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第5話 まずは使用人から(4)

家族会議の後、胸に渦巻く不安を消すかのように熱い紅茶を一口飲んだ。

温かな香りと熱が身体をじんわりと包み込み、自然とため息が漏れる。その息が熱気を逃すように天井へと昇っていくのを見つめていると、ふと目の前の母と視線が合った。


「今まで本当にごめんなさい。」

母は俯き、少し震える声で続ける。

「知らなかったではすまない話だけれど…もっと早く異変に気付いていたらと、とても反省しているわ…。」


その姿を見ると、胸が締め付けられるような思いがした。


「ううん、私がもっと早く相談していたら良かったの。今後は困ったことがあったらすぐに相談しても良い?」


母は顔を上げ、愁いを帯びた目で私を見つめながらも、少しだけ微笑む。

「もちろんよ。何があってもあなたの味方よ。」


その笑顔に、少し心が軽くなった。


「私も済まなかった。」

隣で父が静かに言葉を紡ぐ。


「何があってもアリシア、アメリアの味方だ。困ったことがあったらすぐに相談するんだぞ。」


「私もお姉さまの味方よ!何でも任せて!」

妹のアメリアがふんぞり返るような仕草を見せると、母も父も思わず吹き出した。それに釣られて私も笑い出す。


小さな笑い声が食堂に響き渡る。こんなにも温かく、穏やかなひとときがあることに、胸の奥から感謝が湧き上がる。


"あぁ、この人生は幸せだ…。"

心の中でそう静かに呟きながら、私はもう一口、紅茶を飲んだ。


「さて…もっと話していたいが、そろそろ行かなければいけない。アリシア、アメリア、何かしたいことはあるか?」

父が柔らかい口調で問いかけてくる。


「いろいろなことがあっただろうから、何か楽しいと思えることを言ってほしい。」

「…剣術を学びたい。」

ふと口から出てしまった言葉に、その場にいた全員がこちらを見る。

「アリシア、剣術を学びたいのか…?」

驚いた表情の父に、私は無言でうなずいた。


「…わかった、考えてみよう。アメリアは?」

「私は特に思い浮かばないから、したいことができたときに伝えるわ。」

「わかった。使用人の件はこちらで対処する。今日はゆっくりするように。では行ってくる。」

父を見送りに、母も一緒に食堂から出て行った。


二人が出たと同時に、アメリアが興奮気味に話し出す。


「剣術がしたかったの!?すごく驚いたわ! どうして急に!?」


私は一瞬、過去を思い返す。

魔王となってから、勇者を倒すために剣術を独学で鍛錬していた。最後の戦いでは諦めてしまったが、剣を振るうことが何より楽しかった。勇者との戦いは特に刺激的で、剣を交えるたびに胸が高鳴ったものだ。ただ、魔王としての力でどうにか乗り切れていたが、独学ゆえに爪が甘く、剣術を本格的に学びたいという思いは常にあった。


しかし、そんなことを言うわけにはいかない…。


「…今回の件で、自分の身は自分で守れるようになりたいと思ったの。今は力もないから、使用人相手ですらどうにもならなかったし…。それに、剣術って前からかっこいいと思ってたの。」

「なるほどね。でも、お母さまには内緒よ。実は私、屋敷にいる暇そうな衛兵を捕まえて、護身術を教えてもらってるの。少しくらいなら自分の身を守れるようになったわ。もし気が向いたら、いつでも教えるわよ!」

母と同じアメジスト色の瞳を輝かせ、いたずらっぽく笑うアメリアに、私もつられて笑みを浮かべた。


「そうね、お願いするわ。」

「今日はゆっくりするよう言われたけれど、私の部屋で早速しましょう!手加減はしないわよ!」

「え…。」

驚く私の手を握り、興奮気味に歩き出した。力強く握るその手に日頃の鍛錬が感じられる。

これからどうなるか、考えたくない…。

断ることができないまま、厳しい練習から解き放たれたのは昼食前であった。

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