第4話 まずは使用人から(3)
朝の身支度をようやく終えた私は、母と一緒に遅めの朝食をとるため、食堂に向かっていた。いつもなら、父と妹を含めた四人で朝食をとることにしているが、今日はだいぶ遅れてしまった。
もういないだろうと思ったが、扉を開けると、心配そうな面持ちの父と妹がいた。
「大丈夫か? 何かあったのか?」
銀髪をなびかせ、父が急いでこちらに来るが、私の顔を見るなり、動きを止め、顔をしかめた。
「…目が腫れているじゃないか。何があったのか説明してくれるか?」
父のあまり見ない威圧感に思わず後ずさりするが、母は構わずに遮る。
「事情は後で説明しますから、まずは朝食を食べましょう。あなたたちはもう済ませたのかしら?」
「あぁ、あまりにも遅いので、先に済ませてしまったよ。ただ、朝食が終わるまでここで待っていても良いかい?」
「ええ、もちろんよ。アメリアも、もう自分の部屋に戻って大丈夫よ。」
そう告げると、父と同じ銀髪をなびかせながら、双子の妹アメリアがそっとこちらへ歩み寄る。
私たちは髪色こそ違えど、顔立ちは瓜二つだ。しかし、父譲りの希少な銀髪を持つアメリアは、このノルディア地方でも「美しき令嬢」として評判が高い。
「私も一緒に聞くわ。仲間外れは嫌だもの。」
冷たいタオルを手にして、私に差し出す。
「これで目を冷やしてね。」
母と同じアメジスト色の瞳が心配そうに私を見つめる。私の顔を見るやいなや、すぐに用意してくれたらしい。なんとも気配りのできる妹だ。
目に当てるととても気持ち良い。妹や父の優しさも相まってまた泣きそうになる。
「さあ、美味しいご飯を食べましょう。行動の前にはまずは栄養補給ね。」
母が優しく背中を撫でて、落ち着かせてくれた。
椅子に座り、朝食が運ばれてくるのを待つ。魔力を使ったのとたくさん泣いたのもあってかお腹がかなりすいている。どれも美味しそうに見える。
私と母は遅めの朝食を食べ始めたが、私たちが食べ終わるまで、二人はそわそわしながら待っていた。
朝食を食べ終え、一息ついたころ母が口を開いた。
「アリシアが使用人から暴行されていたの。」
二人にとってはあまりに衝撃的だったのか二人そろって立ち上がった。
「なんてことだ!その使用人を今すぐ罰してくる!」
「なんてこと!お姉さまにそんなことをするなんて!四肢が無事でこの屋敷から出られるなんて思わないことよ!」
二人とも怒りを露に部屋を出ようとする。どの使用人かもわからないのに…。
「二人とも待って、その使用人はもう自宅に返しました。処罰は追って伝えるように指示しています。あとアメリア、あまり物騒なことは口にしないように。」
二人は母の言葉で少し落ち着き、席に戻った。
「いやはや、私としたことが、最後まで話を聞かずに…。カッとなってしまった。」
「嫌だわ、私ったら。どうかしてたわ。」
二人が落ち着いたのを確認し、母は話を続ける。
「今日だけのことではなく、以前から続いていたようよ。暴行だけでなく、貴重品の盗難や、大事にしているものを壊されたりすることもあったそうよ。」
二人はまた勢いよく立ち上がる。
「なんてことだ! 前からだったなんて! 今すぐ全使用人を解雇する!」
「なんてこと! 解雇だなんて生ぬるいわ!! むち打ちからの打ち首よ!」
再び二人は怒りに任せて部屋を出ようとする。そんな二人に、母はあきれた表情で言う。
「二人とも待って。全使用人を解雇にすることは現実的ではないわ。それに、アメリア、そんな物騒なことを口にしないで。」
母の言葉で、二人はようやく冷静さを取り戻す。
「そうだ、確かに現実的ではないな。ついカッとなってしまった。」
「嫌だわ、私ったら。つい出てしまったわ。」
温厚なはずの二人の意外な一面に驚きながら、同時に三人のやり取りを見ていたら、なぜか笑いがこみあげてきた。
笑い始めた私に三人の視線が集まり、私はハッとする。
「あ、ごめんなさい。つい笑ってしまったわ。心配してくれてありがとう。もう大丈夫だから。」
「本当に大丈夫なのかい?」
父の深い青色の瞳が、心配そうに私をのぞき込む。
「うん、大丈夫。でも貴重品を盗んだ犯人は見つけたいと思っているの。あとは信用できる使用人を探したいの。」
「確かに。今後も起こらないとは限らないからな…。」
父は腕を組んで考え込んでいる。
「今まで信用できそうな使用人はいたかい?」
父の言葉に私は今までの使用人を思い出す。
「…一人だけ優しくしてくれる使用人がいたわ。一度しかあったことはないけれど、淡い栗色の髪に深い緑色の目で、名前は確か…アデルだったかしら?」
「わかった、後で執事長に探させよう。盗難の犯人に心あたりはあるかい?」
「心あたりがありすぎて、わからないわ…。ただ考えがあるの。」
自分の計画を思い浮かべると、少しだけわくわくした気持ちが湧き、それが声にも表れてしまう。
父もそれを感じ取ったのか口角をいたずらっ子のように上げた。
「ふむ、聞かせてもらおうか。」