言い切れるの?」

『もちろん、刃異人を生み出したのがマスターの母、如月恵であるからです』

「……っ!?」

『ここで最初の質問にお答えしましょう。星剣とは刃異人を基に作製された、刃異人と戦うための武器なのです。つまり星剣は生きているので声がしますし、意思の疎通が可能です』

「ちょっと待って」

『作戦というのは、星剣を用いて秘密裏に刃禺を処理するものです。ご存知かもしれませんが、星剣以外で刃禺に対抗する事はできませんので』

「ちょっと待ってって!」

『待ちません。マスター、如月白刃の正体。それはつまり、星剣の管理と地球の防衛を任された、ただひとりの少女なのです』



 如月白刃は夢を見た。

 母の背中を最後に見た日の事だ。白い光の中へ進もうとする母へ必死に手を伸ばしていた。父が背中から抱き留めていたために追いかけることもできずに。

 白衣を身にまとい、一振りの剣を握りしめて、母は光の中へ消える直前に振り返った。優しい笑みを浮かべていたのをはっきりと覚えている。同時に、もう二度とこの笑顔を見られないだろうという予感がしたことも。

 何を叫んでいたのかはもう覚えていない。きっとまともな言葉になっていなかっただろう。ただその時の胸が張り裂けそうなほどの感情は嫌でも覚えている。

「……お母さん」

 つぶやくと同時にタイマーのアラームが作動し、水位が下がっていく。膝を抱えてうずくまる形で目が覚めた如月は、乾燥用の温風を感じながら、吸気用マスクを外した。そして垂れ下がった髪を上げようと手を顔の前にやると、水が数滴その上に落ちて、動きが止まる。

 視界がぼやける。手のひらで水をぬぐってみるが、後から後から水が出てきて止まらない。如月はそのまま顔を手で覆い、しゃがんだまま再び目を閉じた。何故、体の傷はいくらでも癒せるのに、この傷は痛んだままなのだろう。如月は問いかけてみるが、答える者は居なかった。



 星野は黙り込んでいた。新たな情報を与えられ過ぎて、それをかみ砕くのに時間がかかっているのだ。なにせ世界で話題になっている怪物の正体が地球外生命体だなんて急に言われたのだから、混乱するのも無理はない。そのうえ、謎の転校生の正体は地球の運命を背負った戦士だと言われ、しかも声のする剣を持ったら変身できるなんて、あまりにも現実味がない。

『兄ちゃん、こっちに来てくれ』

 また声がする。星野はいよいよ自分の耳を疑おうとしたが、間違いなくあの時に聞いた声と同じだったので、気のせいという線は消えてしまった。声のする方を見ると、如月が席に座った時に置きっぱなしにしたのだろう、剣の柄が転がっていた。

 それを拾い上げてみる。相変わらず小さなディスプレイにはドットの目が映っている。知らない人が見てもこれが剣だとは思わないだろう。そしてこれが生きているとも。

『兄ちゃん、まずは礼を言わせてくれ。ありがとな。あんちゃんが居なかったら、オレたちはマジで危なかった』

「良いんだよ。……それよりも、あの時のアレ。何がどうなってるのか教えてくれない?」

『ああ、アレな……。どう説明したもんか』

 レオは言い淀む。アレとはもちろん、星野が変身した白い鎧の剣士のことだ。スターブレイダーとあの時にレオが命名したが、アレの原理も何も未知のものであった。

「そう言えば、あの時僕に“良いモノ”がどうのって言ってなかった?」

『いや、それは言葉の綾的なやつだから気にすんな』

 意外だった。星野はこの異生物も冗談を言うのだとむしろ感心するほどだった。だがそうなると、素直にレオの口から情報が出るのを待った方が良いだろうと星野は判断して、口を閉じて次の言葉を待つことにした。

『さっきアテナのやつも言ってたが、オレ様も一応、刃異人というカテゴリーに居るわけだ。つまりオレ様にも刃異人と似た能力……魂に干渉する力がある。だから、あんちゃんの魂……力を少し借りて、あの鎧を顕現させたってわけだ』

