9 奇襲
カイは双剣を構え直した。目の前には二体の刺客。黒い装束に身を包み、素顔を隠した彼らは、まるで影そのもののように静かに佇んでいる。緊張が張り詰めた空気を震わせ、肌に刺さるような圧力が広がる。
エレーナたちは電脳樹の後ろに身を潜め、こちらの様子を伺っていた。カイは一瞬、視線を送り「しっかり隠れていろ」と無言で伝える。しかし、エレーナたちは事態の深刻さを完全には理解していなかった。
刺客の一人が微かに膝を曲げた。その瞬間、カイの全身を電流が駆け巡るような緊張が走る。次の瞬間、もう一人が地面を蹴り、疾風のごとく駆け出した。
「くっ…!」
鋭い刃が閃く。カイは瞬時に双剣を交差させ、弾く。しかし、刺客の連携は隙がなく、一人が正面から斬りかかり、もう一人がカイの死角からナイフを突き出してくる。だが、カイはとっさに身体をひねり、ナイフを紙一重で回避。逆に双剣を振るい、刺客のマントを裂いた。
その音が静寂を切り裂いた直後、別の刺客が背後から迫る。カイは地面を蹴って前転し、刺客の刃を躱すと同時に距離を取る。
「こいつら…ただ者じゃないな…」
彼らの動きは明らかに訓練されたものだった。わずかな攻防の間に、カイはそれを悟る。
刺客たちは距離を取りながら、じりじりとカイを囲む。次の一手を見極める、そんな緊迫した空気が漂っていた。
—その時。
「…カイ!」
思わず上がったエレーナの声。
刺客の目が、一斉にエレーナたちの隠れ場所へと向いた。
カイの心臓が跳ね上がる。
「しまった…!」
刺客の一人が即座にエレーナの方へ跳びかかった。それを阻止しようと、カイは全力で駆けた。その時—
轟音と共に地面が揺れた。
電脳樹の根元が何かの衝撃を受け枝葉が振動する。空気を切り裂く音が響いた。カイは刺客を抑え込もうと双剣を振るうが、刺客の動きは素早く、まるでエレーナたちへと一直線に向かっているようだった。
「逃げろ!」
カイの叫びと同時に、エレーナと仲間たちは後方へと走り出すが刺客との距離は徐々に縮まる。しかし、それを追う影がある。鋭い足音が響き、暗闇の中に疾走する気配が広がった。
刺客の狙いは最初から戦闘ではなく、エレーナたちだったのか——。
「こんなところで、やらせるか…!」
カイは全身の力を振り絞り、刺客を追って疾走する。双剣を振り上げ、一気に間合いを詰めようとするが—
(くそっ…間に合わない!)
刺客の刃が閃く。エレーナめがけて振り下ろされるナイフ。その光景がスローモーションのように映る。
カイの顔が青ざめる。
(間に合え——!)
その瞬間、灰色の閃光が走った。
――
「何をしているんだ、カイ?」
突如として知らない声が静寂を切り裂くように響き渡る。刺客はエレーナを狙うことを断念すると、声の主の方を見る。
「カイ。アイリスに勝ったのに、こんな雑魚に苦戦するなんてことはないだろうね?」
煽るような口調で話しかけてきた人物——誰だ?
カイの疑問が顔に出ていたのか、相手は服の埃を払い、礼儀正しく上品に一礼した。
「ボクの名前はユノ。別に覚えなくていいよ…君以外はね」
にこやかに笑みを浮かべるユノと名乗った少女(?)は、一瞬で刺客との間合いを詰めると、首を掴んで宙に吊り上げた。苦しそうにもがく刺客。ユノの表情には光が宿らず、まるで冷徹なサイボーグのようだった。
もう一人の刺客が背後から斬りかかろうとする。しかし、ユノは軸足を切り替え、回し蹴りを放つ。その蹴りを直撃で受けた刺客は、まるで紙くずのように吹っ飛んだ。掴んでいた刺客を無造作に投げ飛ばし、目にも止まらぬ早業で拘束する。
「さて…これで終わりかな?」
ユノは微笑みながら、カイを見つめる。
カイは息を整えながら、彼女?の正体を探ろうと目を凝らした——。