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第7話 まずは使用人から(6)

翌朝、早朝に父に呼ばれた。用意された動きやすい服に着替え、父と合流すると、屋敷の裏に広がる森へと向かう。鳥のさえずりと朝露の香りが漂う中、しばらく進むと、小さな木製の小屋が現れた。


「ここだ。これから剣術の稽古を始めるが、まずはアリシアに合う木剣を選ばないとな。」


小屋の扉を開けると、棚や壁にさまざまな形状や材質の木剣がずらりと並んでいた。形状の違いに驚きつつも、父の言葉に従って木剣を手に取り、握り心地を確かめていく。ある程度試したところで、手にしっくりと馴染む一本を見つけた。


「これが一番握りやすいわ!」

木剣を振りながら、父に話しかける。


「ところで、剣術の先生はいつ来るのかしら?」

振り返りながらそう尋ねると、父はなぜかきょとんとした表情を浮かべた。


「…先生なら、私だが。」

「…え?」


思わぬ返答に驚き、思わず木剣を構えたまま固まる。

「エレノアとも相談したんだが、結婚前のお前が“剣術を習っている”なんて噂が広まるのは、貴族たちに良い印象を与えない。だから外部から師匠を呼ぶのはやめることにした。」

そう言う父の声は穏やかだが、どこか真剣さが滲んでいた。忙しい父の時間をもらうことが申し訳なく、少し俯いてしまう。


「その…実は子供に剣術を教えるのが夢だったんだ。娘しかいないから叶うことはないと思っていたが、まさかこんな機会が訪れるとは思わなかった。」

私に気を遣ってか言葉を続ける父は、どこか照れくさそうに視線を逸らした。


「それに、若い頃に少し剣術を学んでいてね。大したことはないが、基礎ぐらいなら教えられると思う。」


父は控えめに話しているけれど、私は知っている。

父はアカデミー時代、剣術科で主席だった。剣を振ればその名を知らない者はいないほどの実力者でありながら、騎士にならず辺境に戻り、母エレノアとの家庭を選んだ。


卒業してから何年も経つけれど、日々鍛錬を欠かさない父が今衰えているとは到底思えない。

その父が私に剣術を教えてくれるなんて、夢のようだった。


「ありがとうございます…。私、一人前になれるように頑張ります!」


「よし、いい返事だ。朝の限られた時間になるが、無理せず体力作りから始めよう。剣術の基礎は地道な積み重ねだ。時には厳しくなるかもしれないが、その覚悟でついてきてくれ。」

父の手が私の肩に置かれる。その温もりに、どこか背中を押される気がした。


「はい!よろしくお願いします!」

小さな木剣を握る手に力を込め、私はこれから始まる新たな挑戦に胸を躍らせた。



「…これは才能なのだろうか?」

いぶかしげな顔で父が私の素振りをじっと見つめる。


「…変かしら?」

少し不安になりながら聞き返すと、父は眉を寄せつつも静かに首を振った。


「いや、良すぎる…。筋力がまだ足りないから動きが甘い部分はあるが、未経験とは思えないほど形になっている。」


その言葉を聞いて、私は思わず木剣を握る手に力が入る。

過去に、独学で剣術を練習していた記憶がよみがえる。あの時の鍛錬が、少しでも今の自分に生きているのだろうか。


「そうかしら…。でも、まだまだこれからね。」

父の視線に緊張しながらも、私は少しだけ誇らしさを感じていた。

「そうだな、しばらくは素振りと走り込みをしよう。無理せず、ゆっくり筋肉をつけていくように。」

「はい!」


しばらくは言われた通り、走り込みと素振りだけを続けていたが、今まで鍛錬をしていなかったせいか、数日間はひどい筋肉痛に悩まされ、2日に1度のペースに調整してもらった。


一週間後のある日、訓練を終えた父とともに屋敷に戻ると、何やら騒がしい気配が漂っていた。


「旦那様、お戻りですか!今、大変なことが…!」

執事長が慌てて駆け寄ってきた。父もその言葉を聞いて険しい表情になる。


「アリシアお嬢様のお部屋で…」

「今すぐ行こう。」


執事長の言葉を遮ると、父は私に目で合図を送り、部屋へ向かって走り出した。

部屋の近くに差し掛かると、誰かの叫び声が聞こえてきた。

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