「うん……全然分かんないや」

『聞いてたのか? 刃異人の能力で亡霊と合体して鎧を纏ったのが刃禺で、あんちゃんと合体したのがスターブレイダーって事だぜ』

「うん、まぁ……それはなんとなく、分かったかな」

『はっきりしねぇなぁ。そんなんじゃ、シラハの奴に見捨てられちまうぜ?』

「そうかなぁ? 僕は見捨てないけど」

『そういうとこだぜ、ほんと……』

 星野はそこでようやく如月の事を思い出し、先ほどの話で気になった事をアテナに聞いてみることにした。

「そうだ、アテナ」

『はい』

「如月さんだけど……さっき、地球の防衛を“任された”って言ったよね? じゃあ誰かが如月さんにその任務を任せたってことだよね? それって誰なの?」

『そうですね。ちょうど良い映像があるのでそれをお見せしましょう』

 アテナがそう言うと画面が暗転し、何かが徐々に映し出されてきた。男の人が映っている。薄暗い部屋の中のようだが場所は何処か分からない。ただ彼の後ろが騒がしいことは分かる。警報が鳴り続けている。時折聞こえるのは銃声だろうか。叫び声も聞こえる。

『……白刃。もしこれを聞いているのなら、父さんはもう、この地球上には居ないだろう。ゲートは開かれてしまった。これから行かなくちゃいけない』

 男の人が話し始めた。自身を”父さん”と呼ぶその人は、間違いなく如月の父だと星野は確信した。そう思って男の姿を見ると、どことなく如月の面影を感じる。

『これから過去最大規模の災害が訪れる。……もう見てきたかもしれないが、街は刃異人と刃禺で溢れ崩壊するだろう。レオを持ったお前なら必ず抵抗しようとするだろうが、きっと生き残り、このメッセージを見つけるはずだ。混乱するのも無理はない。嫌な思いもさせるだろう』

 男の後ろの半開きの扉からマズルフラッシュが漏れている。銃声と悲鳴が重なり、それが止む。脅威はそこまで近づいてきているようだ。

『だが恨まれたとしても、父さんたちはもうお前に任せるしかないんだ。……お前にレオを託し戦闘技術を学ばせたのは、決して自己防衛のためだけではない。レオ……星剣たちは、この地球を守るための最後の切り札であり、唯一の対抗手段だ。白刃、お前と共に戦ってくれる仲間を見つけ、この世界の希望となれ』

 ドアが蹴破られる。あの丘で見た刃禺とそっくりの怪物が姿を現す。襲い掛かられるのも秒読みだ。星野は思わず拳を握り、唾を飲み込んだ。

『お前に残りの星剣とこの使命を託す。お前なら必ずやり遂げられる』

 そこまで言うとカメラに背を向けて、男は懐から一振りの剣を取り出した。あの刃の輝きはレオのものと似ていると星野は感じた。

『……白刃、お前はオレ達の誇りだ。愛してる』

 背を向け、半分だけ振り返って男がそう言うと、映像は暗転した。この後どうなったのかは想像もしたくない。星野は暗くなった画面を見つめた。

「大人ってズルいと思わない? こう言われちゃったら、やるしかないじゃない」

「き、如月さん⁉︎ い、いつの間に……」

 声のする方に振り返ると、自動ドアの近くに如月が腕を組んで立っていた。着替えたのか、新しい制服を身に着けていた。

「それで、あなたの考えは変わった? 世界でこの秘密を知っているのは私とあなただけ。私から提示する条件は、私と共に秘密を抱えたまま世界のために戦うこと」

「条件って、何の?」

「もちろん、あなたをここから生きて帰すための条件よ」

 瞬間、どこからともなく剣が現れ、如月の周りの地面に突き刺さった。総勢10本の様々な形をした剣が如月を囲っている。臨戦態勢、という言葉がふさわしいだろう。星野は思わず半歩引いて、その只ならぬ雰囲気に緊張の糸を張り巡らせた。

「……災厄とも呼べる災害の預言者、如月仁はあの夜……”流星の夜”に突然姿を消した。……あの人の預言で手配された地下シェルターは見事に人類を守り、またも歴史に名を遺そうとしていた。けれど、その行動の不自然さを指摘する人は少なくなかった。本人が消えた今、真相を話せるのは私とあなただけ。そしてこの真相は絶対に世間に公表するわけにはいかないの」

「どうして? 如月さんは言わば、世界を守るヒーローじゃないか。何も隠すことは無いと思うけど」

「現実はそうじゃない。私はただ、両親の失敗の責任を果たしているだけ。想像してみて。人類を脅かす謎の生物が、自分の両親が生み出したものだと周りに知れたらどうなるか」

