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ネクサス・オービット  作者: 白狐
第一章
5/10

5 vsアイリス その2

瞬間、地を蹴る音が響く。カイが最初に動いた。双剣を交互に振るい、縦横無尽にアイリスへと迫る。彼の動きはまるで風のように軽やかで、それでいて鋭い。まるで獲物を追う獣のような軌道で、アイリスを翻弄する。


アイリスもまた、それに呼応するように体を旋回させ、刀を抜く。その一閃は月光のごとく美しく、敵意を込めたものではなく、ただ純粋な技として素晴らしいほどに洗練されていた。その一撃一撃に無駄はなく、彼女の動きはまるで舞うようだった。


「速い…!」


カイは驚きながらも笑みを浮かべる。刹那、アイリスの剣がカイの頬をかすめ、一筋の血が宙を舞う。しかし、カイは怯まなかった。むしろ、彼の目はこの状況を楽しむ者のそれだった。


「でも、それじゃ足りない!」


双剣の刃が青い光を帯び、風を切り裂く音が大気を震わせる。カイは一気に加速し、アイリスとの距離を詰める。まるで影が重なり合うように、二人の剣戟が交錯する。


アイリスはその場に踏みとどまり、迎撃の構えを取る。カイの一撃をギリギリで受け流しながら、彼の動きを観察する。だが、次の瞬間、カイの双剣が虚空を切り裂き、まるで残像を残すように彼の姿がブレた。


「なっ…!」


アイリスが目を見開く。カイの動きが先ほどまでと明らかに違う。まるで電脳世界そのものが彼の動きに適応し、さらに加速しているかのようだった。


(カイ…あなたは、まだ本当の力を知らない)


二人の刀剣の刃先は互いの首スレスレで止まる。


一瞬の攻防の後、二人は互いに跳び退く。そして、静かに相手を見つめた。


「…これで終わりか?」


「さあ。あなたが望むなら、まだ続けるけど?」


アイリスはわずかに微笑む。そして刀を鞘に収め、ゆっくりと歩み寄る。


「十分よ。カイ」


「何が?」


「今のあなたなら、きっと———。」


カイは双剣を見つめる。その青い光が、彼の心の奥底に眠る何かを目覚めさせた気がした。


アイリスは彼の表情を見て、確信する。カイはまだ未完成だ。しかし、その才能は確かに本物だ。


「楽しかった。またやろう、アイリス」


アイリスは少しだけ目を見開くと、再び僅かに微笑んだ。


「ええ、楽しみにしてる」


二人の戦いは終わった。しかし、これが始まりに過ぎないことを、カイは本能的に理解していた。


               ◀▷◀▷◀▷

               ◁▶◁▶◁▶


遠くから二人の戦いを見守っていた創始者マスターが、一歩踏み出す。


「———やはり、彼は目覚めつつあるようだな」


その声は低く、それでいてどこか含みのある響きを持っていた。暗闇の中から現れた、長いコートを纏った男。その目はまるで深淵を覗くように冷たく、それでいて鋭い光を湛えていた。


「カイ・アークライト…お前が本当に———の器なのか…楽しみだ」


男は静かにその場を後にする。


「儂は惜しいことをしてしまったな———」


天を仰いだ男はうっすら儚げな表情を浮かべると、その場を後にした。




男が去っていた後、アイリスはカイを連れて地上へ戻る。


「カイ、今日はここでお別れ。また明日以降、時間があるときにここに来て。待ってるからね」


そう言うとアイリスはカイに微笑みかける。そして、迷いなく踵を返し、闇に紛れるように去っていった。


カイはその背中をしばらく見送っていたが、やがて視線を上げ、《ネクサス・オービット》の広大な景色を見渡した。ここにはまだ未知の何かが眠っている———そう思うと胸が高鳴る。


「……もう少し、探索してみようか」


そう呟いて歩き出そうとした瞬間、突如として激しい眠気が襲ってきた。思考が霞み、身体が鉛のように重くなる。どうやら長時間の接続による負荷が限界に達したようだ。


「……また、明日にしよう」


カイは諦めて深く息を吐き、意識を切り替えるように接続解除(シャットアウト)した。

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