表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ネクサス・オービット  作者: 白狐
第一章
4/10

4 目覚め

『起きろ…起きろ…』


カイの脳内で誰かが呼びかけている。振り払おうにも振り払えない何かが、意識の奥深くから響いてくる。


『起きろ…起きろ……起きろ…』


その声に呼応するように、カイの体は徐々に軽くなり、内から力が漲っていく。血液が沸騰するかのように熱を帯び、視界が鮮明になっていく感覚があった。


(今なら、アイリスの動きも見切れる!)


先刻までの逃げ腰とは一転、カイは相手を挑発するように身軽に攻撃を躱し始めた。しかし、それを見たアイリスもすぐに対応し、動きのギアを上げていく。彼女の攻撃速度は一段と増し、正確さも研ぎ澄まされていく。


(ちっ…厄介だな。これじゃキリがない)


『起きろ!!』


その声はもはや囁きではなく、脳内に直接響く雷鳴のようだった。頭蓋の奥まで振動し、体中に木霊する。その瞬間、カイの意識に《ネクサス・オービット》に関する情報が奔流のごとく流れ込んできた。圧倒的な情報量に脳がヒートアップしそうになるが、なんとか理性を保ち、この状況を打開する最適な答えを探る。


               ◀▷◀▷◀▷

               ◁▶◁▶◁▶


カイはふと動きを止めた。先ほどまでの必死の防戦が嘘のように、静かに俯く。その唇はうっすらと口角を上げ、不敵な笑みを浮かべていた。


突如として変貌したカイの雰囲気を感じ取り、アイリスは動きを止める。まるで獣が本能的に捕食者の存在を察知したかのように、一瞬の躊躇が生まれた。


一方、遠くから戦いを見守っていた創始者マスターは目を見開き、その顔には歓喜の笑みが広がっていく。


「うむ、目覚めたか……」


カイは静かに片腕を振り、自身の真横に突き出す。その動作に呼応するように、宙から突然、青く光る両刃の短剣が現れた。


短剣の刃は深い青色に輝き、微細な波紋のような光が表面を這っている。その刃を見つめるカイの目には、確かな覚悟と、新たな力を得た者の自信が宿っていた。


カイは短剣を持ち直すとアイリスを凌ぐスピードで間合を詰める。


刹那、お互いの刃が交わり周囲の空気を激しく震わす。


アイリスは一瞬目を見開くとまた元の表情を取り繕う。だが、その目には先程までは感じられなかった強敵との戦いを楽しむようなそんな目をしていた。


激しい打ち合いが続き、カイはじわじわと体勢を崩される。一度大きく後ろへ跳び退くと短剣を正面に突きつける。そして一言。


「まだまだいくぜ!」


その戦いを楽しむ者の声に呼応するかのように短剣は半分に分かれる。


「それが、あなたの本当の武器なのね、カイ」


そう言ったアイリスの声は昔、いつも隣りにいた少女と遜色ない優しく、温かい声をしていた。


カイは双剣を構える。アイリスも刀を鞘に収める。お互いに精神を統一し最後の一撃のために、己に最適な間合を確保しようとする。熱の籠もっていた空気は消え去り、静寂に包まれた空気が二人を包んだ。


彼らの間に流れるのは、幼き日々の記憶と、今この瞬間の戦士としての誇り。


(これは戦いであり、同時に…)


カイは息を整えながら、かつての自分とは違う何かが心の奥底から溢れ出してくるのを感じていた。アイリスの表情もまた、かつての親しみ深い笑顔と、今の戦士としての真剣なまなざしが交差している。


「——行くぞ!」


カイとアイリスの間合いが、一瞬でゼロになる。


その瞬間、電脳世界の空間が波打ち、次元そのものが歪んでいった——。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