「……世界中のバッシングを受けることになる」

「責任というのは誰かが負わなくちゃいけないものなのよ。でも自然災害という認識の今なら、その責任を誰かに押し付ける必要は無くなる。……誰かを一斉に非難することが本当に平和だと思う? 言われなくても、やるべきことはやるし、負うべき責任は全うする。この状態を維持するためなの。分かって」

 非効率。星野の頭にまず浮かんだ言葉はそれだった。すべてを話して世界中に協力を仰ぐのが最も手早く事を進められると星野は考えた。だが、ただの高校生がこの事実を話したとして、大勢の人を動かせるだろうか? むしろ、誰かがこれを利用して悪事を企てるかもしれない。それで如月さんの居場所が取って代わられたら、いったい誰がこの世界を守れると言うのだろうか。

「……真実を伝えることだけが正しいことじゃない。自分を守るために人間は嘘をついたり隠し事をしたりできるのよ。それでも、あなたの正義が許さないと言うのなら———」

「分かった。協力する」

「———え? 何?」

「……如月さんってやっぱりすごいや。僕には考えられないことまでしっかり考えているんだね」

 如月は戸惑いを隠しきれていなかった。今、世界で最も話題になっている謎の真相を知ったというのに、その秘密を守ると星野が言ったからだ。星野は正義感が強いタイプだと今日の行動を振り返って分析していた如月は、その星野が隠し事を許せる人ではないと考えていた。不用意に他人を巻き込むことがデメリットにしかならないこのプロジェクトにおいて、事故とは言え巻き込んでしまった星野はそれ故にリスクになり得る。だから最悪の場合は———

「……本当に、秘密を守るって約束してくれるの?」

「もちろん。むしろ、協力しない理由がないよ」

 星野は優しく笑って笑顔を如月に見せた。まったく嘘をついている感じではない。心から笑っている。これだけ敵意を向けたというのに。

「良かったら、僕にもその責任を背負わせてくれないかな。ひとりよりもふたりの方が、絶対にうまくいくと思うんだ」

 ためらわずに星野は手を如月に差し出した。如月はそれを見て完全に戦意を失い、それに気づいた星剣たちは虚空へ消えていく。そして目を見開いたままの如月がひとり残された。そのまま膝をついて、目からぼろぼろと大粒の涙を零した。驚いた星野は慌てて如月のもとに駆け寄り、体を支えた。

「ごめんなさい……私、本当はどうしたら良いのか分からなくて」

「……うん」

「あなたに助けてもらったのに、あなたを試すような真似をして……本当にごめんなさい」

「良いんだよ。それは如月さんがそれだけ真剣に考えていたって事なんだから。だから謝る必要なんてない。それに———」

 星野が言うのをやめるので、如月は思わず顔をあげて星野の方を見た。星野は一瞬驚いたようだが、すぐに笑顔に戻った。

「———それに、僕の考えは最初から何も変わってない。キミを助けたい。助けになってあげたい。キミと出会ってからずっとそう思っていたんだ」

 如月はいよいよ堪えられず、星野の胸の中へ飛び込んで、小さな子供のように泣いた。星野はどうすればいいのか分からずに戸惑っていたが、自然と如月の背中を優しくさすっていた。



「……ごめんなさい。取り乱して」

 数分後、泣き止んだ如月は気まずそうに床で膝を抱えていた。人前で泣くなんて何年ぶりだろうかと如月はぼんやりと考えていたが、派手に泣いた事実が思い返されるだけだった。余計に恥ずかしくなってしまった如月はいよいよ顔も伏せてしまった。

「良いんだ。泣けるときに泣いた方が良いって、先生も言ってたし」

「そういうものなの?」

「うん、多分……」

「何よ、ハッキリしないわね」

 レオと同じことを言われてしまい、星野は困ったように笑っていた。それを見ていると如月は恥ずかしさもどこかへ行ってしまい、つられて笑顔をこぼした。

「まぁ良いわ。じゃあ明日からよろしく。もう遅い時間だし、送るわ」

「ありがとう。お言葉に甘えようかな」

 もちろん、星野はこの人工衛星から出る方法を知らない。最初から如月に頼る他無いのだ。それに気付いたのは、白い光に包まれて地上に再び降り立った時だった。

 外はすっかり暗くなっており、ボヤ騒ぎで騒がしい街が遠くで明るく光っているのが目立っている。そのせいか、空の星はほとんど見えない。

「家どの辺なの? 親御さんにも挨拶しとかないと」

「家は……ああ、親は今、海外に行ってて居ないんだ」

「あら、そうなの?」

「うん。まぁたまに帰ってくるくらいだけど」

「なら、時間を気にせず刃禺退治に専念できるわね」

「あはは……お手柔らかに」




「ただいま」

 と言っても、誰も迎えてくれる人はいない。この混乱の時代に子供を一人残して消えるような親だ。星野はまったく返事を期待していなかった。後ろ手で鍵を閉めて電気を点ける。

