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第3話 まずは使用人から(2)

母の登場に、ロザリーの動きが止まった。彼女は一瞬、驚愕と恐怖が入り混じった表情を浮かべ、すぐに私から手を離した。


「お、お嬢様が…私に乱暴を…!」と、必死に言い訳を始めたが、母は鋭い眼差しを彼女に向け、低く怒りを込めて言い放った。


「私の娘にこんな汚い雑巾を押し付けようとするなんて、どういうつもり?」


ロザリーは震えながらも何かを弁解しようとするが、もはや言い逃れができないと悟ったのか、口を閉ざした。母は彼女に一歩近づくと、冷ややかな声で命じた。


「すぐにこの場を去りなさい。処罰は後で決めるから、自宅で連絡を待ちなさい」

その言葉に、ロザリーは青ざめた。


「そんな!! 私は10年もデロワ家に仕えてきております!! 辞めるわけには…」

「仕えていた?髪を掴み、雑巾を押し付けることが『仕える』ことならば、そんな使用人は不要よ」


母の言葉は容赦なく、冷たい態度にロザリーは諦め、重い足取りで部屋を後にした。彼女の後ろ姿が完全に消えると、母は私に向き直り、優しい目を向けてくれた。


「大丈夫だったの?私の不届きで嫌な思いをさせてしまって、ごめんなさいね。何があったのか教えてくれる?」


母の優しいアメジスト色の瞳を見た途端、これまでの緊張の糸が切れ、涙がこぼれてきた。母は何も言わず、そっと私を抱きしめ、背中を撫でてくれる。その温かさに包まれて少しずつ落ち着くと、私は震える声で話し始めた。


「実は――――」


私はこれまで使用人たちから受けていた仕打ちを、勇気を振り絞って母に話した。ロザリーだけでなく、他の使用人たちも似たような態度を取ってきたこと、さらには母から贈られた宝石のついたプレゼントが盗まれていたことも。

家族には"模範的な使用人"として振る舞う彼らを告発しても、信じてもらえないかもしれないという不安が頭をよぎる。それでも母は私の言葉を遮ることなく、ただ静かに背中を撫で続けてくれた。


話し終え、私がひと息ついたのを見計らい、母は静かに口を開いた。


「つらい思いを話してくれてありがとう。そんなことがあったなんて…。今まであげたプレゼントを付けていない理由がわからなかったけれど、そういう事情だったのね。」

その声には深い慈しみが込められていたが、アメジスト色の瞳には確かに怒りの色が浮かんでいた。


エレノア・デ・ラ・クロワ――深い栗色の髪と紫の瞳を持つ彼女は、その聡明さと優しさで家族だけでなく周囲の人々にも愛されている女性だ。若い頃から強大な神聖力を持ち、都市のアカデミーでは将来を期待される存在だった。だが、父と出会い、アカデミーでの未来よりも辺境の地での生活を選んだ。

今なお彼女の神聖力と慈愛に満ちた心には多くの人が救いを求め、その声が絶えることはない。娘である私にとっても、彼女はいつだって光そのもののような存在だった。


母や父に相談しようとしたことは、もちろん何度もあった。だが、使用人たちにいじめられているという事実を知れば落胆させてしまうのではないか、信じてもらえないのではないかという不安が私の心を支配していた。

けれど、今の母を見るとその不安は杞憂だったのだと痛感する。


「今まで話せなくてごめんなさい…。嫌われてしまうんじゃないか、信じてもらえないんじゃないかって、不安だったの…。」

「不安になる気持ちはわかるわ。でも、もっと私を信じてくれても良かったのよ?何があっても私たちはあなたの味方よ。」

母は私を優しく慰め、再びそっと抱きしめてくれる。その温かさに、私の心は少しずつほぐれていった。


「さあ、どうするかはこれから考えるとして、まずは身支度を整えて気持ちを切り替えましょう。こんな臭い部屋もさっさと出ましょう!」

「あ、あの…クマのぬいぐるみもこんな状態になっちゃったんだけど、治してあげたいの。一緒に持って行っても良いかな?」

私はベッド脇に置かれた、無惨な姿になったぬいぐるみを指さす。母はそれを見ると、再び瞳に怒りを宿らせた。


「もちろんよ!すべてあなたの思うままにしていいのよ。プレゼントを大事にしてくれて、本当にうれしいわ。」

そう言って母はぬいぐるみをそっと抱きかかえ、私の背中に手を当てて部屋を出た。


その後、私が準備を終えるまで母はずっとそばにいてくれた。母の存在が圧倒的な抑止力となり、使用人たちの態度は驚くほど変わった。ぎこちないながらも、いつもとは比べものにならないほど丁寧な対応を受け、私は快適に支度を終えることができた。


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