『おう、お帰り』

「え?」

 カバンから声が聞こえた。もう聞き慣れてしまった声だ。まさかと思って星野はカバンを開けると、そこに不自然な棒が突き刺さっていた。間違いなくあの星剣レオだ。

『シャバの空気は最高だなぁ! ……おいおい、何シケた顔してんだよ。そんなにオレ様と居んのが不満かよ、ええ?』

「あぁいや、違うんだ。予想外過ぎて反応が遅れたと言うか、あまりにも意外だったと言うか、ただ慣れてないと言うか」

『はっきりしねぇなぁ! ま、細かいことは気にすんな!』

「でも……」

『心配すんなって。シラハには他の星剣がついてる。あいつからの信頼の証って事で素直に受け取っとけって。な?』

「……信頼」

 呟いて星野は改めて星剣レオを手に取って眺めてみる。これがあればあの人工衛星にも行けてしまう。そもそも、剣が喋るなんて事実が明るみになれば、また世界を騒がせてしまう。つまり、それだけ重要な秘密を如月は星野に託したということだ。

「こう言うのは変かも知れないけどさ。なんだか良いよね、こういうの。ワクワクしてきたよ」

『へっ、そう来なきゃな。これからよろしくな、ハジメ!』

「うん。……って、僕、名乗ってたっけ?」

『シラハに自己紹介してたろ? オレ様はちゃんと聞いてたぜ』

「え……まさか、今日一日ずっと?」

『あー……いや、気にすんな。オレ様は居ないものだと思って過ごしてくれりゃあ良い。危ない時以外は声出したりなんてしねぇよ』

「……まぁ、良いけど」

 恥ずかしがる必要は無いと星野は思い直した。やましい事は何も無かったのだから。とは言え、盗み聞きされていた事実はあまり気持ちの良いものでは無い。

『それに、普段はずっと寝てるしよ。必要な時は起こしてくれればそれで良いんだ』

「あれ、そうなの?」

『……ずっと一緒ってのが人間にとって苦痛になる瞬間もあるってのは理解してる。共生していくための知恵って事で納得してくれや。な?』

 これも星野にとって意外だった。“調整された”とは聞いていたが、ここまでしっかり教育されているとは星野は思っていなかったのだ。さすがは如月さんだと星野は頷き、一旦全てを受け入れる事に決めた。

「分かった。これからよろしくね、レオ」

『おう。一緒に世界を救おうぜ』




 お読みいただきありがとうございました。

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 感想、コメントもお待ちしております。


 第二話ですね。謎だらけだった一話を受けて、優秀なサポートAIであるアテナちゃんに解説してもらう回です。

 世間ではまだ刃異人の存在について解明できておらず、彼らが本当に宇宙人なのかどうか、その身体の構造ですら分かっていない状況でした。そんな中で、刃異人と呼んでいるのが実は剣の方で、人形の方は刃禺と呼ぶのが正しいのだと説明を受けます。開発者のデータを基に説明するアテナちゃんに間違いはありませんが、いきなりそう説明されてもよくわからないのは星野くんだけではなかったと思います。そういうものです。なんとなく分かっていただければと思います。

 如月さんはよくできた娘なので、軽率な行動が破滅を導くことを知っています。父親がそう教育したのですが、それはまた別の話。とにかく、彼女の葛藤の一部を感じていただければ、この話はそれで良いかなと思っています。ちなみにここから吹っ切れます。如月さん、吹っ切れた。まぁあれだけ泣いて本心をさらけ出した上で受け入れるって言ってもらえたんですから、そりゃあ吹っ切れますよ。

 というわけで、世界を救うために如月さんに協力することに決めた星野くんですが、彼のこれからの人生はどうなってしまうのでしょうか。この先に何が待っているのか。一緒に見ていきましょう。次回をお楽しみに!

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